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高校生起業家が目指す世代を超えた「共創」

2021年5月11日 22:05
高校生起業家が目指す世代を超えた「共創」

「誰もが社会課題を持っている」。そう語る山口由人さん(16)は、高校生活を送りながら、一般社団法人Sustainable Gameの代表を務める。中高生と企業が共創し、持続可能な世界を目指す同団体。活動を通して山口さんが伝えたい思いとは。


■「抗議」ではなく「共創」で世界を変える

「社会課題を理想と現状との乖離だと考えると、誰もが社会課題を持っています。課題は人によって異なるので、当事者の課題をきちんと理解して取り組むことが大切です」

Sustainable Gameの代表、山口さんはこう語る。団体の理念は「愛を持って社会に突っ込め」。他者を大切にする心と責任を持ち、行動力を持って社会課題に取り組む人を増やそうと、活動している。そのために実践するのが、3つのプロセスだ。

1つ目は「人を知る、世界を知る」。
SDGsやソーシャルグッドに関心を持つ人が集まる、オンラインコミュニティを運営。自分の世界観を広げ、他者へ興味を持ってもらうことを目指している。

2つ目は「課題を発見・探究する」。
中高生が課題を発見するフィールドワーク「課題発見DAY」を、企業やNGO団体と共に行う。料理レシピサイト運営会社とのイベントでは、チームごとに料理を体験後、ヴィーガンやムスリムに配慮していなかったことなどに、課題を発見した。

3つ目は「中高生と企業との共創」。
企業の新事業に対して、中高生が率直に意見を出す。どうすればサステナブルな事業になるかを考え、中高生と企業が共に意思決定する取り組みを提案している。

社会課題の当事者や発見者が一人で行動を起こすのは難しい。だから山口さんは「多くの人に関わってもらい、共に創る体験を大切にしたい」と話す。

「社会課題に対して『抗議』する同世代もいます。でも僕は『共創』が最も速く世界を変えられるアプローチだと思っているんです。企業とつながることで、中高生の自立支援にもなります」

企業側にも、共創するメリットはある。

「Z世代とも呼ばれる今の中高生は、社会課題に対して敏感です。SNSでは、世界中の同世代が課題を分かりやすく発信し、議論している。今、例えばレジ袋有料化など、政府からの要請で企業が動いている状況ですが、Z世代とつながれば、企業側もいち早く社会課題に対応できるのではないでしょうか」


■自分は暴力的な存在ではないか

幼少期から中学入学前までをドイツで過ごした山口さん。小学5年生のときには、シリアからの難民が押し寄せる状況に遭遇した。そして、シリア難民が虐げられる姿を目の当たりにする。

「日本人である自分も、ドイツではマイノリティです。いじめられることもありました。シリア難民の方々を見ていて、自身の経験が重なりましたね。でも、結局何もできなかったんです」

行動を起こせなかったことにモヤモヤを抱えたまま、山口さんは帰国する。そして帰国後、学校の授業でSDGsを知った。共感したのは「誰ひとり取り残さない」という理念だ。

「ドイツでの経験もあって『取り残されている人がいる』ことを実感していたんです。廃れている地域と栄えている地域の差を見る機会もありました。一方で、両方の地域を自由に行き来できる自分を、取り残された人たちから見たら、暴力的な存在だなと感じることもあったんです」

山口さんは同時に、自由に動ける立場にあるからこそ、果たすべき責任があるのでは、とも考えた。SDGsの理念は、そんな葛藤を言語化してくれるものだったのだ。

「僕にとってSDGsは、自分の世界観を広げてくれる一つのツールです。『安全な水とトイレを世界中に』『人や国の不平等をなくそう』などの17の目標はどこかでつながっていて、身近な問題に一つ取り組めば、それが他の問題にも関係しているかもしれない。知らなかった問題に気づく、きっかけをもらえるものだと思っています」

SDGsというツールを使ってもっと面白いことができないか。そこで思い付いたのが、放課後に街を歩きながら課題を発見するゲームだった。ルーレットで決めたテーマに沿って、課題を見つけていく。

このゲームを教育プログラムに発展させ、企業に紹介したことが、団体設立のきっかけになった。背中を押してくれたのは、周囲の人たちだ。

「団体の仲間もそうですし、多くの大人の方から、活動に対して熱量を持って応援していただきました。ある社長さんは、僕の覚悟をずっと問い続けてくれて。『君だから投資したい』と言ってくださったんです」

メディアに取り上げられる中で、自身がコンテンツとして消費される感覚を味わうこともあった。しかし、活動の内面を見て応援してくれる人もいたのだ。その人たちの存在こそが、山口さんの覚悟を支えている。

「愛を持って社会に突っ込む人が、もっと生きやすい社会になってほしいですね。そういう存在が当たり前になればいいし、スポットライトの当たり方が、もっと温かくなればと願っています」


■二項対立が無くなり、みんなが地球人になれば

「今後は、まず同世代で日本をもっと面白くしてくれる人を増やしたいですね。そして、その人たちをサポートする仕組みもつくっていきたいです」

そのための取り組みの一つが、今月リリースした公開オーディション型番組「SPINZ」だ。Z世代の芸能人と公募を通過した「ソーシャルグッドリーダー」が、企業や専門家のサポートを受けつつ、「食と健康」「教育と格差」といった社会課題に取り組む様子を配信する。

そして山口さんは、「中高生だから発見できる課題がある」との思いから、高校卒業までに団体の代表を辞し、次世代に引き継ぐつもりだという。

「大学に進学したら、“目的工学”やアイデンティティによる分断について研究したいです。知見を増やしつつ、世界各地に仲間をつくりたい。自分を進化させるための、燃料を蓄える時期にしたいですね」

目指すのは、世の中の二項対立を無くすことだ。

「健常者と障がい者、富裕層と貧困層。社会にはさまざまな対立があります。対立があると、当事者の声は届かない。だから、アイデンティティによって分断されてしまう現状に対して、イノベーションを起こしたいんです。そのためにまずは、世代の枠組みを超えて、中高生と企業が一緒に取り組む事例を生み出したい。そして最終的には、全員が分け隔てなく地球人になればいいなって。対立ではなく、共創が当たり前になる世界をつくりたいです」


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。