×

「全てをゼロから」高梨沙羅 決断を語る

2021年5月8日 5:19
「全てをゼロから」高梨沙羅 決断を語る

日本テレビ「news zero」より“Episode0”~高梨沙羅…全てをもう一度ゼロから~

今シーズン、W杯3勝、9回表彰台に上った高梨沙羅選手。通算勝利数は男女通じて歴代最多の60勝、表彰台回数は109回となり、ダブルでギネス世界記録に認定されました。

高梨選手(以下、高梨)
「自分の中ではあまり実感はなかったんですけど、他の各国のコーチであったり、色んな人に声をかけて頂いて。やっとその実感が湧いた」

15歳でW杯初優勝し、積み上げてきた前人未到の偉業。しかし、その過程には苦しんだ日々が。

高梨
「もうこれ以上は女子ジャンプでトップ争いに食い込めないなって感じてから、ジャンプを全部、変えていかないとついていけない」

弘竜太郎アナウンサー(以下、弘)
「どんなところを変えましたか?」

高梨
「全部です。スタートからテイクオフまで…」


「スキージャンプ以外でハマっていることとか、得意なことってあったりされるんですか?」

高梨「写真とかアートとかが好きなので、遠征中に行った街とかに美術館があると遊びに行ったりはしてました」


「それがいい気分転換に?」

高梨
「はい。勝手に題名つけたり。『ムンクの叫び』がオスロの美術館にあったんですよね。これを言ったら本当に怒られると思うんですけど…『携帯をトイレに落として取れなくなっちゃった人』」


「大喜利に近いですね(笑い)」

1996年、北海道で生まれた高梨選手。家族や友達の影響でスキージャンプを始めたのは8歳の時でした。

高梨
「ジャンプを初めて飛んだ時に浮遊感というか、本当にこう一瞬ふっと浮く感じが楽しくて」


「恐怖心とかは始めた当初はなかったんですか?」

高梨
「ありましたね。でも徐々に小さいジャンプ台から大きいジャンプ台に慣れていくので、突然大きなジャンプ台を飛ぶことはないですね」


「初めて今のような大きなジャンプ台を飛んだというのはおいくつなんですか?」

高梨「中学生ぐらいの時ですね」

弘「その時はどんな感覚だったんですか?」

高梨
「もう考えたら飛べなくなっちゃうので、とにかくゲートに座って手を振られたら出ようと思ってました。私が初飛びだって思えないくらい、スムーズに出過ぎて、周りの先輩からもびっくりされた。当たり前みたいな感じでゲートに座って振られて、スタートしたので」

その才能はすぐに世界を驚かせます。中学2年生で挑んだ大会では、141mの大ジャンプ。シニアの女子選手も飛んだことのない未知の距離でした。

翌年、15歳でワールドカップ初優勝を果たすと、2013・2014年シーズンはW杯13戦10勝をあげ、ぶっちぎりの個人総合優勝。直後のソチ五輪は金メダル確実と思われていました。しかし、結果はまさかの4位。4年後の平昌五輪では銅メダルを獲得しましたが、目標の金メダルには届かず。そこで、高梨選手は大きな決断をします。

高梨
「全てを出し切っての銅メダルではあったので。もうこれ以上は女子ジャンプでトップ争いに食い込めないなって感じてから(ジャンプを)変えていけないとついていけないというか」


「具体的に何かどんなところを変えましたか?」

高梨
「全部です。スタートの下からテイクオフまで」

今までのジャンプを捨て、ゼロからすべて作り直す…それは天才少女と呼ばれた高梨沙羅選手にとって最大の試練であり、挑戦となりました。

身長152センチと小柄な高梨選手にはもともと不利な点が。それは、助走のスピード。大柄で体重のある外国人選手に比べ、助走スピードがつきにくく、飛び出しが遅れています。これが飛距離の差になっていました。取り組んだのは助走姿勢と踏み切りの改善。

高梨
「重心の位置というか、だいぶ下まで下がるようになってきた」

以前よりも素早く低い助走姿勢に入ることで、重心を下げ、助走スピードをアップ。さらに、脚力を鍛え、より力強い踏み切り目指しました。

高梨
「平昌五輪の時は少し上体の方が逃げている感じ。今はカンテ(踏み切り台)にしっかり力を加えつつもスピード感のあるジャンプになっている」

競技に関わらない人には、ほとんどわからない微妙な差。しかし、この改善には長い時間がかかりました。

高梨
「やっぱり試合の時に何も考えなくても体が動く状態にしていなきゃいけないので、それまでの練習をするという感じですね」


「なるほど。とにかく無心で」

高梨
「はい」

平昌五輪後の2シーズンは試行錯誤でほとんど結果が出ず。しかし、積み重ねた努力は裏切りませんでした。

高梨
「練習をすればするほど自分の自信になっていって。滑ってきてからテイクオフ(踏み切りの瞬間)までの、言葉で考えなくなるまで練習すると結構入りやすいですね。ゾーンに」

そして、今シーズンついにその成果が出ます。W杯3勝をあげ、個人総合でも2位となりました。


「今この時期というのは高梨選手の中では、大体何%ぐらい新しいものが完成されているんでしょうか?」

高梨
「大体60とか70くらいかなと思っています。まだテイクオフに手をつけてから、直さなきゃいけないところもありますし。空中にまで手を目を向けられていないことが現状なので、まだまだ調整したいところはたくさんあります」

1年を切った北京五輪の思いは…。

高梨
「もちろん目指しているのはオリンピックでの金メダルではあるんですけど、そこに自分のピークを持っていけるように、目の前のやるべきこと一つ一つをつなげていって、自分の全部を出し切れるような結果で終わるように頑張っていきたいと思います」