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天皇陛下 トンガ訪問でうれしいサプライズ

2021年4月19日 12:28
天皇陛下 トンガ訪問でうれしいサプライズ

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。今回は、南太平洋唯一の王国で、熱心な親日国のトンガとの交流について、長年、皇室取材に携わってきた日本テレビ客員解説委員の井上茂男さんとともにスポットを当てます。

――こちらは、どういった時のものでしょうか?

2015年7月、トンガで行われたツポウ6世国王の戴冠式です。皇太子時代の天皇陛下が、皇后雅子さまと一緒に参列されました。お二人は玉座のすぐそばに席が用意され、最高の礼で迎えられたことがわかります。病気療養中の皇后さまは、オランダのウィレム・アレクサンダー国王の即位式以来2年2か月ぶりの海外訪問でしたが、にこやかに、柔らかに親善に努められました。

――皇后さまの笑顔がとても印象的な1枚ですね。陛下のトンガ訪問は、この時が何回目だったのでしょうか?

陛下にとってはこれが3度目の訪問でした。初めての訪問は2006年、先々代のツポウ4世の葬儀です。さらに2008年、陛下は先代のツポウ5世の戴冠式で訪問され、この時、私も同行取して取材しました。

――トンガ王国はニュージーランドの北東、南回帰線のすぐそばにありますが、どんな国なんですか?

トンガは170ほどの島々からなり、総面積720平方キロ余り、日本の「対馬」ほどの広さの国土におよそ10万人が暮らしています。大柄な人が多い国で、ラグビー日本代表の中島イシレリ選手やマフィ選手らワールドカップで活躍したトンガ出身の選手を思い出す方も多いと思います。草ラグビーを楽しむ姿があちこちで見られ、ラグビーが盛んなことで知られます。大変な親日国でもあります。トンガでは陛下が葬儀に参列されたツポウ4世の指示で小学校の算数教育に日本の「そろばん」を、高校の第2外国語に日本語も取り入れています。日本の大相撲に力士を送ったこともありました。

――井上さんが取材をされたのは、先代の国王の戴冠式なんですね。

こちらは2008年、陛下が2度目の訪問で、先代のツポウ5世の戴冠式に出席された時の様子です。トンガは南太平洋唯一の王国です。戴冠式はキリスト教の教会で行われました。英連邦にも属し、戴冠式はどこか英国風でした。王冠が授けられる場面など、とてもおごそかな儀式だったのを覚えています。

「戴冠式」の後の記念撮影の場面では、タイからはシリントン王女、ブータンからソナム王女、イギリスからはグロスター公爵夫妻が来ました。陛下にとっても初めて出席された戴冠式でしたが、皇太子を送ったのは日本だけで、ツポウ5世国王は陛下に「遠路はるばるご参列いただき厚く感謝いたします」と述べたそうです。

――滞在中、どのような行事に出席されたんでしょうか?

2泊3日の滞在でしたが、夕食会、昼食会、チャリティーコンサートなどさまざまな行事があり、忙しく過ごされました。その中で印象的だったのは、戴冠式の夜、1時間ほど遅れて午後11時過ぎから始まった舞踏会です。「ダンシング・クイーン」「ルパン3世」のテーマなどの曲が演奏され、招待客が中央に出て踊ります。とてもカジュアルな雰囲気でした。

侍従が「陛下も踊られるかも知れません」と言うものですから、最後まで1人粘ってその瞬間を待ちましたが、陛下はずっと歓談をされていました。ブータンの王女が引き上げたのを潮に陛下も辞去されましたが、時計をみたら時刻は午前1時20分になっていました。日本では考えられない時間でした。

――午前1時すぎまでとは驚きますね。

さらに翌朝8時に、陛下が宿泊されているホテルで“驚き”がありました。トンガには、国王が大事な客人を迎えた時に、宿舎に竹笛の奏者を遣わし、部屋の前で目覚ましを兼ねて演奏させる“サプライジング・プレゼント”という風習があるそうです。陛下は思いがけない非常に静かな音色を楽しまれたそうです。

驚いたのは、「伝統的王家午餐会」です。野外の特設テントが会場でしたので、ハエなどの虫がたくさんいて、細い棒を手にした女性たちが食べ物をピシピシ叩いて虫を追い、その横で招待客は食事をとっていました。現地の主食のタロイモやヤムイモなどをバナナの葉に包んで蒸したものや、豚の丸焼きなどがどさっとテーブルに並べられ、陛下は後に「トンガの食文化にふれつつ大変おいしくいただきました」と振り返っていましたが、取材していてちょっとびっくりする光景でした。先方の歓待に身を任せる陛下の親善の姿勢を見た思いでした。

――そして陛下は、7年後に三たび訪問されるわけですね。

ツポウ5世は病気のため亡くなり、2015年、陛下はツポウ6世の戴冠式に皇后さまと2人で参列されました。皇后さまは「戴冠式」と「戴冠式昼食会」だけに出席する予定でしたが、予定にない在留邦人との面会にも同席され、雅子さまスマイルを見せられました。トンガ王室は、王女主催昼食会への出席を控えられた雅子さまのために、豚の丸焼きなどをホテルに届け、大変な気遣いを見せたということです。

――陛下の即位の礼に国王は来日しているんですよね。

おととしの即位の礼に、ツポウ6世国王が夫妻で参列しています。日本の皇室ならではの温かい交流の上に、こうした日・トンガ関係が育っていると、とてもうれしいことだと思いました。

――トンガも日本側もお互いが交流を大切にして、お互いの存在を大切にしていることがよくわかりますね。

【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説委員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。