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専門家に聞く…変異ウイルスで第4波は?

2021年3月20日 9:00
専門家に聞く…変異ウイルスで第4波は?

新型コロナウイルスの政府の政策決定やワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに聞く企画。第5回は、変異ウイルスなど新型コロナウイルスの情報分析・監視をする国立感染症研究所の感染症危機管理研究センターの斎藤センター長を取材した。


■「変異ウイルス」国内の蔓延状況は?

――全国で変異ウイルスが見つかっているが、すでに日本で流行?

全国津々浦々にというよりは、まだまだら、地域差があるかなと思います。どの程度というのは難しい表現になりますが、少しずつ増えつつあるという印象は持っています。

――海外での状況は?

イギリス、南アフリカでは患者さんの大半を占めるようになっていて、ブラジルでもかなり数が増えている状況です。各国で取られている対策は違うので、一概にイギリスで起きたくらいのことが日本で本当に起きるかというと、わからないです。


■拡大前のいま「抑制する余地がある」

――日本は年末から水際対策を強化してきた。対策で、変異ウイルスの拡大を抑えられる?

ある程度広がってしまってから抑えようとするのと、まだ少ない段階から抑えようとして対策を行うのでは、やはり状況が全然違います。一旦かなり広がってしまうと、そこから抑えるというのは難しいですが、まだ少ない段階であれば、積極的疫学調査(濃厚接触者の追跡調査など)を行っていく中で、かなり抑制していく余地があります。


■子供へ感染は?

――変異ウイルスの児童施設でのクラスターも起きているが、子供が感染しやすくなるという特徴は?

特に子供で感染しやすくなるというデータはないですが、子供でも大人でも同じように感染しやすくなるということは、イギリスのデータなどからわかっています。新型コロナウイルスは、元々、子供の方が感染しにくく大人が感染しやすい特徴ですが、同じ程度、感染伝播性が上がるということです。子供は感染しにくいけどちょっとしやすくなる、という変化があります。

――国内の変異ウイルスへの感染が子供や若年層に多い印象は?

いまはクラスターが起きた場所によって患者さんの傾向は偏ってしまう段階です。これまでの新型コロナウイルスの感染症でも、最初、若い人で広がって段々と高齢者の層に広がる、という現象がみられました。(変異ウイルスが見つかりだした)初期に、高齢者が少ないというのはありえるかなと思います。


■日本の変異ウイルス対策は、十分なのか

――現在の日本の対策は十分なのか。空港検疫での水際対策は

まず、国内への流入をできるだけ遅らせるということ、検疫を越えて国内に入ってきても対処できるくらいに人数を絞っていくことが大事です。海外の発生リスクなどを見ながら機敏に対応できたと思います。さらに、国内に入っても広げない対策がセットで動く必要があります。

――現在は、国内の陽性者の一部で変異ウイルスの検査をしているが、もっと検査数を増やした方がいいという声も

対策のリソースには限りがあるので、どこに重点を置くのかということを考えなければいけないと思います。特に大事なのは、検査した人にすぐ結果を伝えて、その後入院するなどして他の人に接触しないように、きっちりやることだと思っています。検査を沢山やるというより、検査結果を早く返して隔離なり接触機会を減らす、これを地道にいかに続けていけるか、ここを重視すべきだと思っています。


■変異ウイルスが“第4波”を生む?

――変異ウイルスは現在は主流ではない。今後は?

いまは、去年3月以降に国内に入ってきて国内で流行を続けてきた株が主流です。これらの株は、いま感染者が減っているので、段々と数は少なくなってきています。その中で徐々にイギリス株の報告が増えてきています。今後、動向をみないとわからないですが、現在のところ、海外では(変異ウイルスの)イギリス株が優位になったところは多いです。

――変異ウイルスが、新しい波、第4波になる可能性は?

もちろんあり得ますね。ウイルスの中での生存競争みたいなもので、増えやすいものだったり、感染しやすいものだったりするものが生き残ってくる要素になりますので、そういったものが勝ち残ってくることはありえます。変異ウイルスによって今後、コントロールが難しくなることを踏まえて、今後の対策を取っていく必要があります。


■拡大は「予測を遙かに上回るスピード」も

――変異ウイルスが拡大する時、もっとも怖いことは

対策が行き届かずに急速に広がるということが起きた場合に、これまでの流行で予想されたスピードよりももっと早く患者が増えて、医療体制逼迫が早くなってしまいます。例えば病床の追加とかが間に合わなくなってしまう。「これぐらいのスピードだからまだこれくらいの人数で大丈夫かな」と思って、従来の流行状況から予測していたら、それを遙かに上回るスピードで出てきてしまうということは懸念しています。


■別の変異ウイルスも出現?

――「E484K変異ウイルス」というものが日本でも複数見つかっているがこの脅威は?

免疫から逃げるタイプの変異ウイルスで、どちらかというと中長期的に向き合っていかなければいけない脅威だと考えています。例えば、ワクチンを接種を進める上で、どういうワクチンの型を選んでいくのかとか、ワクチン政策や集団免疫を考える上では重要です。一方で、N501Y変異(イギリス型や南アフリカ型などの変異ウイルス)は、急速に患者さんが増えたり、医療体制を圧迫するとか、短期的なリスクにつながるので、それは喫緊のリスクとして捉えていかなければいけないと思います。脅威の種類が違います。


■「急速に増えることを抑える」いま一番やらなければいけないこと

――私たち自身ができる変異ウイルスの対策は?

個人の方ができる対策は今までと変わらず、3密を避ける、混み合った場所にいかない、会話する時にマスクする、手を洗う習慣をマメにやっていくことが大事です。少しでも急速に増えるということを抑えることが、今一番我々がやらなければいけないことだと思っています。ウイルスとの戦いというのは、中々終わりがないところがあるんですけど、相手の性状を見極めながら必要な対策を取って、こちらも柔軟に対応していくことが大事だと思います。


■プロフィール

斎藤智也
国立感染症研究所・感染症危機管理研究センターの初代センター長。変異ウイルスをはじめ、国内の新型コロナウイルスの情報収集・分析