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中村壱太郎&尾上右近「みんな同士、戦友」

2021年3月13日 11:42
中村壱太郎&尾上右近「みんな同士、戦友」

3月、京都・南座で上演されている「三月花形歌舞伎(~21日千穐楽)」。中村壱太郎さん、尾上右近さん、中村米吉さん、中村橋之助さんといった30歳以下の若手が集った本興行では、『義経千本桜』より「吉野山」と「川連法眼館」がAプロ・Bプロと2つの異なる配役で上演されています。そのAプロで共演する壱太郎さんと右近さんに、公演への思いからお互いの印象などを聞きました。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み 第7回 中村壱太郎・尾上右近(前編)】

■「“アンダー30”のチームでいこう」

――コロナ禍でもあり、お互いにゆっくりと会って話すのは久しぶりだとか。

右近「かずさん(壱太郎)とは連絡は取っていますね」
壱太郎「常日頃からLINEなり、電話なりね。右近くんは初日の時、千穐楽の時にボイスメッセージを必ず送ってくれるので。家族よりも恋人よりも濃いメッセージですね」

右近「もらったら嬉しいからね」
壱太郎「僕は返さないですけどね。文章で(笑)」

――今回の公演は若手だけで上演する公演です。

壱太郎「僕は今30歳ですけれど、皆30歳以下なので、“アンダー30”のチームでいこう!とうたい文句をつけていますね」

右近「自分も若手でまだまだチャンスがいつ巡ってくるかは探り探りだったんですけれど、お客様に思いを届けるような公演に恵まれる機会が突然訪れる。いつ来ても自分の情熱をぶつけられる準備やイメージを持ち続けることが大事だなと思いましたね。嬉しい反面、責任も感じます。同年代・先輩たちと一緒に幕を開けられるのは気合いが入りますね」

壱太郎「同世代でみんな同志、戦友だと思っているので、コミュニケーションが取りやすいですね」

右近「そうですね。やっぱり壱太郎さんの皆で一緒にやっていくというスタンスが凄くありがたいし、仕事なんですけど、仕事というよりは文化祭に取り組んでいる学生気分。プロではあるけれど、手作り感、自分たちの思いを循環させたいという思いが強いので、お互いの意思疎通を常に取っておこうという気持ちは同じだなと思いますね」

――では、座頭(まとめ役)は壱太郎さんでしょうか。

壱太郎「4人が座頭だと思っていますが、やはり最年長としての責任はあるなと思います。僕は何かあると突っ走ってしまうので、俯瞰的に公演自体を見ていかなければいけないという思いを強く持っていますね」

若手だけで南座を彩るという挑戦をされるなか、今回の演目では、2人とも初めての役を勤めます。その思いを聞くと……

壱太郎「(義経は)みんな知っていると思うので、イメージにそぐうように。『義経だな』と思ってもらえるようにしたいなと思います」

右近「狐(きつね)忠信は温かい存在、純真無垢な親を慕う気持ちが人の心を動かす存在として描かれているんだなと。情を訴える存在として、何よりも大事に勤めたいです」

情熱が込み上げた右近さん、なんと2分半も語りました。その熱量に壱太郎さんも驚いた様子でした。

■「歌って、舞って、技を見せるのが歌舞伎」

――公演の冒頭(一幕目)に“歌舞伎の魅力”というプログラムがあります。

壱太郎「歌舞伎の中でも名作の『義経千本桜』。僕らは名作と思っていても、やはり物語が難しい、聞いたことがない、という人がいるわけで。どうやって導入すればいいのかなと。出演者が生で思いを伝える、自分たちの声でストーリーや役について語るというのは大事だと思い、時間を用意しました。歌って、舞って、技を見せる演技をするというのが歌舞伎。その歌舞伎の色々な側面を見てもらうプログラムになっていますね。何度も見たことがある方にも新たな発見をしてもらう。そして、初めて歌舞伎を見る方にも楽しんでもらう。そんな両方の局面を持ったものにしたいなと思っていますが……どうでしょうか」

右近「その通りだと思います!」
壱太郎「考えてないでしょ!絶対!でもね、そういうところがいいんですよ、右近くんは」
右近「私なりの歌舞伎の魅力についてお話いいですか?」
壱太郎「もちろんですよ!」

右近「歌舞伎役者が素顔でお客様の前に出て話しかける演目というのは難しいなかで、逆に自分たちの思いを素顔で純粋に伝えるということ、何よりも歌舞伎役者が歌舞伎に対して魅力を感じている部分、気持ちをお客様と共有することができたらいいなと思いますね。僕らは分かりきっていることだけれど、改めて自分たちで面白いなと実感しながら伝えていくのはとても意味合いのある時間なのかなと思いますね。30秒くらいだったでしょうか……」

壱太郎「全然長いよー!」

またまた思いが込み上げてしまった右近さん。横で突っ込みながらも優しい眼差しで見守る壱太郎さんでした。そんな壱太郎さんは1年間のうち、9割ほど女方を勤めています。

――普段の生活において意識することはありますか。

壱太郎「それね、よく聞かれるんだよね」
右近「これは自分のことで言うのは難しいと思う。僕が見ていて、壱太郎さんが気を付けていらっしゃることは、物音を立てないこと、物を大事にしていることだと思う」
壱太郎「本当に?……確かにもらったプリントは裏紙に使うかもしれない(笑)」

右近「相手がどう思うか、嫌な思いをしないように、というのは女方として舞台の上の経験が出ているのかなという気はしますね。僕はお化粧ですかね。近くで見ても、遠くから見ても、その役として美しいメイクができたらと思いますね。具体的には骨格があるので、黄金比などを……歌舞伎のメイクは派手ですけれど、よりメイク“アップ”するものという意識でやるようにしています」

壱太郎「普段からやっぱりね、出てると思いますよ。自分がどういう風に見えるかというのを、特にここ最近凄く気にかけていると思います」

◇◇◇

このあと話は右近さんのこだわりのファッションについて……そしてお互いの印象やリフレッシュ方法など。最後には壱太郎さんもうらやむ、右近さんの決め台詞!2人の仲の良さ、絆の深さを感じる瞬間が数多くありました。気になる続きは後編にてお届けします。

【中村壱太郎(なかむら・かずたろう)】
1990年8月、四代目中村鴈治郎の長男として生まれる。1995年1月、『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名乗り、初舞台。2014年9月、日本舞踊吾妻流の七代目家元を襲名し、吾妻徳陽を名乗る。

【尾上右近(おのえ・うこん)】
1992年5月生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。2000年4月、岡村研佑の名で初舞台を踏み、2005年1月、二代目尾上右近を襲名。2018年2月には、七代目清元栄寿太夫を襲名。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。