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米国でNNN記者が新型コロナワクチン接種

2021年3月11日 9:41

新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進むアメリカ。すでに全米で9500万回分以上が接種され、全人口の10%近くが完全に接種を完了した(CDC=疾病対策センター 3月10日時点)。アメリカに駐在するNNNの記者も、1回目のワクチン接種を受けた。その様子をリポートする。(ワシントン支局・渡邊翔)

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■チケットサイトで簡単手続き 翌日の接種の予約も

首都・ワシントンに駐在する記者が住むのは、ワシントンとは川を隔てて隣接するバージニア州アーリントン郡だ。3月5日、当局から一通のメールが届いた。

「初回接種の予約をする準備が整いました」

思ったより早いな、というのが率直な感想だった。アーリントン郡では、年が明けて本格的にワクチン接種が始まると、地元当局から、「事前登録をしてください」というメールが届いていた。アメリカの各州では、ワクチン接種の優先順位に応じてカテゴリー分けがされている。

【アーリントン郡の場合】
●1A(最優先) 医療従事者や介護施設の入居者
●1B 警察官や教職員などのエッセンシャルワーカー、65歳以上の高齢者、16~64歳で重症化リスクのある既往症がある人など
●1C その他のエッセンシャルワーカー(メディアはここに含まれる)

メディアが該当するのは1Cだが、私は重症化リスクのある気管支ぜんそくの持病があり、事前登録ではひとつ優先度の高い「1B」に分類されていた。それでこのタイミングで順番が回ってきたというわけだ。

メールに従って、イベントの告知やチケットの販売に使われる民間サービスのサイトにアクセスする。希望する時間や場所を選び、「確定」ボタンを押せば、あっという間に予約完了。「ワクチン接種のチケットを手に入れました!」と確認のメールが届いた。

驚いたのは、翌日(3月6日)の接種の予約も可能だったということだ。ただ、この翌日の枠は接種が1回で済むジョンソン&ジョンソンのワクチン。記者が予約状況を見ると、すでに枠が埋まっており、2回接種が必要なワクチンの回を週明けに予約した。


■接種はわずか10分 事前に丁寧なチェックも

3月9日。記者がワクチン接種を受けるのは、自宅から車で10分ほどのコミュニティーセンターだ。隣接するグラウンドでテニスを楽しむ人々を横目に、係員に予約時間と名前を伝えて会場に入った。ここでは、現在1日500~600人ほどが接種を受けているという。

受付で身分証を見せて本人確認をすると、ワクチンに関する説明書類をもらう。ここで初めて、今回記者が接種するワクチンは、モデルナ社のものであることが分かった。説明書類には、ワクチンは1か月間隔で2回打つことや、効果がどれくらい続くかはまだ分からないこと、想定される副反応など、ワクチンに関することが事細かに記されている。

受付を済ませると、すぐに隣の接種を行う部屋へ移動する。10ほどのブースがあり、そのうちのひとつへ案内された。接種をしてくれる女性に「注射は痛い?」と聞くと、「打った場所は痛くなることがある。打った方の手を下にして寝ない方がいいわよ。腕を動かす仕事?パソコン作業が多いなら、ストレッチが必要かもね」とアドバイスが。

その後、接種前の問診がある。体調不良ではないか、過去にワクチン接種でアレルギー症状を起こしたことはないか、ほかにアレルギーはないかなどだ。花粉症や鼻炎はどうなんだろう。念のため、日本のかかりつけ医に書いてもらった持病の説明を見せて確認してもらった。

さて、いよいよ接種だ。新型コロナのワクチンは、インフルエンザと同じ筋肉注射だということで、やや痛いのも覚悟していたが、ほとんど痛みは感じず、拍子抜けするほど一瞬で接種は終わってしまった。「全然痛くないんですね」と喜ぶ記者に、接種した女性は苦笑いして、「針が細いからね」と応じた。

接種が済むと、ワクチンの接種日やメーカーなどを記録した小さなカードをもらう。2回目の接種が済めば、このカードがワクチン接種の証明の役割も果たすのだろう。会場に入ってから接種完了まで、わずか10分ほどだった。


■スマホでできる接種後の健康観察

接種後15分は、隣の部屋で待機する。呼吸が苦しくなったり気分が悪くなったりなどの強い副反応、いわゆるアナフィラキシーショックが出ないかを見極めるためだ。この間に、担当者から副反応や2回目の接種の予約方法について書かれたパンフレットと、接種後の経過観察に使うCDC(=疾病対策センター)の「V-SAFE」というシステムへの登録案内を受ける。

「V-SAFE」はスマートフォンで利用でき、ワクチン接種の日付や種類などを登録し、定期的に送られてくる経過観察のための質問に答えて、ワクチンの安全性をモニターするシステムだ。記者も早速登録した。

待機中、担当者にどのくらい副反応の症状を訴える人がいるか尋ねてみたが、「今のところ、私はこの15分で症状が出た人は見たことはない」ということだった。幸い、記者も大きな異変はなく、そのまま帰宅した。

CDCは、一般的な副作用として、接種した部位の痛みや腫れ、頭痛や筋肉痛、発熱や悪寒を挙げている。帰宅後2時間ほどすると、確かに腕に痛みが出た。インフルエンザのワクチン接種後と似たような感覚だ。もちろん、人によって副反応の度合いは異なるが、記者は翌朝以降も発熱などはなく、腕の痛み程度で済んでいる。


■感じたスピード感、最悪の感染国からの転換なるか

今回のワクチン接種で感じたのは、順番が回ってきてから接種までのスピード感だ。アーリントン郡の担当者によれば、事前登録を推奨するための広報を強化しているほか、国勢調査を担当する委員会が、そのノウハウを生かしてワクチン接種の調整を担っているという。接種の予約にチケット販売サイトなど、既存のシステムをうまく活用している点や、手軽な経過観察のシステムは、日本のこれからのワクチン接種でも大いに参考になるのではないか。

一方で、ワクチンを接種したからといって、すぐに日常生活が戻ってくるわけではない。8日に発表されたCDCのワクチン接種者向けのガイドラインでは、国内・海外への旅行は変わらず控えるよう求められており、公共の場などではマスクの着用や、社会的距離を取ることも依然、必要だ。

こうした行動制限がさらに緩和されるには、国民の大多数がなるべく早く接種を受けることが大前提だ。バイデン政権はワクチン配布や接種会場などを増やし、接種のスピードアップを図っている。

政権発足100日で1億回分の接種という目標は早々に達成される見通しだが、この数字をどこまで「上積み」できるか。アメリカは最悪の感染国から転換するための正念場にさしかかっている。


写真:「Arlington TV」