四面楚歌の森会長 「女性不在」リスクとは
森会長の“女性蔑視”発言をめぐり、波紋が広がっています。IOC(=国際オリンピック委員会)は「完全に不適切」と新たな声明で立場を一転。小池都知事は、調整されていた会談に出席しないと表明しました。
日本社会の「女性不在」リスクも解説します。
■調整されていた4者会談 小池知事「私は出席することはない」
10日、東京オリンピックをめぐる会談に動きがありました。当初、17日にIOCのバッハ会長、東京都の小池知事、組織委員会の森会長、政府の橋本担当大臣の4者会談が行われることで調整されていました。
会談では、開催に向けたメッセージを出すのが狙いでしたが、小池都知事は10日朝、「出席しない」と言い出しました。その理由を次のように話しています。
小池都知事「いまここで4者会談をしても、あまりポジティブな発信にはならないと思いますので、私は出席することはないと思います」
小池都知事は、森会長の発言に対し、9日までに東京都におよそ1400件の抗議が寄せられ、都のボランティアの辞退は97人に上っていると明らかにしました。「皆さんに不快な思いをさせてしまって、開催都市の長として、とてもとても残念」とも話しています。
■IOC立場を一転…新たな声明「発言は完全に不適切」
IOCは9日夜、森会長の発言をめぐって新たな声明を出しました。
「森会長の最近の発言は『完全に不適切』で、IOCの公約とオリンピック・アジェンダ2020の改革に矛盾するものだ」
IOCは、今月4日には「森会長は4日に発言を謝罪した。これをもってIOCは問題が終わったと考えている」と表明していたので、立場を一転させたことになります。
異例の事態とも言えるわけですが、IOC関係者に話を聞くと、「IOCはオリンピックと自分たちの組織を守るのが最優先。リスクを嫌う組織だから」とのことでした。つまり、批判がやまないなか、IOCへの批判が高まらないように、立場を一転させたと言えそうです。
ただ、森会長の辞任を求める声については、「大会本番まで時間がない。森会長をトップとした巨大組織を変えるのは、現実的には不可能」と話しています。
■大臣も「森会長」と明言せず
組織委員会の中からは、こんな声もありました。
ある幹部は、森会長の“女性蔑視”発言は「全面的に論外」と苦言を呈した上で、「森さんが反省を述べただけで、世の中が納得しますか?」と言うのです。つまり、森会長が謝っただけではすまなくなったと事態をみているのかもしれません。
国会では10日午後、野党が五輪担当の橋本大臣に、森会長が4者会談に出席するのかを問う場面がありました。
立憲民主党・田嶋要議員「森会長自身が出られるという理解でよろしいですか」
橋本聖子 五輪担当相「組織委員会の会長は、組織委員会の理事会・評議会で決まっていくわけでありますので、その動きを注視しながら4者会談というものが決められていくんだと思います」
立憲民主党・田嶋要議員「森会長ではない会長の可能性もあるということでいいですか」
橋本聖子 五輪担当相「そのことにつきましては、組織委員会が決めることですので」
橋本大臣は、出席するのは『組織委員会の会長』で、それが森会長かどうかは明言しませんでした。
■スポンサー企業から相次ぐ批判「適切に対応を」
森会長の発言をめぐっては、大会のスポンサー企業からも批判が相次いでいます。アサヒビールは『不適切な表現であり残念』、明治は『大変残念』、日本郵政は『大変遺憾』、ENEOSは『極めて遺憾』とコメントしています。
さらに、アクションを起こしている企業もあります。三菱電機は『残念に受け止めている』とした上で、『皆様から理解され、協力いただけるような大会を目指していただきたい』と組織委員会に申し入れたといいます。また、東京海上日動は『大変遺憾。適切に対応するよう組織委員会に伝えた』としています。
スポンサー企業も、“女性蔑視”発言に対して黙っていると差別を容認していることになるので、発信しているという面もあるようです。
■女性役員の少ない企業にリスク
企業と女性という観点からは、こんなデータがあります。女性役員の割合を海外と比較したデータです。
フランス・・・・・45.2%
スウェーデン・・・37.5%
アメリカ・・・・・26.1%
中国・・・・・・・11.4%
日本・・・・・・・ 8.4%
韓国・・・・・・・ 3.3%
日本は低い水準にとどまっていますが、この数字はいま、企業にとってとても重要な数字となっています。投資家が企業に投資する際に、どれだけ女性の活躍を推進しているかという点に大きな関心が寄せられているからです。こうした傾向は世界的に大きな流れとなっているのです。女性役員が少ないと、企業に次のようなリスクがあることが分かっているからです。
(1)グループシンク(集団浅慮)
企業の責任ある地位の人が同質の集団だと、同じような考えになって、多様な観点から判断することが困難になってしまいます。たとえば、女性の視点から見たら違和感のある広告が世に出て、炎上したりすることがあります。女性を含め多様な視点からチェックしていれば、こうしたことにも早い段階で気づけるかもしれません。
(2)イノベーションの芽をつむ
多様な人材が意見をぶつけ合うことで、これまでなかった視点や発見がうまれてくることがあります。つまり、多様性の欠如が企業の成長にとってもマイナスになります。
世界からの信用度の低下につながるということもあるでしょう。経営層に女性が入っていないことは企業にとってはリスクだという考え方が、いまでは支配的になってきているのです。
■女性不在が問題…日本は「水漏れする水道管」
日本では、政治の分野でも、経済の分野でも、「決めるところ」に女性がいないというのが問題です。さらに、女性がリーダーに上がっていくための道筋を人材輩出の『パイプライン』といいますが、日本はこれが脆弱なのです。
女性は、結婚や出産などのたびにリーダーへの道から脱落し、このパイプラインは「水漏れする水道管」と例えられることもあるほどです。
コロナで働き方が変わるなか、数を増やすだけの議論にとどまらず、しっかりとしたパイプラインで女性を育てる仕組みを整える必要があるのです。
(2021年2月10日16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)