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入管法改正案の全容判明…ポイントを解説

2021年2月10日 11:45
入管法改正案の全容判明…ポイントを解説

国外への退去処分を受けた外国人の入管施設における収容が長期化している問題。この問題を解消するための新たな制度が盛り込まれた入管難民法の改正案が、今国会に提出される見込みです。その全容が判明しました。

■「自分は難民」抗議のハンガーストライキ
「942人」これは、2019年12月末の時点で国外への退去処分を受けて入管施設に収容されている外国人の数です。このうち、送還を拒否している外国人は649人、そのうち6か月以上の長期収容者は462人に上ります。

なぜ送還を拒否するのか。「自分は難民である」「生活基盤が日本にある」といった主張が多くみられます。2019年には収容に抗議するハンガーストライキが全国に拡大。長崎県の入管施設でナイジェリア人の男性が餓死する事態も起きました。

■解消に向けて入管庁が打ち出す3つのコンセプト
出入国在留管理庁は有識者による専門部会から提言を受け、問題の解消に向けた入管難民法改正の検討を重ねてきました。

その結果、打ち出した改正法案のコンセプトは3つ。
1)保護や在留を認めるべき外国人を適切に判断する。
2)在留が認められない外国人のすみやかな送還。
3)長期収容の解消と適切な処遇の実施。

このコンセプトを実現するために新たな制度が設けられました。

■“保護すべき外国人”を明確にする制度
コンセプト(1)「保護や在留を認めるべき外国人を適切に判断する」に対応する制度は「補完的保護対象者」です。

難民は人種や宗教などを理由に迫害を受ける恐れがある場合に認定されます。難民の認定には至らないものの、母国が紛争中で帰国できないなどの理由から、保護すべき外国人を「補完的保護対象者」と認定します。難民と同じ「定住者」として在留が認められ、日本で自由に働くことなどが可能となります。

現在は、「難民」以外にも人道上の配慮が必要と認められる場合にも在留が認められますが、保護の対象として法律で明確に認定する制度はなく、「補完的保護対象者」の認定制度で明確化します。

■送還逃れを防ぎ、自発的な出国を促す
コンセプト(2)「在留が認められない外国人のすみやかな送還」に対応するのは、送還逃れを防ぐ制度と、自発的な出国を促す制度です。

難民認定を申請すると例外なく送還が停止される規定があり、入管庁によると退去処分を受けて送還を拒否している外国人の約60パーセントが難民認定を申請しています。

申請に回数制限がないため送還を逃れるための手段として悪用されているとの指摘があることから、3回目以降の難民認定申請では送還を可能とする内容が改正案に盛り込まれました。

また、送還時に飛行機内で暴れて妨害した場合など特定のケースに罰則が設けられました。

一方で自発的に早期に出国した場合などには、日本に入国出来ない期間を5年から1年に短縮する制度も新たに導入されます。

■収容せずに社会生活を容認
コンセプト(3)「長期収容の解消と適切な処遇の実施」に対応するのは、入管施設に収容せずに社会内での生活を容認する「監理措置」制度です。

対象者は「監理人」と呼ばれる、選定された支援団体や弁護士などの監理下で生活。「監理人」が生活状況などの定期的な報告を行います。入管庁が、オーバーステイなど逃亡の恐れが低いと判断した外国人が幅広く対象となります。

また、逃亡した場合の罰則が設けられます。現行法では収容を解く手段が健康上の理由などによる「仮放免」のみでしたが、改正後は「監理措置」も可能となるため収容の長期化を防止する効果が期待されます。

■改正のポイントは“メリハリをつける”
今回の改正案を考える上で注目したいのは「メリハリ」です。「補完的保護対象者」を設け、保護するべき外国人は保護する。オーバーステイなど逃亡の恐れが低いと判断した外国人は社会内での生活を容認する。

一方で送還逃れを防ぎ、場合によっては罰則も科す。メリハリをつけた制度によって適切で迅速な対応を図り、入管施設の収容問題の解消につなげる狙いです。

改正案は来週にも国会に提出される予定です。


※写真:摘発の様子(「入管白書2020」より)