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“コロナ病棟”ICU 取材Dが見た最前線

2021年2月5日 20:11
“コロナ病棟”ICU 取材Dが見た最前線

東京・品川区にある昭和大学病院の集中治療室。
これまで重症患者に対応し続けてきたまさに、“命を守る最前線”です。
コロナ治療をはじめてまもなく1年。
当初3床だった重症患者の病症は、いまや3倍以上になっています。
(※当初3床→現在10床)

重症患者の治療で中心的な役割を担っているのが木村友之医師です。
午前11時。行われていたのは、患者の治療方針を確認する会議。

*木村医師
『肺の中気管支鏡させていただこうかなと』
会議を終えると早速、防護服を身につけ…重症患者の病室へ向かいます。

■「レッドゾーン」 過酷な重症患者治療
木村医師が撮影した、感染リスクが高い「レッドゾーン」。
肺炎が悪化し、人工呼吸器をつける70代の患者が入院しています。

*木村医師
『右の肺悪いもん』
『そばにいるよわかるかな?ゆっくり呼吸してごらん』患者に、優しく声をかけ続けます。
*看護師
「先生きていますよ、わかるかしら?」 呼びかけに、患者が応じました。
入院からおよそ一週間。いまだ39度近い高熱が続き容体は安定しません。

■「ECMO」2か月… 病床空かぬワケ 
こちらの重症患者は、人工肺・ECMOを装着してまもなく2か月経つといいますが。

*木村医師
『この方心臓の動きが悪いので何回か心臓止まるようなエピソードもあって…』

これまで何度も、生死のはざまを行き来しているといいます。

*木村医師
『ひとりエクモいれるとこの人だけで2か月間、この部屋とっちゃうんですよね』
高止まりがつづく都内の重症患者数。
受け入れたくても、長引く治療でベッドが空かないため、簡単にはいかないのです。

■家族との時間削り…「ほぼ休みなし」 
*木村医師
『(第三波は)第一波第二波と比べものにならなかったですかね』
『土日も見に来ますからほとんど(休みは)ないですね。』
木村医師は幼い子供の父でもあります。
それでも、家族に会う時間を削り、医師としての使命を果たす日々。
*木村医師
『僕もやっぱりさみしいですしもうちょっと時間ほしいなって思いますけどね』
『一時期暗かったですね。(スタッフ)みんなちょっと疲れているんだろうなって。』
午後1時すぎ、ようやく休憩へ。
しかし、昼食を10分以内ですませると、また午後の診療が始まります。

■“重労働”も…ICU勤務の看護師は
同じく看護師も、ICU内を慌ただしく動き回ります。
*看護師
『体のむきを変えます。床ずれ予防で』
寝たきりで同じ部位が長時間圧迫されると床ずれができてしまうため、
2時間に最低1回は患者の体を動かさなければなりません。
*看護師
『全身むくみが生じているので(元気な頃の体重より)
 10キロ~15キロくらい増えている方が多いのでとても力がいるんです』

午後3時すぎ、慌ただしくなっていたのは70代の重症患者の病室。
ECMO治療を受けていた患者が、この日、ECMOを外せることになったのです。
装着するときはもちろん、外す時にも、
医師、看護師、臨床工学技士ら10人以上の人手が必要です。
現場に緊張が走る中、身体に挿入した管を慎重に抜いていきます。

■“危険と隣り合わせ” 重症患者に異変
しかし、ちょうどそのころ。同じくECMO治療を受けている別の重症患者の“容体に異変”が。
『先生~!』
『止まってはないけど、ちょっと一瞬レート(脈拍)は40台までいったんで』

脈拍が大幅に下がり、長引けば、心停止につながる恐れがある、危ない状態。
重症患者の治療は常に“危険と隣り合わせ”です。
一方、ECMOを取り外す患者。処置はおよそ1時間後に無事おわりましたが、
ICUでの治療は継続となり、退院のメドはたっていないといいます。
*看護師
『患者が1人よくなってもまた1人入ってという状況なので
(1人重症化すると)何ヶ月単位で集中治療が必要になることが多いので、
ちょっと厳しい戦いです』
過酷な現状が続く中…「したいこと」を尋ねてみると。
*看護師
『海いきたいです。(コロナが)落ち着いたら、ですけどね』

■ 任務は「コロナ対応」だけではない
再び新型コロナの重症患者の元へ向かう木村医師。処置が終わると、すぐに電話が鳴ります。
*木村医師
『医学部の学生さんの指導もしないといけないので…』
さらに。
『このあとちょっと私も往診にでるので…』
脳梗塞の患者の元へ。「コロナ対応」だけに専念できる訳ではないのです。
この日、木村医師の全ての勤務が終わったのは午後9時前。
これが、新型コロナと闘う医師の日常です。

*木村医師
『1年間たちましたけど、まだいろいろやらなければならないことたくさんありますね。
明確な治療法もないし。診れる人が少ない以上はやれる人が頑張りながら診れる人を
 増やしてやっていくしかない』

■初の“コロナ病棟”内部…取材Dが得たもの
私が昭和大学病院を初めて取材したのは去年4月の“第一波”のとき。
それから継続して何度も医療現場の現状を伝えてきたが、全て病院から映像提供を頂いた上での「リモート」取材だった。
しかし今回初めて病院内に入って取材することが許され、リモートでは見えない医療現場の緊張感や医療従事者たちの思いを知ることができた。ICUの重症患者は常にいつ何が起こるか分からない“危険と隣り合わせ”の状況。それでも医療従事者の数には限りがあり「コロナ治療」だけに
専念できるわけではないということ。人々と同じように「もう少し家族との時間をとりたい」
「外出したい」という思いもある中で、日々闘っているということ…。
番組内では伝えきれなかったが、木村医師が地域の子供たちからもらったという感謝の手紙を読みながら「子供たちも我慢の日々が続いている。未来を守ってあげたい」と言っていたのも印象的だった。手紙は何十通も届いていたが全てを読んでいて、疲れている中でもそうした感謝やエールの言葉が励みになっているという。
今回病院は「医療現場の現状を人々に知ってもらえるなら」と取材に応じてくれた。
医療従事者にも家族との時間を大切にしてほしいし、感染が収束すれば海にも行ってほしい。
そのためにも、私たちができる感染対策や“少しの我慢”を継続する。
それが一番の“医療従事者へのエール”となると思う。
(news zeroディレクター 田原佐紀)