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「新型コロナは闘える相手」専門家に聞く

2021年1月9日 14:08
「新型コロナは闘える相手」専門家に聞く

新型コロナウイルスの政府の政策決定や、ワクチン開発、医療現場などの最前線で奔走する専門家たちに、今更聞けない素朴なギモンから最新情報のアップデートまで聞く企画。第1回は、内閣官房参与として菅首相に直接助言するほか、政府の新型コロナ対策の会議のメンバーでもある川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に取材した。

(前編から続く)

■ワクチン接種 不安の声も

<早ければ、来月下旬にも接種が始まる新型コロナウイルスのワクチン。開発されたばかりのワクチンについては、効能や副反応など未知な部分は多い。>

――いよいよ始まるワクチン接種。新しいワクチンへの不安の声もあります。

僕は、ワクチンはとっても大切なツールだと思います。でもワクチンは、生きている人に打つもので、生きている人の体の構造、メカニズムは少しずつ微妙に違うので、異常反応が出てくる。それが100人とか1万人に1人では問題だけど、それが1000万人に1人となると、その1人をなんとかしなきゃいけないけど、それで、そのほかの999万人が病気を防ぐチャンスまでなくすかというと、そうはいかない。それがワクチンです。

それと、ワクチン(の副反応)で重症になるかもしれないことと、痛いし腫れるから嫌だということは、同じところでは話せないと思います。極端なところ、痛いのは我慢してください、という気持ちはある。

日本のワクチンは、努力義務となっているので、ノーといえる権利はある。本当に気持ち悪くて嫌だとか、よくわからないから嫌だという人は様子をみてもいいかもしれない。でもその人は、接種した人よりコロナの感染に注意をしなきゃいけないし、もしワクチンで感染を防げるようになったときには、みんながワクチン接種をやってきてくれたお陰で助かっているんだよ、と。よかった自分だけ助かったということではないと思うので。病気ってそういうもので、マスクをつけるのも、自分が危ないだけじゃなくて、もしかして人にうつすかも、という優しさもある。ワクチンも、自分が助かるだけじゃなく、接種していない人も一緒に助けるんです。

――特例承認(審査に必要な書類の一部を後から提出でよいとするなどして審査を早める仕組み)という通常より早いステップでの承認で、審査を急ぐことに問題はない?

新型コロナのワクチンは、従来のワクチンと全く違う発想で作っていますが、それは昨日今日作り出したことではなくて、エボラ出血熱とかそのほかの感染症のときに、積み重ねた結果なんです。特例承認といっても、何もしないってわけじゃなくて。これだけはやらなくちゃいけないという項目だけではなく、たくさんの書類を1か月くらいかけて読まなくちゃいけないのを、1週間で読んでくださいというのが今回。1日で読むことはできないし、削れるところは削って、ということで、手を抜いてという意味とは違います。

――ワクチンの効果はどのくらい持つ?

それはわからないです。この病気は1年しか経ってないので、1年間で人の一生の免疫はわからない。インフルエンザのワクチンは毎年打たないといけないし、破傷風は10年に1度打たないといけない。それがわかったのは、ワクチンをずっと使っていたからで、今は焦っちゃいけない部分だと思います。今のワクチンは、当面なんとかしようというワクチンです。

――ワクチン接種で、コロナ感染者は減少に向かう?

ある程度抑えられるけど、全部抑えるにはワクチンだけでは足りないです。ワクチンがあると、もう全部元通りというわけにもいかない。インフルエンザは、(国民の)5、60%くらいが接種しても、残念ながら流行するんです。でも、ワクチン接種した人は、感染する人もいるけども、全体からみれば熱の出方も少ないし、亡くなる方も少ない。(接種を)やって少しでもよくなるならした方がいい。

■東京五輪・パラ大会 本当に開催できる?

<本当に開催できるのか、感染拡大地域の選手は入国できるのか、選手に陽性が出た場合はどうするか、会場での観戦はできるのか?コロナ禍での課題とは>

――夏の東京オリンピック・パラリンピック大会は、開催できるのでしょうか?

「いいシナリオ」と「悪いシナリオ」の両方があって、「うんと悪いシナリオ」だと、今のままとか、もっと悪くなると、これは難しいと思います。「最低限できるのは競技でしょう」とずっといっています。僕は、感染症対策は、オリンピックのためにやっているのではない、感染症を少しでも減らして、その結果、オリンピックにつながればいいと思っています。

――選手団の中で1人感染者が出た場合に、同じ国のほかの選手の出場はどうなるのか?

PCR検査や健康観察、ほかの人に会わず練習するとか、そういうことができれば、全部出場できない、とはならないかもしれない。海外から来る選手は、自分の国の決まりと日本の国の決まりで、違いがあると思いますが、そこは日本でやるのだから、日本のやり方に従ってくださいというしかない。大きいチームには、チームドクターがいるので、チームドクターとの話し合いと納得が大事です。選手村については、これはまだ僕の単なる意見ですが、選手村だけを診る診療所と保健衛生の出先機関も作った方がいいと思っています。地元の保健所に迷惑をかけない方がいいと提言しています。

――観戦チケットを持っている人は本当に全員、観戦できるのか?

そこは状況次第じゃないかと思います。体育館内でわーっとやる競技か、オープンスペースの競技かでも随分違うと思うし、一概にはいえないです。

■「新型コロナは闘える相手」

――ここまで1年間、新型コロナと向き合ってきて今、思うことは?

正しく見つめれば、新型コロナウイルスは闘える相手ではないか、そう思います。当初は手探りだったし、今もわからないこともいっぱいあるんですけど、わかってきていることも随分増えてきています。負ける相手だという気がしないんです。ただ、それには時間がいるところもあるし、短期的な方法としては、緊急事態宣言という劇薬を出すときもありますが、これは短期の武器。変わらない部分は、みんなが舞い上がらずに、落ち着いて冷静に、焦らないで向き合うことが大事だと思います。

【イチからわかる 新型コロナ】
2年目に突入した新型コロナウイルスとの闘い。その最前線で奔走する専門家たちに、さまざまな疑問をぶつけた。政府の政策決定の舞台裏やワクチン開発、医療現場の現実とは。

【岡部信彦:プロフィール】
小児科医で、国立感染症研究所感染症情報センターの室長などを歴任。2013年には、新型インフルエンザ等対策有識者会議会長代理を務めるなど、長年、感染症やワクチン政策の立案に関わってきた。現在は、内閣官房参与として菅首相に直接助言するほか、厚生労働省のアドバイザリーボードや政府の分科会メンバーとして新型コロナウイルス対策の中枢を担う1人。川崎市健康安全研究所の所長。