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長期政権を見据える中国・習近平政権の行方

2021年1月3日 17:09

中国・武漢から始まった新型コロナウイルスの感染拡大により、習近平国家主席の一強体制が揺らぐのでは…2020年初めはこうした見方が出ていた。

新型ウイルスだけでなく香港や台湾、南シナ海の領有権など様々な問題で国際社会から批判を受け、対外的には四面楚歌(そか)とも言える状況になっていたのが、その理由だ。

しかし、現実は違った。中国国内での習近平指導部に対する支持は揺らぐどころかコロナによる状況を利用することで高まり続けてきた。

■新型ウイルスに打ち勝ったとアピールする中国
中国国内では新型ウイルスをめぐる政府への不満や批判の声は強権によりかき消され、むしろ日を追うごとに中国共産党の一党独裁体制を称賛する声が大きくなっている。

背景にはメディアを巧みに使った中国を称賛するイメージの国民への刷り込みだ。海外の報道が遮断される中国では一般市民が中国政府への批判的な意見に接する機会は少ない。

目にするのは中国だけがウイルスを抑え込むことができたとする国営メディアの報道だ。世界が感染拡大の第2波、第3波に苦しむ中、ウイルスに打ち勝ち、経済活動の回復を実現していると繰り返し強調して伝えられた。

■コロナを利用して支持を高める習近平政権
その極め付きが2020年9月、新型コロナウイルスとの戦いで貢献した医療従事者や軍人への表彰式をめぐる報道だ。式典で習主席は中国政府のウイルス対応を総括し「新型ウイルスとの戦いで我が国の制度と体制の優越性を力強くアピールできた」などと自画自賛した。

国営メディアはウイルスとの戦いに勝利したのは「習近平同志を核心とする党中央の強固な指導のたまものだ」などと中国政府高官の声を紹介し、習主席の手腕と中国共産党の指導によってこそウイルスを抑え込むことができたと報道。

国営メディアの報道だけを目にする中国国内の市民から聞こえてくるのは「中国しかウイルスを抑え込むことはできない」といった自国への称賛の声である。こうした流れも後押ししてか習近平体制への支持も揺らぐことはなかった。

■長期政権への布石
こうした中、10月下旬、中国共産党の最高幹部が集まる「5中全会」と呼ばれる会議が開かれた。ここで注目されたのが指導部の人事だった。

中国では5年に1度開かれる中国共産党の党大会で最高指導部の政治局常務委員が入れ替わる。毎回、党大会を2年後に控えたタイミングで開催される「5中全会」ではこれまで最高指導者の後継が示されるのが慣例だった。習主席も2010年に軍を統括する中央軍事委員会の副主席に選ばれ後継者としての立場を固めることとなった。

だが、今回はそうした人事が示されることはなかった。習主席が一極集中の権力体制を強化し、異例となる3期目の続投に向け足場を固めたとの見方が強まった。

中国政府の内情を知る消息筋は「後継者となりうる人物が見当たらない」とした上で習主席が国家主席の座を維持したまま3期目も続投するのではとの考えを示した。国内での支持の高まりを背景に異例とも言える長期政権に向けた道筋が着々とできつつあるように見える。

■経済回復を推し進める中国
今後の政権運営を安定させるカギは経済にある。2020年の年末に発表された翌年の経済方針では、重点任務として「科学技術力の強化」「サプライチェーンの自主制御能力の強化」「強大な国内市場の形成と内需拡大」といったキーワードが並んだ。

透けて見えるのはハイテク分野で台頭する中国を抑え込もうと貿易戦争を繰り広げるアメリカへの対抗姿勢である。対立のさらなる長期化を見越してたとえ経済的な結びつきが途絶えたとしても影響を最小限に抑え、自力で安定的な成長を成し遂げようとしている。

一方で巨大な国内市場を背景にこれまでの輸出中心のビジネスモデルから内需主体の経済へ大きな転換を図ろうとしているとの見方もある。

■コロナ禍の光と影
ウイルスに打ち勝ち、世界で唯一経済のプラス成長を実現したと今後への自信を示す中国。このまま経済の回復基調を維持し、習政権の長期化への布石となるのだろうか。

しかし、足元ではコロナ禍の影響によりほころびも見える。2020年11月、北京の中心部にある賃貸住宅の仲介会社の本社前に人だかりができていた。新型ウイルスの影響で経営が悪化し、賃料が支払われない状況が多発。これにより「倒産するのではないか」との情報が出回ったため部屋を貸し出しているオーナーや退去を求められた住人らが押し寄せていた。この会社は北京だけでなく上海や深センなどで40万以上の部屋を管理していて、取り付け騒ぎは各地で起きていた。

■長期政権に向けた課題
コロナ禍によって社会への不満は高まっていて、中国政府はこうした不満が政権批判に向かうことを警戒している。いかに経済の立て直しが進んでも、政権批判が高まれば習主席の長期政権は揺らぎかねず、安定した政権運営は最も重視される。

習主席としては3期目の実現のためにもコロナの影響を払拭して好調な経済を維持し、いかに社会の不満を抑え込んでいくかが2021年の課題となりそうだ。