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衝撃の“離脱劇”転換期迎えたイギリス王室

2021年1月3日 7:00

「私たちは王室の中に新しい進歩的な役割を作り出すことを決めました。王室の上級王族の地位を退き経済的に独立することを目指します」

■衝撃の“離脱宣言”

2020年1月8日、ヘンリー王子とメーガン妃の突然の“王室離脱宣言”が世界を驚かせた。王子夫妻はエリザベス女王にすら知らせずにSNSで離脱を発表。ヘンリー王子は後に「こうするしかなかった」と振り返り、メーガン妃も「王室はメディアの批判から私を守ってくれず、反論することも許されなかった」と苦渋の決断だったと明かしている。

事前通告なしの離脱劇に王室は混乱した。王子夫妻が今後どのように王室と関わるのか、夫妻への公金の支出や称号はどうなるのか、何も決まっていなかったからだ。5日後にヘンリー王子とエリザベス女王、兄のウィリアム王子らによる緊急の家族会議が開かれ、王室から正式に王子夫妻の意向が発表されたのは、突然の離脱宣言から10日後のことだった。


■厳しい決断を下したエリザベス女王

ヘンリー王子夫妻は一定の公務をこなしながらロイヤル・ファミリーとして新しい進歩的な役割を果たしたいと願っていた。しかし、王子夫妻に課された条件は厳しいものとなった。「称号の返上」「すべての公務から退くこと」「公金の支出を受けないこと」などが条件だった。公共放送BBCは「これほどきっぱりとした別れはない」とエリザベス女王が厳しい決断をしたと伝えた。

こうした中で、ヘンリー王子夫妻が『サセックスロイヤル』の商標登録を申請すると、衣服や文房具などの分野が含まれていたこともあり、国民からは「ロイヤルを名乗り収入を得ようとするのか」と批判が噴出した。女王は『サセックスロイヤル』の使用を認めず、王子夫妻は商標申請を取り下げた。

女王の毅然とした態度は、ロイヤルと私人のいいとこ取りは国民の理解を得られないという強い危機感の表れといえるだろう。


■“暴露本”出版と植民地支配の歴史への批判

混乱を経て、3月末をもって実質的に王室を離脱したヘンリー王子夫妻だったが、その後もイギリス王室との溝は深まるばかりとなった。

決定的な出来事は二つ。一つは“暴露本”の出版だ。王子夫妻に近い王室ジャーナリストが書いた『自由を探して』には、ヘンリー王子と兄ウィリアム王子の確執や、メーガン妃とキャサリン妃の不仲など、2人が王室内で孤立していく様が具体的な発言内容まで詳細に描かれている。王子夫妻は執筆者から取材を受けていないとしているが、タブロイド紙を訴えるなど厳しい対応をしてきた王子夫妻が、この本については黙認状態でいるため、何らかの形で協力したとの見方が大勢だ。イギリスメディアの王室担当記者は私たちに「この出版によって王室に戻る道は閉ざされた」と語った。

もう一つはイギリス植民地支配の歴史についての発言だ。王子夫妻がそろって出席した慈善団体のビデオ会議で、ヘンリー王子は「植民地支配などの過ちを認めない限り、前に進むことはできない。一部が優遇される人種差別的な制度の中で私たちは育ってきた」などと語り、イギリスは過去の過ちを認めるべきという考えを示した。メーガン妃も「やるべきことだ」と述べ、王子に同調した。豪華絢爛な宮殿に住み、広大な土地や貴重な不動産など莫大な収入源を持つイギリス王室自体が植民地支配の歴史の上に成り立っている側面もある中、王子夫妻の発言はイギリス国内で波紋を広げた。


■“不人気”のヘンリー王子夫妻 今後どのような姿を?

「なぜ王室を離脱したのに“王子”と“妃”のままなのか」。私が記事を書く中でも、こう指摘されることは少なくない。確かに違和感があるかもしれないが、女王の孫で王位継承権を持つ“王子”であることは、離脱しても変わらない事実だ。だから、私たちはその王子の妻をメーガン妃と呼んでいる。イギリス王室の公式サイトにも2人のプロフィールは残ったままだ。

「王子と妃」であり続けることは夫妻にとって大きなメリットだが、同時に厳しい批判もつきまとう。“離脱宣言”で王子夫妻が掲げた「経済的に独立する」という目標を、動画配信大手「ネットフリックス」との巨額契約で実現すると、「王室を売った」との批判にさらされた。アメリカ大統領選挙で投票を呼びかけた行為は、政治と距離を置く王室のタブーを犯したと指摘された。

こうしたこともあり、王子夫妻の人気は急落している。大手世論調査会社「YouGov」によると、かつて兄・ウィリアム王子と並ぶ人気を誇ったヘンリー王子に対し、イギリス国民の実に約5割が否定的な感情を持つと回答した。メーガン妃にいたっては6割近くにのぼっている。

新型コロナウイルスの猛威が続く中、2021年は、ヘンリー王子夫妻の本格的な活動が始まる年となる。動画コンテンツを通じたメッセージの発信や環境保護活動、政治的な発言などを人々が目にする機会も増え、その多くはこれまでロイヤル・ファミリーが行ってこなかった新たな形になるとみられる。

メーガン妃はかつて「前例がないことでも正しいと思うことを実行するのを恐れてはいけない」と語っている。「王子と妃」であり続ける2人は、今年も暴露本『自由を探して』のサブタイトルにある「a modern royal family(現代的な王族)」になるため信じた道を突き進むだろう。


■転機を迎えた英王室のこれから

一方、イギリス王室もヘンリー王子夫妻の離脱によって大きな転機を迎えている。アフリカにルーツがあり、元女優で離婚歴もあったメーガン妃を、イギリス王室とイギリス国民が盛大に迎え入れたのは、2018年5月のことだった。そのわずか1年半後、メーガン妃は夫と長男を連れてイギリスを去ってしまった。

王室は暴露本の内容やヘンリー王子夫妻の言葉に一切の反論をしていないが、王室の旧態依然としたあり方を疑問視する声もあがっている。あるイギリス人の女性は、私たちのインタビューに「21世紀にもかかわらず、王室は自分たちと違う存在を受け入れる準備ができていなかったと」と話した。

また、世論調査では65歳以上の84%が「現在の君主制を続けるべき」と答えたのに対し、18歳から24歳の若い世代は42%にとどまっている。逆にこの世代では34%が「選挙で元首を選ぶべき」と回答し“王室離れ”も進んでいる。

こうした中、イギリスは2020年、ヨーロッパ最悪といわれる新型コロナウイルスの被害に見舞われた。94歳のエリザベス女王は人々に結束を呼びかける異例のスピーチを行い、ウィリアム王子夫妻も先頭に立って医療従事者を励ますなど、国民から必要とされる王室であり続けるため奮闘した1年でもあった。

ウィリアム王子は弟のヘンリー王子について、「今は違う道に進んでいる」と語っている。それぞれの道に進んだロイヤル・ファミリーが2021年、どのように新たな道を切り開くのか。世界が注目している。