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2021年 どうなるトランプ劇場第二幕

2021年1月1日 17:56

2021年1月20日、「トランプ劇場」の第一幕が幕を下ろす。しかしそれは同時に、「第二幕」のスタートになるのかもしれない。

■首都ワシントンに数千人…なお根強い「トランプ支持」
2020年12月12日。首都ワシントンの中心部に全米から数千人のトランプ支持者が集まり、大規模な集会が開かれた。「トランプ」と書かれた旗や星条旗を掲げ、「もう4年!」とシュプレヒコールをあげる。もちろん、ほとんどがトランプ大統領にならい、「マスクなし」だ。

バイデン氏を正式に大統領に選ぶ選挙人の投票を2日後に控える中、それでも誰もが「選挙に不正があった」「郵便投票の票の出方がおかしい」などと、大統領と同じ主張を口にする。

会場では、「プラウドボーイズ」と背中に書かれた、黒い服の集団も目にした。トランプ支持の極右集団だ。まさにトランプ支持者大集合、といった感の集会は、トランプ大統領への根強い支持と、この国の根深い分断・対立を雄弁に物語っていた。

トランプ大統領自身も、こうした「強固な支持層」のつなぎ止めに余念がない。この日は大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」が、会場となった広場の上を低空飛行し、支持者を喜ばせた。

■敗北認めず…異常事態のまま進む政権移行
現職の大統領が選挙での敗北、さらには平和的な権力の移行を認めないというのは、文字通り異常な事態だ。もちろん、トランプ大統領が全く敗北を意識していないわけではない。「私は選挙で負けたとしても構わない。ただ、公正・平等な選挙で負けたい」と弱気な発言も飛び出し、選挙後はめっきり公務の数が減り、週末はゴルフ三昧だ。

それでも、米メディアから伝えられるホワイトハウス関係者の見方は、一貫している。「大統領が表だって敗北宣言をすることはない」。その背景にあるのは、選挙で獲得した、現職大統領として史上最多の7400万票を超える支持だ。

■2024年大統領選に立候補?
2020年12月中旬。選挙人による投票でバイデン氏の次期大統領就任が固まった直後、トランプ大統領の陣営から支持者にこんなアンケートメールが送られた。「あなたはトランプ大統領が、2024年の大統領選に立候補すべきだと思いますか?」

トランプ大統領も、「友人は言う『心配するな。2024年大統領選での支持率は圧倒的だ』と。私は2024年まで待ちたくないが」などと述べ、「色気」を見せている。

バイデン次期大統領の就任式がある2021年1月20日その日に、自らの2024年の大統領選にむけたキックオフイベントを計画しているという報道もある。「トランプ大統領は、途中から明らかに、2024年を見据えて影響力を維持することに、法廷闘争の目的を変えたように見える」ある外交筋の見方だ。

■実態は「注目」「求心力」のつなぎとめ戦略か
ただ、トランプ大統領が本当に2024年の大統領選に出馬する、とみるのは早すぎる。「2024年戦略」の実態を、政治系有力ネットメディア「ポリティコ」が端的に解説する。

「トランプ大統領は2024年の大統領選に出馬する必要はない。人々に『彼は再出馬する』と思わせるだけでよいのだ。彼は退任後に最も必要なもの、つまり『注目』を得るために選挙戦略を利用している」

この記事によれば、トランプ大統領は自身に近い仲間に、2024年の再選が難しいと判断すれば、「2年でやめる」とも話したという。敗北を認めず、不正を主張したままホワイトハウスを去り、7400万超の「民意」を背景に、アメリカ国内で求心力を維持する。見えてくるのはそんなストーリーだ。

この「第二幕」のための資金も集まっている。ニューヨークタイムズによると大統領選の後だけで、トランプ大統領と共和党は支持者からの寄付などで2億5千万ドル、日本円で260億円近くの資金を調達したという。

あるアメリカ政府関係者は冗談交じりに、「退任後、友人のデニス・ロッドマンと一緒に訪朝して、金正恩委員長に会うとか、トランプならやるんじゃないか」と語る。私たちは、すでにトランプ大統領の手の中で踊らされているのかもしれない。

■加速するのか「トランプ離れ」アメリカの分断の行方は…
敗北を認めず、民主主義の常道に反するトランプ大統領から、離れていく人たちがいるのも確かだ。

2020年12月初旬、トランプ大統領の側近だったバー前司法長官が、「選挙結果を覆す大規模な不正の証拠は見つからなかった」とAP通信のインタビューで述べ、公然と反旗を翻したのは象徴的だった。

私たちが話を聞いたトランプ支持者の中には、選挙後の大統領の姿勢を「みっともないと感じて支持をやめた」という男性もいた。ただ、トランプ大統領が獲得した7400万票は、トランプ大統領の共和党への影響力を改めて浮き彫りにした。

さらに現状、共和党に「次世代のスター候補」の姿はなかなか見当たらない。民主党のバイデン政権が、56歳のカマラ・ハリス次期副大統領や、38歳のピート・ブティジェッジ次期運輸長官候補など、次世代を担う人材を起用しているのとは対照的だ。

関係者によると、共和党内でも、明確な「ポスト・トランプ」候補が出てこない現状に、「このままでは保守政党としての共和党のアイデンティティーが失われてしまうのでは」と危機感を募らせる声が挙がっているという。

一方で、退任後のトランプファミリーには、「司法当局からの捜査」のリスクもつきまとう。税金未納問題などで刑事訴追されるおそれがあると指摘されているのだ。

2020年12月には、長女のイバンカ補佐官が、2017年のトランプ大統領の就任式の経費を巡る疑惑で、検察当局から5時間にわたり事情聴取を受けた。ニューヨークタイムズなどは、トランプ大統領が自身の子供らに、予防的に「恩赦」を与えることについて、顧問らと協議していると報じている。

ともあれ、大統領退任後も、トランプ大統領の一挙手一投足が注目されるのは間違いない。選挙後のトランプ大統領の存在は、ある意味大国アメリカがなお抱える「分断」の象徴になってしまった。トランプ劇場の第二幕に国民がどう向き合うのかが、大国アメリカの行方を左右することになる。