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2021年のアメリカ経済と株価の行方は

2020年12月31日 7:09

「3万ドルを突破した!神聖な数字だ!誰も考えたことがなかった!」――2020年11月24日、ダウ平均株価が史上初めて3万ドルの大台を突破した直後、トランプ大統領は記者会見で誇らし気に語った。

実はこの記者会見は、大統領選のあと、姿を現すことが少なくなったトランプ大統領が急きょ開催したものだ。「トランプ政権で記録を更新したのは48回目だ!」とも話し、わずか1分ほどで立ち去った。

ところが市場関係者は、「トランプ大統領にとっては皮肉な形ですね」と語った。なぜならこの日、株価を上げた一因は、大統領選で勝利を宣言していた民主党のバイデン氏が新政権の閣僚人事の第一弾を発表したことにあったためだ。ただ、この市場関係者は、こうも語った。「株価が上昇したのはトランプ政権の4年間の実績だと言えると思いますよ」

■トランプ政権下の株価
2016年のトランプ大統領の当選前に1万8000ドル台だったダウ平均株価は、2020年12月には3万ドル前後で推移している。2017年の就任直後に初めて2万ドルを突破。この年の年末には大型減税を決めたことなどから、2018年1月には、2万6000ドル台にまで上昇するなど、株価は右肩上がりとなってきた。

その後、トランプ大統領は中国との貿易摩擦を引き起こし、株価は下落する局面もあったが、下落の原因を貿易摩擦ではなく、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会の金融政策によるものだとして、利下げを求めた。

ほどなくしてFRBは景気が今後落ち込まないための予防策として「利下げ」へと舵を切り、金融政策を180度転換した。FRBのパウエル議長はトランプ大統領の影響を否定し続けたが結果的にその利下げも影響して株価は上昇した。

株価は2019年11月には、初めて2万8000ドル台に乗せ2020年1月には2万9000ドルを超えた。このころ、2020年はさらにアメリカの景気は拡大し、早いうちに3万ドルを超えるとの見方も出ていた。さらに、秋に大統領選を控えたトランプ大統領にとっても、株価は自らの格好のアピール材料で市場からもトランプ大統領の再選を期待する声が聞かれた。しかし、わずか1、2か月で状況は一変することになる。

■新型ウイルスと大統領選の2020年
2020年3月18日、ニューヨーク証券取引所では、トレーダーたちが頭を抱えていた。それは、株価の下げ幅が一定水準を超えたため、自動的に取引が15分間停止される「サーキットブレーカー」が発動したからだ。しかも、発動はすでに3月に入り4度目。

ダウ平均株価はこの日、トランプ大統領の当選前と同じ水準の1万8000ドル台になる場面もあった。新型コロナウイルスの感染の急拡大に加え、それに伴う、経済活動の制限により、株価は急落し、ダウ平均株価は年初から1万ドルあまり下げる事態となった。

さらに、3月の後半には1週間の失業保険の申請件数が前の週の11.6倍にあたる、328万3000件と過去最悪を更新。4月の失業率は第二次世界大戦以降で最悪となる14.7%を記録するなど経済指標も急速に悪化した。

ただ、対応も素早かった。トランプ政権は国民への現金給付も含む大規模な経済対策を実施した。また、FRBも一気に金利を引き下げ、いわゆる「ゼロ金利政策」を導入した上で、景気を下支えするための量的緩和策へと舵を切った。

こうした迅速な対応で株価は下げ止まり、すぐに2万ドル台を回復した。その後も大きくは下がらず、むしろ上昇へと向かった。また、大統領選の展望や結果も株価の下落要因とならなかった。世論調査では野党・民主党の候補者が支持率でトランプ大統領をリードしてきた。株価を上昇させてきたトランプ大統領の再選への期待が市場では根強かったが、民主党の候補者が富裕層や大企業への増税で景気を冷やすと警戒されていたサンダース氏やウォーレン氏ではなくバイデン氏に決まったことで市場の懸念は後退した。

さらにコロナ禍にあっては、いずれにしても、追加の経済対策が必要になるとの見方から、市場はバイデン政権の誕生を織り込んでいった。アメリカは新型コロナウイルスの感染者が世界一多い国となっているが、それでも株価が上昇したのは元々のアメリカ経済が堅調だったことにある。

そうしたベースがある中で「グーグル」や「アマゾン」などGAFAと呼ばれるIT大手4社を中心にコロナ禍でもアメリカの主要企業の業績が好調で、投資家を安心させたことも大きい。

岡三証券NYの吉田拡司所長は「アメリカ企業の稼ぐ力は強く、政治の状況はあくまでその次の材料だ」と語る。トランプ政権下にあって、バイデン新政権への期待でダウ平均株価が3万ドルを突破したのは、その証左かもしれない。コロナ禍で大統領選のあった2020年の株価は、最高値圏で終えようとしている。

■2021年のアメリカ経済と株価は
2021年のアメリカ経済を左右しかねない重要なポイントの一つは、新型ウイルスをめぐる追加の経済対策である。感染が再び拡大している中で経済活動の制限強化などへの懸念が強まっている。景気の下振れに対応するために追加の経済対策が不可欠で、それは複数回必要になる可能性もある。

そして、2021年の経済対策は民主党のバイデン新政権で行うことになるが、1月のジョージア州の決選投票で議会上院の過半数を共和党が維持するかどうかが一つのポイントとなる。民主党が過半数を確保すれば、すでに下院では過半数を確保しているため、バイデン新政権の看板政策の実現可能性が一気に高まる。

しかし、市場は上院の過半数を共和党が維持することを期待している。「景気を冷やしかねない、増税などの政策について、共和党がブレーキ役になる」(岡三証券NY・吉田拡司所長)とみているからだ。

もう一つのポイントはFRBの金融政策だ。FRBは量的緩和政策については、最大雇用と物価安定の目標を達成するまでは現状維持する方針を発表した。長期間の金融緩和により、アメリカ経済の下支えを続ける覚悟で市場も歓迎している状況だ。

こうした中、バイデン新政権の財務長官にイエレン前FRB議長が指名されたことも大きい。FRBは政権から独立した存在だが、イエレン氏とパウエル議長は一緒にFRBで働いていた。

吉田所長は「表向きはそうは見せないだろうが、財務長官とFRB議長が気心が知れる仲でコミュニケーションをとれるというのは大きい」と語る。大統領がトランプ氏からバイデン氏にかわってもアメリカの景気回復への期待は市場では根強く、2021年の株価はさらに上がるとの楽観的な見方も少なくない。

ただ、最も重要なのは新型ウイルスのワクチンが普及するかどうかだ。ワクチンの普及により、感染拡大を抑えることができ、経済活動の制限が解除に向かえば景気の回復が進むことになる。逆に普及が遅れれば遅れるほどアメリカの景気回復も遅れる。

2021年、アメリカはコロナ禍から抜け出せるのか。感染者が世界で最も多い、世界一の経済大国の動向が世界経済の方向性を決めることになるだろう。