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ワクチンは世界を救うか?一方新たな難題も

2020年12月29日 19:11

2020年12月8日、新型コロナウイルスを巡る動きは1つの節目を迎えた。世界中で新型ウイルスの第2波、3波が広がる中、ついに事態打開のカギを握るワクチンの接種がイギリスで始まったのだ。

その後はEU(=ヨーロッパ連合)加盟国や、アメリカなどでも接種が始まっている。コロナ禍が長期化する中、ワクチンは終息に向けた「希望の光」となるのだろうか。一方、2021年、ワクチンを巡って世界は新たな難題に直面することにもなりそうだ。

イギリスでは開始から10日あまりで35万人がワクチンを接種し、イギリス政府は今後も接種できる場所を増やしていく方針だ。重症化リスクなどを考慮した優先順位は以下の通りとなっている。

■ワクチン接種の優先順位
1:介護施設の入所者、スタッフ
2:80歳以上、(現場で働く)医療従事者
3:75歳以上
4:70歳以上
5:65歳以上
6:16歳~64歳で基礎疾患がある人
7:60歳以上
8:55歳以上
9:50歳以上

■気になる副反応は?
新たなワクチンには副反応の懸念がついて回るのが常だ。製造元のファイザーなどは、臨床試験では頭痛や倦怠(けんたい)感などが見られたものの、「重大な安全性の懸念は認められなかった」としている。

NNNはワクチンの接種を受けたという女性2人(医療従事者と介護施設の職員)から直接話を聞くことができた。2人とも「体調に問題はなく、心配もしていない」という。

一方、これまでに2人がワクチンに対するアレルギー反応を起こしている。地元メディアは、激しいショック症状が起きるアナフィラキシーのような反応だったと伝えている。この2人は過去に重いアレルギー反応を起こしていたことがわかり、イギリスの医薬品規制当局であるMHRAは、こうした経験のある人はこのワクチンを接種するべきではないと警告した。

■通常の生活に戻るのはいつ?
イギリス以外でもアメリカのほか、EUなどでファイザーのワクチンの接種が始まった。このワクチンについては日本政府も6000万人分の供給を受けることでファイザーと合意している。

こうした中、イギリスの調査機関「Airfinity」はワクチンの供給予定を基に各国がいつ「通常の生活」に戻れるのか予測を示している。

最も早いのがアメリカで2021年4月下旬にコミュニティーの中で感染が広がらなくなる「集団免疫」の状態に達するとしている。以下、数か月遅れてカナダは6月上旬、イギリスは7月上旬、EUは9月初め、それぞれ集団免疫の状態に至るとの予測だ。

一方まだワクチンが承認されていない日本が集団免疫の状態になるのは2022年の4月とされている。

■2021年世界は新たな難題に直面
副反応への懸念を考慮に入れてもワクチンの接種開始は前向きな動きではあることは間違いない。ただ、「ワクチン獲得レース」においては国力の差がはっきりと表れている。

まず主要国の調達状況を見てみる。

アメリカ:11億1000万回
カナダ:3億4200万回
EU:15億8500万回
イギリス:3億5700万回(米・デューク大学調べ)

ここに挙げた4つの国・地域では、複数の企業などからワクチンの供給を受ける契約をしていて、単純に足し合わせると国民全員を超える数のワクチンを確保した形だ。

一方、接種が遅れそうな国も少なくない。国際NGOのオックスファムは12月9日、発展途上国の67か国で2021年ワクチンを接種できるのは人口の1割にとどまるとの調査結果を発表した。

新型コロナウイルスは多くの人命を奪っただけではなく、各国の経済に深刻な打撃を与えている。アメリカのビル&メリンダ・ゲイツ財団によると世界で「極度の貧困状態」にある人の数はここ20年、一貫して減少してきた。しかし2020年は前の年に比べて7%以上増えるとの予測値を示している。

またOCHA(=国連人道問題調整事務所)も2021年が過去数十年にわたる貧困対策が大きく逆戻りする年になるかもしれない、としてさらなる格差拡大を警告した。

こうして見ると、著しい「ワクチン格差」により、先進国がいち早く立ち直る可能性がある一方で、貧しい国々はより長くコロナ禍にあえぎ、経済的困窮が続くという構図が見えてくる。

世界はこうした格差解消に取り組まざるを得ないだろう。2021年、相次ぐワクチン投入により事態は大きく改善するかもしれない。しかし同時に新たな難題と格闘する年になりそうだ。