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日韓視界不良2:五輪外交? 今後の日韓は

2020年12月28日 18:07

2020年は、日本と韓国にとって“停滞の年”だった。関係悪化に新型コロナウイルス流行も重なり、首脳同士の対話の機会は霧散した(前編参照)。しかし、ここにきて韓国側が日本との対話に舵を切っている。そのワケは─。

■東京オリンピックで「日米・南北4者会談」?■

ここにきて文政権が日本との対話に舵を切った背景には、「北朝鮮」の存在も大きい。2018年2月に韓国・平昌(ピョンチャン)で行われた冬季オリンピックでは、開会式に金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹、与正(ヨジョン)氏らが訪れて融和ムードが演出され、同年に3回行われた南北首脳会談の実現へと繋がった。

南北の対話が閉ざされている今、文政権には“平昌の成功体験”を再演し、2021年の東京オリンピックを北朝鮮との対話の契機にできないかとの思惑があるのだ。韓国側は、「日本も北朝鮮との首脳会談を望んでいるから乗ってくる」と考えたようだ。

しかし、実際のところは、日本側から「拉致問題で進展がなければ、金正恩委員長を訪日させられるワケがない」、「オリンピックの政治利用」などと厳しい意見が出ていて、現時点で、現実味はほぼない提案と言える。

■今後の日韓関係は■

日韓関係に限れば、東京オリンピックは雰囲気を変える契機になりうる。ただ、当面のカレンダーを見る限り、日韓にとって厳しい局面が続くとみられる。いわゆる元徴用工訴訟に関連しては、日本製鉄の資産について、2020年12月9日以降、売却命令が可能な状態に入っている。

また、12月末には三菱重工業の資産の差し押さえ命令2件について、公示送達の効力が生じている。日本企業の資産「現金化」に向けた司法手続きは、今、この瞬間も刻々と進んでいる。

それに加えて、慰安婦関連の裁判も懸念材料だ。韓国の元慰安婦や遺族が日本政府を相手取り、損害賠償を求めた2つの裁判について、いずれも2021年1月に判決が言い渡される。日本政府は、そもそも国際法上、外国政府が他国の裁判で被告にならないとする「主権免除」の原則から、訴えは却下されるべきと主張し、裁判には出席していない。裁判所は、原告の訴えを“門前払い”することなく審理していることから、日本側に厳しい判決が出るのではないかとの見通しも出ている。

仮に日本側が敗訴し、判決が確定すれば、韓国国内の日本政府の国有財産が差し押さえられる可能性さえあり、元徴用工訴訟と同様に日韓関係の大きな懸案になりうるのだ。

さらに、韓国では2021年4月に、ソウル・釜山の2大都市で同時に市長選挙が行われる。翌22年に予定される大統領選挙の行方をうらなう重要な選挙と位置づけられていて、4月以降の韓国は大統領選挙まで一気に「政治の季節」に突入する。

韓国側が腰を据えて日韓関係など外交政策などに取り組めるのは、“4月の市長選挙前まで”との見方もあり、時間的な余裕は多くない。もともと身動きが取れる幅が狭い中で、時間的制約も厳しくなり、日韓の外交当局者からも楽観的な見方はほぼ聞かれなくなっているのが現実だ。

ただ、日韓双方がこれ以上は事態を悪化させないように状況を管理しようとしていることは唯一の救いだ。

■文政権VS検察 対立泥沼化で支持率低下■

韓国の内政に目を向けると、文大統領の支持率が急速に低下していることも気がかりだ。2020年12月11日付の韓国ギャラップの世論調査では、文大統領の支持率は政権発足以来、最低となる38%まで落ち込んだ。主な要因は、政権と検察の対立が泥沼化し、その中で検察の捜査権限を削ぎ落とす検察改革を半ば強引に推し進めたことだとみられる。

この支持率は、2019年秋のチョ・グク前法相の辞任、2020年夏の不動産価格高騰をめぐる対応への不満で支持率が大きく落ち込んで以来の低水準だ。何があっても揺るがない「コンクリート支持層」と呼ばれる文政権の支持基盤は「4割」と言われていたが、それを割り込み、進歩系の主要支持層でも離反が進んでいるとみられる。

日本でも韓国でも事情は同じだが、政権の支持率が低下することは、“大きな政策判断をする余力”が削がれることを意味する。いわゆる元徴用工問題などで政治決断を行うには、韓国国内の一定の反発が予想されるだけに、政権の体力が必要で、支持率の急速な低下は日本にとっても望ましい状態ではないと言える。

韓国内政の混乱は、外交政策に影響する可能性があるだけでなく、2022年の次期大統領選挙にも直結するため、引き続き注視していく必要がある。