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コロナ禍で「たが外れた」予算案

2020年12月28日 7:03
コロナ禍で「たが外れた」予算案

「あごがはずれた」「開いた口がふさがらない」「たがが外れた」…。いずれも、2021年度の予算案について財務当局が発した言葉である。「何をひとごとみたいに…」と思われるかもしれない。だが、そんな風に一歩引いて冷ややかに論評せざるを得ないほど、それぞれの顔には、疲労とあきらめの色が浮かぶ。

2020年はコロナに始まり、コロナに終わった一年だった。

今年度はコロナの打撃による痛みをおさえるため、3回にわたって補正予算が組まれた。一般会計の歳出総額は175兆円。コロナ禍を受け、税収が当初の見込みより8兆円少なかったため、国債を大量発行した。2020年度の新規発行額は112兆円となり、それまで最悪だった、リーマン直後の2009年度の倍以上に達した。国と地方あわせると、長期の債務残高、つまり「借金」は1200兆6703億となる。国民ひとり当たりになおせば、実に960万円にのぼる計算だ。

■「悪者になる」

「外では言えないが、悪者になる覚悟だ」各省からの概算要求締め切りを前にした9月。予算編成をとりしきる主計局のトップ、矢野康治局長はそう言って、部下を鼓舞した。

「コロナで何をどうやっても、野党はおろか、与党からも批判されるだろう。切っても、貼っても、どちらからも批判される。ならば真剣に考え抜き、批判覚悟で、これがベスト、と信じる予算にしよう」そういう切実な思いだった、とのちに語った。

外からの圧力に屈することなく、きちんと削るべき所は削り、将来世代に胸をはれる予算に―。局内の士気が上がり、「戦闘モード」になったという。矢野局長は菅首相が官房長官だった当時、秘書官をつとめたことがあり、財政再建についてもきちんと説明できる間柄だ。

■「死闘だった」

だが、予算編成の過程について「死闘だった」と振り返る。成果もあった。焦点のひとつだった75歳以上の医療費の窓口負担では、およそ370万人が2割負担に引き上げられる。薬価改定では日本医師会などの抵抗を押し戻し、国費にして1000億円の削減を実現した。

だが、2022年度から団塊の世代が75歳以上になり始め、後期高齢者に仲間入りする。医療費や介護費はさらに増え、財政を圧迫する。本当は、今、一時的に高齢者の人数の伸びが抑えられている時にもっと抜本的な議論に踏み込むべきだった。議論が尽くせなかった原因はやはり「コロナ」である。

さらに、衆院選を2021年にひかえた予算編成は「たがが外れた」ものになってしまった。

■当初予算は“キレイに”

特に、20年度の第三次補正予算と21年度の当初予算が一体となった「15ヶ月予算」は肥大化した。当初予算を「キレイに」しておく、つまり、必要以上に膨らませないために本来なら当初予算に入れるものまで、補正予算のほうにあれこれ詰め込んだのだ。

防災・減災、国土強靱化も、当初、財務省としては12兆円程度を考えていたが、二階幹事長の一声で15兆円に…。当初ではなく、「補正」に計上することで受け入れた。

■“看板倒れ”にさせない

コロナ禍に対処するには、ある程度の財政出動はやむを得ないとしても、今、コロナの影響で税収は落ち込み、国債発行の額も膨らみ続けている。若い世代にツケを回さないためにも、中長期的には財政を健全化させる必要がある。そのためには、成長を促す戦略が必要だ。

今回、菅首相肝いりの政策、脱炭素社会の実現とデジタル化、中小企業対策などに予算が重点配分された。こうした成長戦略が看板倒れにならず、しっかりと実を結ぶことが必要だ。

そのうえで、膨らみ続ける社会保障費など、それ以外の部分をいかに効率化するかの議論は、今後も続けていかなければならない。将来の暮らしに不安を抱けば、人々の財布のひもはさらに固くなり、景気回復もおぼつかなくなる。

■“真の悪者”に…

このままコロナの感染拡大が続けば、徐々にささやかれ始めた「次の補正予算」の声が現実のものとなるだろう。借金だのみの運営はいつか必ず、子どもたちの世代に手痛いしっぺ返しとなる。その前に今、コロナの状況を見極めながら、改革の緒につかなければならない。

財務省には、2021年こそ「真の悪者になる」不退転の覚悟でのぞんでもらいたいと思う。