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新型コロナ起源調査へ 次々新説(上)

2020年12月18日 22:13
新型コロナ起源調査へ 次々新説(上)

世界を変えたウイルスは、いつどこから始まったのか。2021年1月にもWHO(=世界保健機関)の調査団が中国を訪れる見通しだ。新型コロナウイルスの起源をめぐっては、アメリカと中国の間で陰謀論のような応酬が繰り広げられるなど政治的な思惑も交錯する中、その解明は置き去りにされている。
(NNN中国総局 富田徹)


■アメリカ軍持ち込み説、今も…

20年11月、武漢を訪れた際、奇妙な感覚にとらわれた。まるで台本でもなぞるかのように、多くの人が同じことを語ったからだ。

 「コロナを発症する前に軍人運動会に行ったことがある。そこで感染したに違いない」

華南海鮮市場で働いていた業者の一人は、こう語った。この業者は19年12月に発症したが、発症前に武漢で開かれた「世界軍人運動会」の見学に行ったという。

このイベントは19年10月18日から27日まで武漢市内の体育館で開かれ、世界各国の軍人が参加した。中国外務省の趙立堅報道官が、ここに参加したアメリカ軍人がウイルスを武漢に持ち込んだ可能性を指摘し、注目されたイベントである。

私たちは11月、感染が拡大した初期の状況が知りたくて、発生源とされた華南海鮮市場にいた業者たちを訪ね歩き、話を聞いた。しかし、彼らの多くが口々に語ったのは、「軍人運動会が怪しい」という言葉だった。

そもそも「アメリカ軍持ち込み説」は何の根拠も示されておらず、趙報道官はアメリカなどの批判を受けて発言を修正。しかし、武漢の人々の間では、ウイルスが「外から持ち込まれた」という意識が今も強く残っている。


■“市場の野生動物から感染”説どこへ?

今回もう一つ、武漢の人々から異口同音に聞かれた言葉があった。

 「海鮮市場の野生動物が売られていたエリアに感染者はいなかった」

武漢で感染が広がり始めた今年初め、最初に“犯人視”されたのは華南海鮮市場で取引されていた野生動物だ。ヒトへの感染を引き起こした可能性があるとして、市場内で生きたまま売られていた蛇、タケネズミなどが挙げられた。

しかし、11月に武漢を訪れた時、これを打ち消す言葉が相次いで聞かれた。私たちは華南海鮮市場で野生動物を扱っていた店が、郊外で鶏肉や羊肉など家畜の食肉を扱う店に衣替えして営業を再開しているのを見つけた。そこで店の人に話を聞くと「我々の従業員に感染した人はいなかった」と答えた。

中国は感染が拡大して以降、野生動物の食用や流通を規制する法律を制定し、中国の人々の食習慣を変える政策転換を打ち出した。当時、これは政府が新型コロナウイルスについて海鮮市場で取引されていた野生動物から広がった可能性を肯定的に受け止めたからだと思っていた。しかし、今や海鮮市場で取引されていた野生動物から広がったという説を支持する声は政府側からも国の専門家からもほとんど聞かれない。


■冷凍食品で海外から…中国主張じわり

こうした中で最近さかんに聞かれるのが「冷凍食品による流入説」である。11月、中国共産党の機関紙「人民日報」は中国疾病予防管理センターの専門家・呉尊友氏の見解を掲載した。

 「今年初めに湖北省武漢市で起きた爆発的感染を振り返ると、感染者は華南海鮮市場の冷凍海産品エリアに集中していた。それらの手がかりは低温物流体系を通して輸送された輸入の海産品を指し示しており、それが感染源となった可能性がある」

ん?待てよ。感染者が冷凍海産品エリアに集中していたという調査結果はいつの間に出ていたのか。唐突な印象は否めなかったが、記事はこう結ばれている。

 「このように冷凍の海産品、または肉食品を通して、新型コロナウイルスが中国に流入した可能性を示す証拠がますます増えている」

この説の根拠として挙げられてきたのが、中国各地で冷凍食品から新型コロナウイルスの検出が相次いで報告されたことだ。20年6月に北京の卸売市場で発生した集団感染は輸入サーモンが原因として挙げられた。その後も各地で報告が相次ぎ、12月には武漢市当局がブラジルなどから輸入した冷凍肉の包装から新型コロナウイルスが検出されたと発表した。

 もう一つは中国以外の国々でも19年末までに新型コロナウイルスが存在したのでは、との報告が相次いだことだ。アメリカでは19年12月に献血された血液から新型コロナの抗体が確認されたという。またイタリアでは、19年12月に収集された排水から新型コロナウイルスが検出されたとの報告があった。さらに、スペインでは19年3月に収集された排水からウイルスが見つかったという。

※「新型コロナ起源調査へ 次々新説(下)」につづく