×

英で「史上最大のワクチン作戦」始まる

2020年12月10日 18:03

世界中で新型ウイルスの第2波、3波が広がる中、ついに事態打開のカギを握るワクチンの接種がイギリスで始まった。地元メディアは「今日から反撃が始まる」として、Vaccine(ワクチン)の頭文字を取り「V-day」などと派手な見出しで接種開始初日を盛り上げた。

イギリスでは深刻な被害が出ているだけにワクチンに対する期待もひとしおだ。コロナ禍が長期化する中、ワクチンは終息に向けた「希望の光」となるのだろうか。

 ◇◇◇

現地時間の8日午前7時ちょうど、公共放送BBCをはじめ、メディア各社は一斉にワクチンの接種が始まった事を速報、続いて画面には最初に接種を受ける90歳の女性が病院のスタッフに拍手で迎えられる姿が映し出される。新聞各紙は「今日から反撃が始まる」として、Vaccine(ワクチン)の頭文字を取り「V-day」などと派手な見出しを掲げた。

イギリス政府が「史上最大のワクチン作戦」と位置付けるだけにその始まりは一際目を引くものだった。6万2000人以上の死者を出し、感染者数をにらみながらロックダウンと規制緩和を繰り返してきたイギリスだけにワクチンの実用化は大変な期待を持って受け止められている。

■高齢者優先、エリザベス女王も近日接種?

地元メディアによれば、初日だけでおよそ5000人が接種を受けたという。イギリス政府は今後接種できる場所を増やしつつ、数週間で80万回の接種を行う見通しを示している。また重症化リスクなどを考慮し、優先順位が以下の様に決まっている。地元メディアはこの優先リストに沿って今年94歳のエリザベス女王も数週間以内に接種を受ける予定だと伝えた。

■ワクチン接種の優先順位

(1)介護施設の入所者、スタッフ
(2)80歳以上、(医療現場で働く)医療従事者
(3)75歳以上
(4)70歳以上
(5)65歳以上
(6)16歳~64歳で基礎疾患がある人
(7)60歳以上
(8)55歳以上
(9)50歳以上

■気になる副反応は?

新たなワクチンには副反応の懸念がついて回るのが常だ。製造元のファイザーなどは、臨床試験では頭痛や倦怠感などが見られたものの、「重大な安全性の懸念は認められなかった」としている。

NNNは8日にワクチンの接種を受けたという女性2人(医療従事者と介護施設の職員)から直接話を聞く事ができた。2人とも「体調に問題はなく、心配もしていない」という。

一方、気になる情報もある。イギリスの規制当局MHRAによると、これまでに2人がワクチンに対するアレルギー反応を起こしたという。地元メディアは、激しいショック症状が起きるアナフィラキシーのような反応だったと伝えている。この2人は現在回復しているという事だが、過去に重いアレルギー反応を起こした事があるなどと伝えている。

MHRAは事態を受け、こうした経験のある人はこのワクチンを接種するべきではないと警告した。異例のスピード承認となった今回のワクチンだが、イギリス国民の信頼度は高い。12月3日に行われた世論調査では、ファイザーのワクチンを「信頼、ある程度信頼」が70%、「あまり信用していない」「信用していない」は20%、「わからない」が10%だった。65歳以上の高齢者に限れば「信頼、ある程度信頼」は80%となる。

■通常の生活に戻るのはいつ?

イギリスでは、アストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発中のワクチンにも期待が集まっている。早ければ年内にもMHRAが承認する見通しで、一般的な冷蔵庫での保管が可能な上ファイザーのワクチンよりも安価なのも魅力だ。

こうした中、イギリスのハンコック保健相はワクチンの接種が順調に進めば、来年の秋頃に通常の生活に戻れるだろうとの明るい見通しを示している。ただ、スピード承認されたこのワクチンの安全性については慎重な経過観察が必要な事は言うまでもない。

日本政府もファイザーと6000万回分の供給を受ける事で合意しているが、一足先にワクチンの使用に踏み切ったイギリスの今後には注目せざるを得ない。