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「芸は人なり」二刀流に挑む尾上右近の魅力

2020年11月20日 18:52
「芸は人なり」二刀流に挑む尾上右近の魅力

「本来の自分ではない自分を育てなければ…そう頑張っている自分が楽しい」――。歌舞伎俳優の尾上右近さんはそう語ります。歌舞伎座で公演中の「吉例顔見世大歌舞伎」では、役者と唄い手の「二刀流」で舞台に立っています。日本テレビの市來玲奈アナウンサーが取材しました。


【市來玲奈の歌舞伎・花笑み/第1回・尾上右近さん】

日本テレビアナウンサーの市來玲奈です。大学時代に学んだことがきっかけで、歌舞伎の魅力にとりつかれました。そんな歌舞伎初心者の私自身が、これから、さまざまな方から歌舞伎の面白さを学びながら、若い人たちへも、思わず笑顔になるような歌舞伎の魅力をお伝えしていきたいと思います。

第1回は、尾上右近さん。最近、よくバラエティー番組にも出演していますが、本業の歌舞伎俳優としては、立役から女方までを勤め、さらに唄い手・清元栄寿太夫(きよもとえいじゅだゆう)としての顔を持っていて、役者と唄い手の両方をこなす歌舞伎界でも類を見ない存在です。

11月の「吉例顔見世大歌舞伎/第二部・身替座禅」で約1年ぶりに歌舞伎座の舞台に立っています。真っ直ぐな目で語った言葉には、「本当に歌舞伎が大好きだ」という熱い思いが込められていました。


■“滝のような情熱”を注ぎ込む

――約1年ぶりの歌舞伎座の舞台はいかがですか。

「先輩方と同じ空気を共有することの重要さ、尊さを感じています。歌舞伎は制約された表現・直接的ではない表現が多いからこそ、“滝のような情熱”を注ぎ込んで舞台に臨んでいます。歌舞伎の本拠地であり、お客様が目の前にいる空間で、一つ一つ手を抜かずに自分に出来ることをやるという気持ちです」

――9月「九月大歌舞伎 色彩間苅豆 かさね」では唄い手として、マスクを着用しながらの公演でしたが・・・

「布を挟んで発声をするというのは経験のないことでした。ただ、『いかなる状況でも、いかなる条件があろうとも、一定のやれることがやれないとプロではない』と思います。この状況下が自分にとっては一つの試練であり、良い修行の時間でしたね」

――役者と唄い手の二刀流、心構えの違いはありますか。

「あまり気にしないですね。清元に関しては、唄い手としての役という感覚です。これは役者を通じて歌舞伎を経験してきた自分にしかできない方法かなと思います。清元をやるようになって変わったのは、素顔で舞台に上がるということで、精神的にも素の自分で出るという感覚があること。『芸は人なり』という言葉が大好きなんですが、日常の過ごし方が舞台に出ると感じるようになりましたね」


■「結局は人と人のつながり。自分を貫いていきたい」

――新型コロナウイルスの自粛期間中は何をされていましたか。

「ゆったり過ごしていました。僕自身、仕事に影響するから、どこかで心の在り方を一度整理したいと思っていたんです。人との関わり方や、自分の喜怒哀楽の陥り方など。自分なりに考えてワクワクしていましたね。流れに身を任せることが好きなので。ほかには絵を描いていました。先輩のお役の写真を見て描いて、なるべく歌舞伎から離れないようにしていました」

「ファンクラブの会員に直接電話もしました!皆さんを励まそうと思って電話をしたんですが、逆に元気をもらいましたね。歌舞伎は一般大衆が何よりも後援者で、その人たちがいたからできたというのが歴史。自分が考えた歌舞伎の精神に基づいてやったものだと思っています。楽しかったので!」

――右近さんと同年代、若い方々に歌舞伎の魅力を広めるには・・・

「自分のことを好きになってもらうしかない!自分は本当に歌舞伎が好きだ!ということを恥ずかしがらずに、隠さずに伝えていくことですかね。結局は人と人のつながりだと思うので、自分を貫いていきたいです」

――新しく取り組んでいきたいことはありますか。

「総合芸術である歌舞伎を限りなく一人でできる形態を作ってみたい。後は色々なジャンルとコラボすることです。外の世界に歌舞伎として食い込んでいきたいです」

――最後に「吉例顔見世大歌舞伎 身替座禅(11月26日千穐楽)」の見所を教えてください。

「僕は演目の世界の中でアシスタントのような立場です。主役の殿様と奥様のやりとりは、言葉は昔の言葉だけれど、心は今も昔も変わらないということを感じてもらえる演目になっていると思います」

◇◇◇

一つ一つの質問に、本当に熱心に答えてくださった右近さん。ご自身をとても客観視されていて、ポジティブな考え方・言葉が印象的でした。でも実は、とてもネガティブで暗い性格とのこと。前に出て自分の気持ちを伝えることは苦手だといいます。

「でもそれではダメだ」という反動の気持ちで「歌舞伎と清元、自分の好きなものが目の前にあるから、本来の自分ではない自分を育てなければ」と奮い立たせているとのこと。「そう頑張っている自分が楽しい」と、熱い目で語ってくださいました。二刀流という新しい挑戦をされている尾上右近さんの真剣な姿、これからも注目していきたいと思います!

次回は市川染五郎さんにお話を伺います。

【尾上右近(おのえ・うこん)】
2000年4月、岡村研佑の名で初舞台を踏み2005年1月、二代目・尾上右近を襲名。2018年2月には、七代目・清元栄寿太夫を襲名する。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。