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効果「9割」新型コロナワクチンの仕組み

2020年11月17日 20:11
効果「9割」新型コロナワクチンの仕組み

世界中で新型ウイルスの第2波、3波が広がる中、事態打開のカギを握るワクチン開発をめぐり大きな動きがあった。アメリカの製薬大手ファイザーとドイツのバイオ医薬品会社ビオンテックが共同開発を進めるワクチンが、11月中にもアメリカで緊急使用許可を申請する見通しとなったのだ。両社は9割以上の発症予防効果が確認されたと発表している。このワクチンは開発に成功すれば日本も6千万人分の供給を受ける予定だ。

すでに使用が始まっているロシア製や中国製のワクチンは、臨床試験の途中段階のものなので、アメリカが認可すれば世界で最初に正式認可されたワクチンとなる。それだけではなく、両社によればワクチンの製造にはこれまでにない先端技術が使われているという。


■新型コロナウイルス侵入のカギは“突起”

新型コロナウイルスにはスパイクのような突起がいくつもあって、王冠=「コロナ」のような形になっている。新型コロナウイルスはこのスパイク状の突起部分を人の細胞に付着させ細胞の中に侵入する。これが感染だ。体内でウイルスに感染した細胞が増えて、高熱などの症状を引き起こす。


■ウイルスを使わない画期的なワクチン

これまでのワクチンは毒性を人工的に弱めたり無力化したりしたウイルスを体内に投与し、その免疫反応でできた抗体で病気を防ぐようになっている。しかし、今回開発が進められているワクチンは、これとは異なる新しい方法で発症を予防するという。ファイザーとビオンテックによるとこのワクチンにはウイルスそのものは一切使われていない。

両社はウイルスが突起部分から細胞に侵入する仕組みに目をつけ、「細胞が突起を受け入れない」ようにすれば、新型ウイルスの侵入を防げると考えたのだ。そこでまず新型ウイルスの突起を形づくる遺伝子がどこにあるかを調べ上げて特定。その部分だけを切り取り細胞の中に送り込んでみたところ、細胞は遺伝子情報に基づいてスパイクのような突起を作りはじめたという。

しかしその途中で細胞がこれを異常な活動だと認識、突起を排除しようとして「抗体」を作りだした。つまり免疫反応が起きたのだ。これこそが今回、開発が進められるワクチンで「抗体」が生まれる仕組みだ。最も時間がかかったのは、突起部分の遺伝子情報を細胞に送り込む技術の開発。伝送役を務めたのは細胞1つ分よりも小さいタンパク質性の物質で、ファイザーによると22種類のタンパク質性物質を使って試験を繰り返し、最も適した1つに絞ったという。

また気になる副反応だが、ファイザーは細胞内で作られる突起部分に対する免疫反応が起きるので、倦怠感、頭痛、発熱、悪寒などがあるが、臨床試験の結果では安全性で問題となるような事例はないとしている。一方この手法を使って癌や感染症の薬品開発が進んでいるが、いずれもまだ実用化されておらず、世界で認可前例のないワクチン製造法の安全審査ともなる。


■「9割超の予防効果」突然変異にも対応?

ファイザーとビオンテックは臨床試験で9割以上の発症予防効果が認められたと発表している。アメリカで医薬品の認可を行っているFDA=食品医薬品局が新型ウイルスのワクチンについて最低5割の予防効果を認可の条件の1つとしている事を考えると非常に高い数値だ。

効果が高い理由の1つは先ほど説明したウイルスを撃退する仕組みにあるという。ワクチンが体内の必要な場所にうまく届けば、既存のワクチンとは異なり個々の細胞レベルでウイルスをシャットアウトすることができるからだ。

さらに期待されるのが突然変異への対応だ。新型コロナウイルスは何度も突然変異を繰り返して世界中に拡散しているが、ウイルスを使った製法でワクチンが開発されても、変異した後のウイルスに十分に効かない可能性がある。これに対し、今回開発中のワクチンはウイルスの突起部分に反応する仕組みになっているため、突然変異を起こしたウイルスでも突起が変わっていなければ効果が期待できる。そのため高い予防効果を発揮できるのだという。


■今後の課題(1):ワクチンの効果はいつまで持続?

期待が高まるこのワクチンだが、乗り越えなければならない課題も残っている。今回の臨床試験の結果は2回目のワクチンを接種した7日後に効果を測定したものだ。そのためワクチンの効果が長期間持続するのかが明らかになっていない。ファイザーによると細胞の遺伝子に突起情報や抗体反応が記憶されるため、時間がたってウイルスが侵入しようとしても細胞はその記憶に基づき反応するという。このため1年間は効果が持続するだろうと説明している。

ただ実際そうなるかは検証が必要で、ファイザーは認可された場合でも、臨床試験の参加者を2年間にわたってフォローし、効果が継続するか調べる方針だ。


■今後の課題(2):供給体制の整備

今回のワクチン開発では、最先端の遺伝子工学が応用されている。ただ、遺伝子を使ったワクチンは超低温での管理が求められる。長期保管にはマイナス70度以下に保つ必要があり、通常の冷凍庫(マイナス2~8度)での保存では5日しかもたない。そのため実際にワクチンを接種するためには、迅速に病院などに届ける供給網の整備が必須だ。欧米では超低温冷凍施設の配備やワクチン接種の拠点の設置などワクチンの受け入れ準備が本格化している。

ファイザーとビオンテックは安全性が確認されれば11月中にもアメリカ当局にワクチンの緊急使用の申請を行う予定だ。開発レース2番手につけているアメリカ・モデルナ社も11月16日、有効性は94.5%とする臨床試験の中間結果を発表した。このモデルナもファイザーと同じ手法でワクチン開発をしている。

第2波、3波を食い止められず世界に閉塞感が広がる中で、最新技術でつくられるワクチンは救世主となるのだろうか。


画像:新型コロナウイルスのイメージ
提供:CDC/ Alissa Eckert, MSMI; Dan Higgins, MAMS