×

ニトリの島忠TOB「握って決める」古い?

2020年11月14日 10:12
ニトリの島忠TOB「握って決める」古い?

■「その結婚、ちょっと待った!」

10月20日に明らかになった「ニトリの島忠買収検討」。この事実が驚きを持って受け止められたのは、島忠に対してはすでに10月5日からホームセンター最大手のDCMがTOB(株式公開買い付け)を行っているところだったからだ。

島忠とDCMは両経営陣が合意した上での「友好的買収」。そこにニトリがあとから「その結婚、ちょっと待った」と手を上げた。

一部では「敵対的買収ということか?」といぶかる声もあがった。相手の合意を得ずにTOBを行うのは「敵対的買収」。しかし、その時点ではまだ、ニトリは表明したにすぎず、島忠がニトリのプロポーズに合意するのか、それとも拒否するのかは不明な状況だったので敵対的買収ではなかった。

そうはいっても、日本人的な感覚で言えば、“婚約”しているのに嫁になる人を奪いに行くのは企業の見え方としてどうなのか?疑問に思ったが、実は、一見、モラル的に疑問に見えた今回の「あとからTOB」について、逆に「やっと日本もまともになった」と称賛する声があがっていたという。

どこからか?外国人投資家からだ。つまり、これまで日本では、企業の経営者同士が“握った”ら、他の企業には原則、分け入るチャンスはなかったが、実際、株主の視点に立って考えた場合には、より良い条件の企業が名乗り出てきた場合に乗り換えるチャンスがある環境の方が“健全だ”ということだ。

さらに今回、島忠はDCM傘下入りに向けたTOBについて、社外取締役らからなる「特別委員会」に統合の是非と妥当性について判断を委ねていた。その特別委員会がDCMからのTOBに賛同した理由の一つに、「DCM以外の買収提案者と接触することを制限しておらず、“対抗的買収提案者”による買収提案の機会を妨げない」としたことをあげていた。

つまり、「対抗TOBもOK=“他の企業による買収提案を締め切ったわけではありません。立候補したい企業には門戸を開けています”と表明していたということだ。

企業のM&Aを手がける人物は、今回の件で「外国人投資家の間に激震が走った。“やっと日本がまともになった”、と言っている」と述べた。その上で「日本のM&A市場に健全な対抗提案、TOB合戦の土壌がつくられるかの試金石だった」と評価した。

■ニトリはどこに惚れた?

ニトリはなぜそこまでして島忠が欲しかったのか?第一には、主に家具、インテリア用品を販売するニトリは、2017年からホームセンター業界への進出の機会をうかがっていたというのがある。DIY、園芸、レジャー、ペット、などのホームセンター事業に強い島忠を手に入れて、総合的な住環境事業を行いたいとしている。

しかし13日に似鳥会長の口から最初に出た島忠の魅力は「立地」だ。「東京近辺、神奈川、埼玉に店が密集している、しかも一級の場所に位置している。私たちが出店していない場所にも出店している。東京近辺で一級の土地は探しづらい。そこが魅力」

ではニトリは島忠の店舗を活用してニトリの商品を売ったりするのか?似鳥会長は、「島忠の店舗をニトリに転換することは考えていない。ニトリブランドと島忠ブランドは分けていきたい」という。

「島忠の立地」を魅力だとしているのに、島忠の店舗でニトリのものを売らない、というのはどういうことなのか?ニトリ関係者の説明によれば「お客さんはこういう価格帯のこういうコンセプトのものを買おう」とイメージして来店する。価格帯やコンセプトがばらばらのものを一緒に売るのは良い戦略ではない」という。

では島忠の立地の優位性はどうニトリに生かすことができるのか?島忠の利益が拡大できればニトリグループの成長になるという。ホームセンターの商品価格は全体的に割高。島忠はニトリと組むことで調達、物流、製造のコストなどを削減し、商品価格を下げることができる。そうすれば、魅力的な立地を生かして集客を増やし、利益を拡大できるというのが、説明だ。

果たしてそこにとどまるのか?それとも今後、ニトリが島忠の“魅力的な立地”をより有効活用する戦略を打ち出すのか、注視したい点だ。

■プロポーズで大事なことは…

今回ニトリ側が注力したのは、ドラスチックな戦略披露より、島忠従業員らの士気の維持だ。DCM傘下と思ったら、今度はニトリ傘下へ。いずれにしても自社が別の会社の傘下に入るという中で、給与や雇用はどうなるのか、島忠従業員の心中は穏やかではなかったはずだ。

そんな中でニトリ側は島忠のドラスチックな改革を示して無駄に混乱を招くことなどはせず、「5年間は雇用を維持する」と明言した。DCMが提言していたより2年多い期間だ。

企業にとって従業員は財産で、従業員が動揺し、優秀な社員の退職が相次げば企業価値の低下に直結する。金融緩和が続き資金力があって投資先を探す企業もあれば、逆に新型コロナウイルスによる影響で業績が悪化し、生き残るために他社との提携を模索する企業も増えている。

経営統合がスムーズに行き、それぞれの企業の価値拡大につながれば、日本経済にもプラスになる。

社長どうしが握って決める統合は古い。しかし、株主の意向を重視しすぎるのも時に間違うと思う。株主、従業員、取引先、客、教科書的だが結局は関係者たちの利益を考えた“三方よし”が成功の鍵、日本はそれが得意だ、と思いたい。