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タイ 情報規制と闘うネットメディアの今

2020年11月13日 19:56
タイ 情報規制と闘うネットメディアの今

タイで続く反政府デモ。デモの現場では、スマートフォンの自撮りでリポートする人の姿がみられました。彼らはタイのインターネットメディアの記者で、SNSを通じ、生中継でデモの様子を伝えています。

ネットメディアの力が発揮されたのが、2020年10月の、ある場面。警察がデモ隊に放水し、強制排除する様子がインターネットで生中継されると、SNSで瞬時に拡散され、タイの国内外から警察に対する非難が集中したのです。

プラユット政権側は、ネットメディアの報道がデモの拡大につながるとして警戒感を強めていて、ネットメディアに圧力をかけ、情報を規制しようとしました。

タイ政府は「間違った情報で国民の不安をあおった」などとして、4つのネットメディアに対し、規制に向けた調査を開始。このうちの1つで政権に批判的な論調で知られる「VOICE TV」に対し、裁判所は10月、配信を停止するよう命令を出しました。

その「VOICE TV」で長年ニュースキャスターを務め、タイの政治問題に切り込んできたナタコーンさんは、今回の命令は珍しいことではないと話します。「政府がメディアを規制することには慣れてしまっているのです。この国では当たり前の光景なんです」とも指摘。

「VOICE TV」は、2014年の軍事クーデターの際も、20回近く放送が止められるなど、たびたび政権から圧力を受けたといいます。

今回のネットコンテンツへの配信停止命令は、「報道の自由の侵害だ」とメディア各社からの非難の声が高まり、すぐに取り消されました。

一方で、「VOICE TV」が別の衛星放送局に向けて制作していたニュース番組は、放送局側から突然、打ち切られたといいます。ナタコーンさんは当局からの圧力だとみていて、「今は、政治戦争の真っ最中なんです。私たちはメディアの一員としての義務を果たします。私たちの闘いは放送を続けるということ。放送を通して声を上げ続けることです」と力を込めて話しました。

2019年に、長らく続いた軍事政権から形の上では民政に移管したタイ。しかし、今でも政府にとって不都合な論調を封じ込めようとする動きがみられます。出口の見えないデモが続く今、タイの民主主義の真価が問われています。

(NNNバンコク支局 森鮎子)