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天皇陛下のライフワーク「水問題」

2020年11月13日 17:11
天皇陛下のライフワーク「水問題」

一つの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」今日の瞬間は、「天皇陛下と水」です。


――こちらの写真はどんな瞬間なんでしょうか?

こちらは、皇太子時代の天皇陛下が、1987年(昭和62年)にネパールを訪問された際に、ポカラという町で、水くみをしている女性たちを自ら撮影された写真です。天皇陛下のライフワークは、ご存じですか?

―――「水問題」ですよね。国際的な会議の場で講演されている映像を拝見したことがあります。

陛下の「水問題」の「原点」といえる写真です。この蛇口のところをご覧いただけますでしょうか。水がちょろちょろとしか出ていないですよね。陛下は、この場面について後に講演で、次のように話されています。

天皇陛下「『水くみをするのにいったいどのくらいの時間がかかるのだろうか、女性や子どもが多いな。本当に大変だな』と、素朴な感想を抱いたことを記憶しております」

最初は、こう感じていたという陛下ですが、その後のお言葉を見てみると、この問題をどのようにとらえていかれたかが分かると思います。

天皇陛下の『水問題』についてのお言葉がこちらです。

「世界では約11億人が安全な水を飲むことができない、約24億人が下水道施設を持っていない、劣悪な水環境のために8秒に1人、子供の命が失われている」(2004年誕生日会見)

「世界の人口の6分の1に当たる約11億人の人々が安全な水を利用できず、5分の2に当たる約26億人の人々が基本的な衛生施設を利用出来ない」(2008年スペイン訪問前会見)

陛下は、この水問題について、環境や衛生、教育、貧困にも関わる問題だと幅広く考えられていることがわかります。

――陛下は研究だけではなく発信も積極的に行われているようですね。

この水問題への取り組みの中で、日本の皇室にとって歴史上初めてのことがありました。

天皇陛下「水問題を抱える地域の人と水との歴史を俯瞰し、人々の水に対する想いを汲み取ることは、水問題を考えるうえで大変重要なことに思えます」

陛下は2007年(平成19年)から国連の「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁を8年務められました。日本の皇族が国連という世界の国々が集まる場で名誉総裁に就かれたのは初めてのことでした。

さらに陛下のこうした国際的な活動でキーマンになった人物がいます。オランダのウィレム・アレクサンダー国王です。去年の即位の礼にも出席され両陛下との長年の親しい交流が注目されましたが、この方も皇太子時代、この諮問委員会の議長を務めていたんです。

日本とオランダの皇太子が“二人三脚”で水問題について考え、発信を続けてこられたというのは画期的なことだと思います。

――そして陛下は、ご自身でフィールドワークもされているそうですね。

実際に現場に足を運び五感で感じ、考える。というのが、陛下のスタイルだと思います。

こちらは2010年に、陛下が、埼玉県春日部市にある洪水氾濫を解消するために地下に造られた大規模な放水路を訪問されたときの映像です。陛下が自ら希望されての視察でした。

一方、こちらは2016年に山梨県北杜市にある「三分一湧水」を視察された時ですね。「三分一湧水」は江戸時代の農業用水を3つの集落に均等に分配するための水路です。映像でもわかるとおり陛下がしきりに写真を撮られています。こうして自ら写真も撮って、講演のための準備をされています。まさに現場主義の陛下の姿勢が表れた映像だと思います。

――陛下の講演のテーマというのはどのようなものなのでしょうか?

陛下が、これまで水問題の国際会議にビデオ出演も含めて11回出ていますが、そのテーマは、回を重ねるごとに変化しています。最初は、ご専門の「水運」がテーマでしたが、その後、利水や治水、災害の歴史をひもとき、東日本大震災の被害と教訓を世界に発信し、災害が起きた時の対応を歴史から学び、防災や減災を考える必要性を訴えられるようになってきているのです。

水と衛生に関する諮問委員会の委員として、間近で陛下の水問題の相談相手も務めてきた尾田栄章さんは次のように話しています。

尾田さん「今や、日本だけ幸せになれる時代ではないわけですから、世界の人と一緒に幸せにならないと、日本人だけが幸せになれるはずはないわけで。本当に今の時期に一番必要とされる、それにふさわしい方が日本の天皇でおられるということは、世界にとってもある意味では非常に幸せなことだろうと思います」

――陛下は去年、天皇に即位されてからも、この取り組みはつづけられているのでしょうか?

はい。今年2月には、陛下は皇后雅子さまと一緒に、都内で「水と文化」と題したシンポジウムに足を運び、聴講されています。即位後も「水問題」に関わるのだという姿勢を見せられたのだと思いました。

陛下は、即位前の記者会見で「今後とも、国民の幸せや、世界各地の人々の生活向上を願っていく上での、一つの軸として、『水』問題への取り組みを大切にしていければと思っております」と話されています。この「一つの軸として」というのがキーワードですね。

「水問題の研究」は世界の人々は日本の天皇の立派な公務だと受け止めているのですね。コロナ禍で皇室の活動は限定的ですが、陛下は、全人類に関わる普遍的なテーマとしてこれからも静かに「水問題」に関わられていくのだと思います。