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「生きる気力 失う」シングルマザーの悲鳴

2020年4月28日 13:06
「生きる気力 失う」シングルマザーの悲鳴

新型コロナウイルスの暗い陰が、シングルマザーの家庭にのしかかっています。シングルマザーを支援している、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」には、窮状を訴えるメールが、日々寄せられています。

■静かな野戦病院

「生きていく気力を失った」
「もう、子どもが多くて、食べさせるものがなくなってきたので、心中しかないでしょうか?」

4月に寄せられた相談のメールは、4月24日時点で129件、すでに3月の40件の3倍に増えています。

「電話相談は、ひっきりなし。受話器を置くとすぐに次の電話が鳴る状況。ただ、電話で受けることのできる相談には限界があります。その分、メールで寄せられる相談の件数が増えているのだと思います。私たちは、このメール相談を“静かな野戦病院”と呼んでいるんです」

そう話すのは、理事長の赤石千衣子さん。メールの文面からは、明日をも知れず、生死の境をさまよう人々のうめき声が伝わってくる。まるで「野戦病院」のようだといいます。

「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」では、4月2日~5日にかけて、シングルマザー家庭における新型コロナウイルスの影響について、インターネットを通じてアンケートを実施。会員約3000人のうち、206人から回答を得ました。

今後の収入見込みについての質問には、「収入が減る」が101人(48.6%)、「収入がなくなる」が12人(5.8%)で合わせて113人(54.4%)。緊急事態宣言前の調査にもかかわらず、半数以上が、「収入が減る」ないし「なくなる」と回答しています。

自由記載欄には切実な状況を訴える声が。

「電気代、食費など支出も大幅に増え、この先生活が不安です。家賃も払えないほど困窮しています」(神奈川県、派遣・契約社員、子ども2人)

宣言後の状況は、より悪化していると見られます。

 

■“板子一枚下は地獄”

シングルマザーの家庭が、急速に行き詰まる背景には、2つの要因があると赤石さんは言います。

ひとつは、「不安定な就労状況」です。

今回のアンケートで、就労状況について回答した206人のうち、仕事に就いている人は、189人(91.7%)で、そのうち、110人(58.2%)が、パートやアルバイト、派遣社員などの不安定な就労環境でした。

「ホテル業界で仕事している為暇になり収入が減って出勤も余り出来ない。収入が減ったので新学期に新しく買うのも我慢して貰って買ったり出来ない。(北海道、パート・アルバイト、子ども2人)

アルバイトなどには休業手当が支払われない場合が多く、中には、即座に解雇されてしまうケースも。不安定な雇用形態が直接収入減につながってしまうという問題があるといいます。

そして、もう一つの要因が「一斉休校」です。

「子どもが家にいて食費がかかる。お米類でお腹を満たし、栄養が偏り困っているが、がまんしている。日用品、生活費、食費もこれからどうしようかと悩んでいる」(東京都、パート・アルバイト、子ども1人)

子どもが家にいることで仕事を休んだり、時短勤務したりしなければならず、それによって収入が減少。さらに、食事や光熱費、子どもが自宅で学習するための費用など出費が増え、生活の困窮に拍車をかけているといいます。

今回のアンケートでは、「収入が減る」「収入がなくなる」と答えた113人のうち、88.5%に及ぶ100人 が「すぐに現金給付が欲しい」と回答していて、当面の「現金」が必要な状況にあることがわかります。

赤石さんは「いち早く現金が手元に届くようにすることが大事だ」と強調。「シングルマザー世帯は、普段から“板子一枚下は地獄”という状況にある。今回のようなことになると、あっという間に生活困窮に陥ってしまう」と言います。


■きめ細やかな寄り添う支援を

政府は、一人一律10万円の支給を決めたほか、児童手当についても対象のこども一人につき1万円を上乗せすることを決めました。自治体でも独自の取り組みが始まっています。

兵庫県明石市では、主にひとり親世帯を対象とした5月11日に支給する児童扶養手当に1世帯当たり5万円を上乗せすることにしています。対象はおよそ2200世帯。

また、埼玉県戸田市でも、同様に児童扶養手当の受給世帯を対象に3万円を支給する予定です。

一方、福井県勝山市では、市内の0歳から15歳までの子どもを持つ親を対象に、子ども一人当たり6万円の臨時給付金を支給します。同市によると、ひとり親世帯に限らず、対象となるこどもおよそ2500人すべてに支給することで、子育て世帯全般を支援するといいます。あわせて、飲食店など地域の経済にお金が回ることも念頭に入れた政策だといいうことです。早ければ4月30日に支払われます。

生活困窮者に対する様々な支援策が行政から打ち出されていますが、その支援にたどり着けない人たちのためにも、一層きめ細やかな支援が必要だと、前出の赤石さんは語ります。
「生活に困窮している人の中には、精神的にもダメージを受けていて、積極的に動けない人もいる。手続きが煩雑だったりすると、途中であきらめてしまう人もいる。そういう人たちこそ本当は一番に支援の必要な人なのです。手取り足取り寄り添って、支援につなげるように努力しています」

「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」も加盟している「シングルマザー・サポート団体全国協議会」では、広く募金を呼び掛けて、独自に支援に充てるための基金を設立したいといいます。