×

境界を超え共に働く 人道支援への関わり方

2020年3月30日 16:21
境界を超え共に働く 人道支援への関わり方

世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見を聞く「opinions」。今回のテーマは「難民支援から考える人道支援」。牧野アンドレさんに聞いた。

UNHCR、国連難民高等弁務官事務所によると、2018年、紛争や迫害によって故郷を追われた人は7080万人と、初めて7000万人を超えました。そのうち、新たにもしくは再び移動を強いられた人は1360万人に及んでいます。世界では108人に1人、2秒に1人が、故郷を追われていることになります。また、難民の2人に1人が18歳未満の子どもだといいます。

――この70年で最悪のレベルにあるという難民問題について、また人道支援という仕事について、支援の現場で活動されている牧野さんにご意見を伺います。フリップをお願いいたします。

「人道支援にこそ“共働”を」。共働というのは“共に働く”という意味なのですが、業界や専門の壁というものを超えて、社会全体で協調・協力のもと働くということが、人道支援にも必要だという意味です。

先ほど話にあった難民問題ですが、実際に7000万人が移住を強いられており、その中の4000万人は自分の国の中で避難を強いられている国内移住と言われるものです。そこに加えて2600万人ほどは自分の国の外に避難している、難民と呼ばれる人たちです。ニュースを見ると、ヨーロッパなどが避難先の中心地となっているケースがよくありますが、実際は難民全体の84%が、難民となった周辺国に暮らしています。国によって政策は異なりますが、私が主力現場としていた中東周辺国に避難している人たちは、働く権利を認められない・制限されていることや、子どもたちに十分な教育が行き届いていないという現状が今も続いています。

難民の大多数は都市部に暮らしている人が多いのですが、私が行っていた難民キャンプでは、最低限の生活は保証されるけれども移動の制限があり、キャンプ自体が隔絶された場所にあるため、「自分の経済活動ができない、未来に対する希望がない」という話をよく聞いていました。ヨルダンのザータリ難民キャンプという場所のコミュニティーサポートをしていく上で、「未来に希望が持てない、シリアに帰ることだけが希望だ」という人が多かったのが印象的です。

――命がけで避難をしても、そこからまた苦しい現状があるということですね。そういったなかで、人道支援にはどのような形があるのでしょうか。

この問題への関わり方は主に3つあると私は思っています。

1つ目は、気軽にできる、寄付という方法。私も現場のスタッフも、寄付者の方々はみんな一緒に働いてくださっている仲間だと思っています。寄付をいただくことはすごく現場のモチベーションにもなります。

2つ目は、発信・知ってもらうこと。SNS上の発信というものもありますが、友達や家族に知っていることを話してもらうことで、あまり知られていない現場のことを知ってもらうことが可能かと思います。

3つ目はやはり、現場で実際に働くということ。NGO業界も、慢性的な人材・人員不足が言われており、実際に働くという関わり方もかなり大切なことだと思います。働く際に「かわいそうな人だから」というモチベーションになる必要はなく、様々なバックグラウンドを持っている人が活躍できる場だと思っています。ボランティア・プロボノという関わり方や、私のような駐在という仕事もあります。

今、私たちの現場では児童精神科医の方と一緒に、子どもたちの心理社会的サポートというものをどうできるかを考えているところです。人道支援の世界でも、様々なバックグラウンドを持っている人たちが共に働き、活躍できる現場だと思っています。人道支援というものは色々な専門家の協力が必要であり、遠い世界ではなく、自分たちが持っている専門性がすごく生かされる場である、ということを知っていただきたいと思います。

■牧野アンドレさんプロフィル
1993年生まれ。ドイツ人の父と日本人の母のもとで育つ。早稲田大学在学中、学術で卓抜な成果をあげ、学生の模範と認められる学生に贈られる『小野梓記念学術賞』を受賞。イギリスのサセックス大学大学院へ進み、移民学コースで学ぶ。2015年、ドイツで「欧州難民危機」を目撃したことがきっかけとなり難民支援の道へ。これまで、ギリシャ、日本、ヨルダンなどで難民の支援活動を行い、現在はイラクのクルド自治区・アルビルで、小児がん患者の支援や難民支援に携わる。

【the SOCIAL opinionsより】