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“元気づけられる話題を”時田さんの思い

2020年2月28日 17:16
“元気づけられる話題を”時田さんの思い

「獣医になる」夢を追いつづけた少女の26年間のドキュメンタリー「夢は牛のお医者さん」。その作品についてテレビ新潟制作部の時田美昭氏に話を聞いた。


――26年間をぎゅっとまとめたVTRをご覧いただきましたが、私が拝見していてすごく印象に残っているのは、知美さんが牛を見つめる眼差しが小さい頃から今に至るまで全然変わらず、すごく愛おしい目線をしていて、牛への愛情をすごく感じました。この取材を始めるきっかけは何だったんですか。

そうですね。もう33年前になるんですが、僕が駆け出しの報道記者になったばっかりのときに、山の小さな小学校で牛が新入生の代わりに入学したよっていう話題を聞いて取材を始めたわけなんですが。

当時から知美さんは牛のお医者さんになりたいと言ってはいたんですが、それがずっと気になっていて彼女が高校になった頃に連絡を取ったら、今でも獣医師を目指して勉強を頑張っていると。親元を離れて下宿して進学校に通っていたんですね。それを聞いて、知美さんがまだ勉強が追いつかないから「3年間テレビ見ません」と言ったのにずきんときて、それ以降です。知美さんの夢を実現できるかどうかっていうのを追っかけてみようと思ったのは。


――最初は小学校の密着だったところが、高校からは知美さんの密着に変わったんですね。

はい。その後大学に通って、そして獣医師の国家試験に受かったところでNNNドキュメント03で1回放送したんですね。その時に放送が終わった後、知美さんに怒られまして、ナレーションでは「知美さんの夢がゴールしました」っていうふうに伝えたんです。そうしたら知美さんが「夢なんかゴールしてません。やっとスタートラインに立てたばっかりです」と言ったのを聞いて、「じゃあ、夢のゴールっていつなんだろう」って聞いたら、「ゴールはないかもしれないけど、今は早く一人前になりたい。最低10年はかかる」ということを聞いて、それからまた10年取材しようっていう約束をして、トータル26年になったと。


――26年も取材されたんですね。その26年間いろいろあったと思うんですが、一番印象深かった出来事は何ですか。

そうですね。やっぱり大学の合格発表の電報が届くシーンなんですが。


――すごく感動しました。

実は届くシーンというよりも郵便局員さんに感動して。実は郵便局員さんが、テレビ局が取材に来るような手紙ってどんな手紙なんだろうって気になって、玄関の後ろでずっと見ていてくれたんですね。そして、合格があったっていうことになった後に、郵便局員さんが後ろで泣いているんです。


――泣かれていたんですか。

「いやー、よかった。いい手紙を届けられた」と。「この仕事やっていて良かった」っていう一言がすっごく印象に残っていて。その言葉が忘れられずに、知美さんが獣医師になってからの10年間っていうのは、働く喜び、誰のために働くんだろうっていうのをテーマに取材したんです。全て郵便局員さんの一言がきっかけになって。


――それは時田さんのこれからにもすごく影響を与えた出来事だったんですね。そしてこちらのドキュメンタリーは映画化もされていますが、なぜ映画化されたんですか。

実はきっかけが東日本大震災のとき、取材中継の応援で発生後に即宮城県に行って、発生5日目の南三陸町の避難所になっている体育館に行ったんですが、そこの体育館の脇に1人の小学生の男の子がトボトボ歩いているのを見たんです。それも下を向いて寂しげにずっと歩いていて。この子になにか元気づけられる話題がないかなあと思ったときに思いついたのが、知美さんの話題なんですね。

知美さんというのは本当に気持ちが前向きな子で、いつも前を向いて歩いてる。当然心も前向きでいってると。知美さんのように元気になってほしいなっていう思いを込めて、この話題を伝えたいと思ったんですが、テレビ新潟の放送範囲っていうのは新潟県だけだったので、あの映画にして届けようと思ったんです。


――広く発信しようということで。こちらの映画をご覧になりたいという方は「夢は牛のお医者さん」のホームページからご覧いただいてアクセスしていただくのがいいと思います。そして、映画だけではなくこのように、絵本や本にもなっているんですよね。この本に込めた思いはなんですか。

実は映画上映後、出版社の方から絵本出しませんか、ジュニア文庫出しませんかっていう声がかかって、映画ではやっぱりさっきお話しした南三陸の男の子の目線で伝えようと思ってやったんですが、もっと低学年、そして幼児にも伝えられるよっていうことを聞いて、それならば夢は叶うんだよっていうことを教えられるんであれば、ということで出版したんです。


――そうですよね。絵本はお母さんも読み聞かせをしますからね。お母さんにもすごく前を向くきっかけになりそうですよね。素敵なお話ありがとうございました。