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「ジョーカー」に音声ガイド、必要に思う訳

2019年10月29日 15:39
「ジョーカー」に音声ガイド、必要に思う訳

世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見を聞く「opinions」。今回の話題は「障害者の文化芸術活動、参加の壁」。障害にスポットをあてたプロジェクトを展開する田中みゆきさんに聞いた。

国は3月、障害者の文化芸術活動を促進するための基本計画を策定した。より多くの障害者が、鑑賞や創造、発表を通じ、多様な文化芸術活動に参加できるよう障害の特性やニーズに応じた環境整備が必要としている。具体的には、日本語字幕や手話通訳・音声ガイドの環境整備をはじめ、鑑賞の機会を提供する人に対しての研修などを行うよう求めている。


――田中さん、この動きをどう捉えていますか。フリップをお願いします。

「好き/嫌いは当たり前」と書かせていただきました。健常者にとってもそうであると思うんですが、全障害者の方が文化芸術に参加すべきとは思っていないです。それが自分にとって合う表現というか、合う方法なのかどうかっていうのは人によると思いますし、こういう作品が好きっていう好みだったり影響を受けている文化だったりもそれぞれ違うと思います。


――それは、普通の私たちですもんね。芸術はちょっと苦手だけどマンガ好きですみたいなのもOKと。

そうですね。でも今、好きか嫌いかっていうことすら選べない状況にあると思うんですね。やっぱりそれは情報が足りていないということ、あと鑑賞する支援が足りていないということがあると思います。

ただ、やっぱり手話通訳だったり、音声ガイドという情報保障はそういった方たちにとってすごく大事なことだと思うんですけれど、よく当事者が出てきてる映画だったりとか、舞台だったりとかそういうものに情報保障がつくっていうことがすごく増えてきたなと思うんですけれども、いわゆるそのメジャーな作品、もうその作品を見たから健常者と話ができるっていう作品――例えば「ジョーカー」だったり、そういうものには、まだ音声ガイドがついていなくて、みんなが見ているメジャーな作品にこそ、そういう情報保障がついて、もっと共通の話題が増えていくと面白いなと思っています。

――つまり目が見えない方にとって映画で今どんなことが起きているのか。トップテンとか、人気ランキング入る映画にこそ、そういうものをつけると、みんなでボーダレスになるわけですね。

はい、そう思います。


――その中で、いわゆる大切にしてきたことや、田中さんの中での価値感というのはどういったものがあるんでしょうか。

映画でもそうなんですけれど、私は障害のある人が、障害の種類ではくくれないと思っていて、もちろんその障害が影響を与えていることもあると思うんですけれど。好みだったり背景だったりっていうのは本当に個人によると思います。

だからその障害の先にあるその個人とどう向き合うかっていうことだと思っていて、例えば先ほどの、映画「ナイトクルージング」も、実際2時間24分と、すごく長いんですけれども、そのうちの2時間はプロセスを扱っています。


――どのようにして視覚障害者の方が撮ったのかということですね。

そうですね。一緒に健常者のスタッフと対話しながら作っていくそのプロセスこそが豊かであり、すごい貴重なことだと思っているので、そこをきちんと伝えていくっていうことは大事だなと思っています。


■田中みゆきさんプロフィル
キュレーター。文化施設で展覧会や公演の企画などに携わった後、フリーランスに。障害にスポットをあてたプロジェクトを展開している。これまでに、義足のアスリートによるファッションショーや視覚障害者のダンスパフォーマンスなどを企画。今年3月には、全盲の男性が映画を制作する過程を追ったドキュメンタリー映画「ナイトクルージング」をプロデュースした。アートやデザインを通して障害について考える機会をつくり社会を豊かにすることを目指している。


【the SOCIAL opinionsより】