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北朝鮮の「自力更生」とは?市民の暮らしは

2019年5月31日 14:58
北朝鮮の「自力更生」とは?市民の暮らしは

世の中で議論を呼んでいる話題について、ゲストに意見を聞く「opinions」。今回の話題は「北朝鮮の自力更生」。日本テレビ国際部・坂井英人記者に聞いた。

北朝鮮とアメリカとの非核化をめぐる交渉は2月にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が物別れに終わって以降、膠着(こうちゃく)している。

制裁解除は非核化が実現してからという立場のアメリカに対し、北朝鮮は非核化と制裁解除などの「相応の措置」を同時に進めることを求めている。

制裁解除の目処が立たない中、北朝鮮国内では「自力更生」という言葉が繰り返し強調されている。


――坂井さん、この「自力更生」とは、そもそもはどういう意味なのでしょうか。

外国に頼らず、自力での経済発展を目指すという意味ですが、最近出てきた言葉ではありません。一般的には中国共産党が1940年代、自力での社会主義建設を目指す際に唱えたことで知られています。北朝鮮では、遅くとも1960年代頃から使われ始めています。

北朝鮮の経済に詳しい環日本海経済研究所の三村光弘氏によりますと、「外国からの制裁に負けずに自分の力で発展させる」という意味合いで使われていて、つまり「困難」があるときに使われるということです。


――では「自力更生」が叫ばれる今は困難な時期ということでしょうか。

はい、核実験やミサイル発射を繰り返した結果、北朝鮮は国際社会から厳しい制裁を受けています。

今年1月に発表された中国の貿易統計によると、北朝鮮から中国への輸出は去年、前の年から約9割も減っています。北朝鮮にとって中国は対外貿易の9割を占めるといわれていますので、その影響はかなり大きいとみられます。


――北朝鮮の人は「自力更生」と聞くと、苦しさを連想しそうですね。

そうですね、北朝鮮政治が専門の慶応大学の礒﨑敦仁准教授の話では、この「自力更生」という言葉は「予防注射」のようにも使われているということです。

2月の米朝首脳会談が物別れに終わるまでは、北朝鮮では楽観的な見方があり、国民向けに「経済がよくなる」というメッセージを出し続けてしまった。そうして高まった国民の期待感を少し抑えるための「予防注射」だと分析しています。


――坂井さんは先月、北朝鮮に取材に行かれていますが、そこでも「自力更生」という言葉はよく見かけたのでしょうか。

平壌の街なかのあちこちに「自力更生」と書かれたスローガンやポスターが掲げられ、非常に目に付きました。

現地では靴下工場やお菓子工場などを案内されましたが、工場の担当者からは制裁のため「原料の一部が入手しづらくなっている」とか、「原料や設備の国産化を進めている」といった声が聞かれました。


――市民の暮らしはどうでしたか?

取材は基本的に北朝鮮側の見せたいものを案内されるので、市民の暮らしはなかなか見られませんでした。ですが、公園で遊ぶ親子であったり、結婚用に撮影をする男女などの姿を見かけることができ、平穏な暮らしが維持されているようにみえました。

平壌の地下鉄には現代的な新型車両が走り、多くの人がスマートフォンを持っていました。一見した限り制裁によって市民生活に大きな影響は出ているようには見えませんでした。

アメリカが制裁を維持して北朝鮮が譲歩してくるのを待つ「根比べ」をしているのだとすれば、北朝鮮がすぐに音を上げるといったことは考えづらいのではないでしょうか。

今月20日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は論説で「今年を自力更生の年として輝かす」「制裁が解除されることを待つ愚かな幻想、輸入病をなくすべき」と書いています。制裁の長期化を見越した国内へのこうした自力更生の呼びかけはしばらく続きそうです。

【the SOCIAL opinionsより】