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味、見た目にこだわり 進化する介護食

2019年3月27日 18:27
味、見た目にこだわり 進化する介護食

色とりどりのケーキやフランス料理の牛肉のワイン煮。実はこれらの料理は病気や高齢の人向けに作られた介護食。今、介護食をめぐって、味に加えて見た目も楽しんでもらおうという取り組みが広がっている。

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東京・文京区にあるカフェ「カムリエ」。ショーケースに並んでいたのは色とりどりのケーキ。見た目は普通のケーキだが、ある特別な工夫がされていた。実際に食べてみると、スポンジが何層にも重なっているが、とてもなめらかで口の中で溶けて消えてしまう。実は、このケーキは介護用のケーキ。食べ物をうまくのみ込むことができない人のために、なめらかに作られていて、一般のお客さんにも好評だ。

食べた人「ん!すごいやわらかい。おいしい」「介護食っていうと何かこう…っていうイメージがあったんですけど、おしゃれ」

今年5月に100歳を迎える女性も「す~っと(溶ける)」

■介護食フレンチも

さらに神奈川・新横浜のレストラン、フランス料理「HANZOYA」でも。ランチの時間に出されていたのは、フランス料理のフルコース。西洋ごぼうをやわらかく仕上げたスープやオマールエビのソースを添え、低温で蒸した魚料理など。実は、これらの料理も介護食。このレストランでは通常メニューにひと工夫加え、のみ込むことに障害がある人でも食べられる料理を出している。

たとえば肉料理。牛のほほ肉を約2週間、香味野菜とともに赤ワインビネガーに漬け込むなどしてやわらかさを引き出す。さらに圧力をかけ、煮込むことで口の中でなめらかに溶ける一皿になる。

この日、店に訪れていたのは管理栄養士など介護食を勉強したいという女性たち。

介護食を勉強しに来た管理栄養士「コース料理としてもとってもおいしくて見た目もきれいで」「普通に出されても全然分からないです。介護食っていうのが」

こうした料理は介護食の知識を持ったシェフが調理。予約時に客の障害の状態を詳細に聞きとり、医師と連携しながら適切な料理を提供しているという。

HANZOYA・加藤英二オーナーシェフ「5グラムしか食べられません、20ccしか食べられませんと言われる方でも実際には3倍4倍召し上がるケースも多いですし。やっぱり(食事を)楽しむ意欲なんだと思う」

のみ込むことに障害がある人にも「楽しい食事の時間」を提供したい、そんな試みが広がっている。

■介護食で体調回復も

介護食を楽しく食べ続けることで、体調が回復するケースも。佐藤富美江さん(96)。3年前、ほぼ寝たきりの状態だった佐藤さんに食事である変化が。この日、ひな祭りを前に、かむ力やのみ込む力が弱い佐藤さんのために作られていたのは――

松林ケアセンター 管理栄養士・清水宏美さん「(お内裏さまとおひなさまの)お顔の表情のアクセントと味のアクセントって感じですね。見栄えはこだわってます」

こちらは、ひな祭りのための介護食。通常の食事と比べても、香りや栄養バランスはもちろんのこと、見た目もそっくり。

佐藤さん「やわらかい」

スプーンが止まらない。

松林ケアセンター 管理栄養士・宮城島宏さん「隣の人と食事形態が違うことで見た目が違うってなると、やはり食欲がなくなったりする」

提供する食事の見た目や香り、味などで五感が刺激されることで食欲がわき、さらに、食べるために体を動かすことが体力の回復につながるという。

こうした積み重ねの結果…

佐藤さん「できないよ」

介護スタッフ「できてるよ!」

佐藤さんは徐々に車いすからの移動や、自分で食事がとれるようになるまで回復。体重も8キロ近く増えたという。

こちらのデイサービスは、食べたい!と感じてもらえる食事に加え、使う食器を工夫する利用者に合わせた介助などで、食べる量を増やすことにつなげている。

■食べる場所を工夫する取り組みも

食事だけでなく食べる場所を工夫する取り組みも。昼下がり、車を降りて続々と集まるお年寄りたち。聞こえてきたのはカラオケの熱唱。実はここ、以前バーだった場所をバリアフリーに改装し、お年寄りに気軽に飲食を楽しんでもらおうとつくられた「介護スナック」。その名も「竜宮城」。この日、お店はデイサービス仲間の集まりでにぎわっていた。

付添人をのぞき、客は65歳以上限定。2時間飲み放題・食べ放題、完全予約で1人3500円。店員も全員が普段介護関係の施設で働くスタッフ。そして店内もつかまり立ちしても倒れないようボルトで固定された机や、車いすでも入れるトイレを完備。出されていた料理も――

お客さん「このから揚げがね、とてもやわらかくておいしい。一口で食べられるからね」

リクエストのあった食材を小さめにカットするなどして、客の体の状態に合わせたいわゆる介護食を提供。飲み物も飲み込みやすいようにとろみをつけるサービスも。飲んだ量も記録し、体調管理の気遣いもしている。

お客さん「まさかこんな所にこういうお店があるとは思わなかったよ」

介護スナック 竜宮城・佐々木貴也オーナー「普通に楽しかったって帰ってもらえるようにしたいです。身体状況が自信がなくなると全体的に不安になる部分がある。これもできた、あれもできたということがいっぱいできるようにしてもらいたい」

食べることを通じ、日常の楽しさや喜びを感じてもらいたい。そんな取り組みが広がっている。