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米中間選挙とフェイクニュースの脅威

2018年11月2日 17:59

注目されるアメリカの中間選挙が4日後に迫ったが、トランプ政権誕生の立役者とまでいわれるフェイクニュースは今も氾濫し、進化も遂げようとしている。有権者は何を信じていいのか分からない、難しい選挙を余儀なくされている。

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米・フロリダ州のとあるバー。現れたのはフェイクニュースを書き続けている男性。

マルコ・チャコンさん「自分のフェイクニュースのウェブサイトを更新するためにこのバーに来るんだ」

2年前の大統領選の時に彼が作ったフェイクニュース記事は、当時のクリントン候補が「若者を負け犬と呼んだ」という彼のウソには、大手メディアもだまされた。

マルコ・チャコンさん「だましたり投票先を変えさせたりしようとしているわけではなく、風刺を書いてるだけさ」

彼は今、中間選挙に向けたフェイクニュースを執筆中だという。内容は、トランプ陣営が選挙で保守派の支持を集めるため、わざと黒人や女性をおとしめる戦略をとっている、というもの。

マルコ・チャコンさん「100%ウソさ!戦略を練った書類があるとか、記事の中の会話も完全なフェイクだよ。アイデアが浮かぶうちは書き続けるよ」

さらに、ウソのニュース画面を簡単に作ることができるサイトも登場している。写真を選んで、見出しを入力すると、トランプ大統領が日本テレビを訪問したというウソのニュースを、ものの数十秒で簡単に作ることができた。テレビ速報のような画像が誰にでも簡単に作れ、SNSに投稿することもできる。

■フェイクニュースの進化形になる?「技術」も誕生

さらに、アメリカではフェイクニュースの進化形にもなり得る「ある技術」が生まれている。

ロサンゼルスにあるベンチャー企業。この企業が開発するある技術に日本人技術者が大きく関わっていた。

ITベンチャー企業主任研究員・長野光希さん「誰でもあらゆる人の顔を自由自在にリアルタイムに合成できる技術」

たとえば、技術者の顔に安倍首相の顔を合成すると、口の動きやしわまで自在に動かすことができる。記者もジャスティン・ビーバーさんやジョージ・クルーニーさんの顔に変身。動画は録画してネットに投稿することもできる。

ゲームやアプリ向けに開発している技術だが、記者が安倍首相と握手したかのような動画を作ることができる。さらに、スマートフォンのアプリでトランプ大統領の顔を合成すると、トランプ大統領の顔の記者が「ハロー、ジャパン、アイラブ、ジャパン」などと挨拶することも。写真と違って動画はより多くの人が「本物だ」と信じやすいという。

ITベンチャー企業 ハオ・リーCEO「おそらく1、2年で人々はいとも簡単に本物そっくりな合成動画を作れるようになる。こうした技術は戦争やフェイクニュース拡散に悪用される恐れもあります」

■トランプ大統領寄りの報道姿勢のテレビ局も

アメリカの有権者を取り巻くのはネット上のフェイクニュースだけではない。CNNやNBCなどの大手メディアをウソつき呼ばわりしてきたトランプ大統領。

今年3月、そんなトランプ氏の主張に沿うニュース原稿が、全米各地の地方局で一斉に読み上げられた。

ニュースキャスター「民主主義にとって非常に危険です」

放送したのは「シンクレア」という全米最大の地方テレビ局のネットワーク。トランプ大統領寄りの報道姿勢で知られている。大手メディアは「プロパガンダ放送だ」と一斉に非難したが、トランプ大統領は――

トランプ氏のツイッター「シンクレアはCNNや、ウソまみれのNBCよりはるかに優れている」

■トランプ大統領の「正しい発言」はわずか5%?

しかし、そんなトランプ大統領自身がウソを発信し続けているとの指摘もある。

フェイクニュースなどを監視する団体がトランプ大統領が当選してからの600以上の発言をチェックすると、「大部分が誤り」「完全な誤り」を足すと実に70%に。完全に正しい発言は5%しかなかったという驚きの結果も出ている。

ファクトチェック団体「ポリティファクト」編集者「今のニュースを取り巻く環境はかつてないほど悪化しています。大統領自身が正確性に問題のある発言を繰り返す中で、人々は何が正しくて、何が正しくないかを知るのにかつてないほど努力をする必要がある」

様々な形のフェイクニュースが氾濫する中、行われる米中間選挙。情報の真偽を見定める力が、かつてないほど問われている。