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“食の危機”作り手と消費者をつなげる 1

2018年6月21日 17:00
“食の危機”作り手と消費者をつなげる 1

キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回は、スマホ1つで旬の食べ物を食卓へ届けるポケットマルシェ代表取締役・高橋博之氏。政治家から事業家へ転身した背景にある思いを聞いた。


■高橋博之氏のプロフィル

1974年生まれの43歳。岩手・花巻市に生まれ、2006年に岩手県議会議員の補欠選挙に立候補し、初当選。2011年、震災後に議員を辞職し、事業家へ転身。2013年、特定非営利活動法人「東北開墾」を立ち上げ、史上初の食べ物つき情報誌『東北食べる通信』を創刊。そして、2015年に株式会社ポケットマルシェを立ち上げ、代表取締役に就任している。


■記者志望が政治の世界へ

――1つ目のキーワードは「記者志望の私が飛び込んだのは政治の世界。しかし、震災を経て事業家への道へ転身」。高橋さんはそもそも記者志望だったんですか?

はい。とにかく記者になりたくて、3年くらいで100社以上受けて全滅しましたね。どこも拾ってくれなかった。

たぶん、伝えることが好きだったんですね。「声に出しているけど小さくて届かないこと」、あるいは「すごい人がいたこと」とかを人に伝えたくなるというか。


――そこから政治の世界に飛び込んだのはどうしてでしょうか?

それは単純で、新聞社の面接に落ちていたので、面接で語れる社会経験がないといけないと思って。たまたま、大学のゼミの先輩で代議士をやっている人がいて、その人の車の運転手を始めたら政治の世界の中に入ってしまいました。

結局、政治も伝える仕事も同じだなと思って。現場で見たことを伝えて、色々提言したりする仕事なので。


■政治ではなく事業でできること

――そんな政治家時代に、震災が起こった。

そうですね。2011年、2期目でしたが、ちょうど震災があった日に議場にいました。


――震災がきっかけでNPOを立ち上げたと伺いました。

当時37歳でしたが、やっぱり、あれだけのことが故郷に起こったので。血気盛んだったし、陣頭指揮を執りたくなって知事選に出て、落選しました。

それで、いままで口に出していたことを、今度は手を出してやってみようかなと思いました。一次産業にはすごく問題意識をもっていましたから、もっと生産現場に近いところで同じことをやってみようかなと思い、事業をやることにしました。


――政治家ではできなかったことが、できるという意識も持っていたんですか?

そうですね。手段を変えただけで、目的は同じというか。政治にもできることがありますけど、事業にもできることがあるので。


■消費者が“食べ物の裏側”を知る

――その立ち上げたNPO「東北開墾」は、具体的に何をされていたんですか?

「東北開墾」は、生産者と消費者をとにかくつなげます。被災地にはボランティアでたくさん都市住民が来てくれました。そしたら、たくさんの人が「生まれて初めて農家と漁師に会った」と言っていたんですよ。テレビでは見たことがあるけども、生身の農家と漁師に会ったことがないと。初めて食べ物の裏側の世界を見たんです。

そのときに、こんなに大変な仕事をして、自分たちの代わりに食べ物を作っていたんだということを消費者が知ったことで、結果として生産物の価値が上がっていったんですよね。それを見たときに、これは震災時だけではなく日常からやらなきゃダメだと。

元々、震災があろうがなかろうが、生産現場は高齢化、過疎化して、若い人がメシを食えないと都会へ出ていっていたので、これはヒントだなと思いました。日常でも展開しようということで、食べ物の裏の物語と食材をセットでお届けする、食べ物つき情報誌のサービスを始めました。


■生産者の“生き様”を伝えたい

――“食”をつけたということにびっくりしました。

びっくりでしょ?今までなかったんです。いまどき女性誌なら付録にバッグとか付いているじゃないですか。僕らは食材が付録だったんですけど、普通、野菜の宅配は段ボールに野菜がギッシリ詰まっていて、そこに紙1枚で生産者の情報が入っているんです。

それをひっくり返して、この紙1枚がメーン――つまり、生産者の生き様だったり世界観だったり哲学などがメーンで、あえて付録として食材をつけました。被災地で都市住民が体験したことを、都会のマンションの食卓でも疑似体験してもらいたいなと思って。


――読んで食べると、やっぱり違いますよね。

全然違いますね。


――それはどうやって思いついたんですか?

結局、現場に来てくれるのが一番なんですが、やっぱり風化しちゃったんですよね。皆さん忙しいので、なかなか現場に来ていただけなくなってきた。だったら、現場を都会のマンションに送ってやれと思って。

食べ物の裏側を見た都市住民が変わっていったので、それを物語にして食材とセットにしました。


――斬新ですが、やっぱり食は生きる基本だというところが大きいんですね。

そうですね。人間は食べないと生きていけないので、生きる「1丁目1番地」だと思っていますね。