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100人中1人に刺さるビール売る社長 2

2018年2月23日 12:05
100人中1人に刺さるビール売る社長 2

ヤッホーブルーイング・井手直行社長に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「どん底で始めたネット通販 ある日、1本3000円のビールが即日完売」。地ビールのブームが去り売れない時代に…転機となったのは?


■売れなかったビールはどうなる?

――ビールが全く売れない時代があったというのは、にわかには信じがたいのですが。

ずっと売れなかったんですよ。創業して8年間、赤字だったんです。売れない期間が長すぎて、本当にどん底です。社員はみんな辞めていくし、酒屋さんとかスーパーのお酒の担当も「こんなビールは売れないんだよ」と散々いわれて、もう本当に苦労しかなかったですね。

――売れなかった分のビールというのはどうなるのですか。

売れないと結局、捨てちゃうんですよ。しかも、それを捨てる便利な機械がないので、自分たちで仕事の合間に開けて排水口に1本1本流して、よなよなエール造り過ぎて全然売れなくて、数千ケース。1ケース24本入りですよ。数千ケース、3~4年かけて排水口に流して捨てました。

――どんな思いで捨てるのですか。

悲しいですけど、悲しいを通り過ぎて、もう何やっているんだろうと。悔しい、悲しい、絶望感…その辺が入り乱れて、本当にもう悲惨な状況でした。


■ネットで売るしか残されていなかった

――その悲惨な何をやってもだめな状態だった。その転機になったのがインターネットだったということですが。

商機を目指してインターネットの事業をやり始めたのではなく、誰も相手にしてくれなくなったのです。スーパー、酒屋さん、私が営業に行っても門前払いで、全然扱ってくれないので、もう売ろうと思ったら直接自分たちが売るしかない。

そして、インターネットが少しはやってきていたので、それを2004年に私が1人で、もうインターネットしか残っていないから、やりだしたのが浮上するきっかけでした。

――もう残されているのが、インターネットだけだったということですよね。

それだけですね。だいたい思いつくのは全部やりました。全部やったのですが、最後になんか難しそうで面倒くさい、私の苦手分野であるインターネット。パソコンもあまり触ったことないし、インターネットで買い物もしたこともない。そんな人間が40歳近いぐらいから人差し指でパチパチとパソコンをやりながら、本当に本を見ながらやり始めました。悲惨ですね。

――インターネットに全く接したことないながらも、自分で練習されて売り始めたところ、今まで売れなかったのに爆発的に売れた商品があるそうですね。

1本750mlの瓶で3000円のビールです。普通、3000円のビールなんて売れないのですが、これはインターネットでは面白そうなので。「ハレの日仙人」という、今ちょっと価格が変わりましたが、当時発売したときは1本3000円。結構良いワインの値段ですよ。3000円のビールというと、当時も今もほとんどない。もう、日本でそんなビールを売ろうなんて思っている人いないです。

ただこれ結構、特徴があって、うちのビールはだいたい2~3週間の熟成で出来上がりますが、これは1年から2年ぐらいかけて熟成させます。もう普通のビールの概念を打ち砕く、ものすごく濃厚なビールなんです。

そういうスタイルのビールは世界にはあって、これは面白いから造ってみようと。造ってみたのはいいのですが、これを売る前に、よなよなエールも売れないわ、他のビールも売れないわで、お蔵入りです。

これは、熟成させればさせるほど、おいしくなるんです。おいしくなるのですが売れなかったので、もう何年もタンクに眠ったままになっていたんです。それでだんだん、おいしくなっていったという。これをインターネットでやってみようと思ったんです。


■1本3000円するビールの宣伝コピー

――すると、3000円が即日完売。

即日完売ですね。何百本か用意していて、メルマガを書いてページも自分で作りました。1メートルくらいありそうなページを作って「このビールはね」なんていう熱いコピーを書いて売り出して、メルマガを出したらあっという間に売れちゃったと。

――そのメルマガですが、一部抜粋してお伝えします。

「通常1~2週間で終わる熟成を
【~2年間~】というとてつもない長い時をかけて
完成させた究極のビール…。
誰も体験したことのない感動を貴方に与えます。
エールビールの奥深さをそっと覗いてみたい貴方!
長期熟成から生まれる“ビールの余韻"を
どうぞ味わってみてください。」

もうあれですね。自信はある。だからあとはもう買ってもらうだけ。手に取ってっていう気持ちがすごく伝わりますね。

正確にいうと自信というよりは、こういう誰も飲んだことのないビールが世の中にあるんだよ。好き嫌いはっきりするかもしれないですが、1回ちょっと飲んでみてもらえませんか。びっくりしますからと。そんな気持ちで送り出しました。

――売れる商品の特徴があると聞いていますが。

やっぱり大手ビールメーカーさんのビールは、世の中にいっぱい置かれているし、もうみなさんご存じなんで、全くそれとは違う差別化された、しかも、何年も熟成させるという付加価値もある。そういう差別化されても、大手さんでも造らないようなものというのは、絶対上手くいくとは思わないんですが、チャンスはすごく転がっているとは思っています。

――まず、長期熟成させるという発想がないですよね。新鮮なイメージがありますね。“今年のホップです”というようなイメージが。

そういう鮮度を重視したビールは、それはそれがおいしいんですよね。こういうビールも世の中にあるという。

――ネットの中で売れるというとやっぱり何か検索して取りに行かなきゃ売れないわけです。このメッセージが刺さったんでしょうね。

今もう、こういうのは日本にはほとんどないですが、当時なんか誰も見たことがないのでだまされた気分でね。3000円払ってみるか、こいつがこういうことをいうんだったら…そんな気持ちなんじゃないですかね。