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がん患者支える“医療美容師” 抱く夢は…

2018年1月29日 19:01
がん患者支える“医療美容師” 抱く夢は…

抗がん剤治療の影響で髪の毛が抜けてしまったがん患者をケアする“医療美容師”。一体どんな仕事なのか。取材した。


■外見変化の不安解消「精神的に楽になる」

医療美容師の尾熊英一さんがいる、東京・八王子市にある美容室を訪れた。尾熊さんは毎週木曜日だけ、店舗の2階を利用して“がん患者専門の美容室”を経営している。がん患者が、人目を気にすることに配慮して個室にしている。

そもそも、医療美容師とは、脱毛してしまった人のためにウィッグのカットなどを行う民間の資格だ。

今回、1年前から通っているというAさんに来ていただき、撮影させてもらった。まずは、10分の念入りなマッサージを行う。髪の毛が抜けると毛穴が締まり、縮れた毛などが生えやすくなるため、頭皮をほぐす。

Aさんは、2年前に子宮にがんが見つかり、抗がん剤治療を受けていた。当時、毛は抜け落ち、ウィッグを使用していたが、20年ほど通っていた美容室ではウィッグのカットができないと言われたという。似合わないウィッグをつけることが苦痛だったとき、Aさんは尾熊さんの存在を知った。

自然に見せるため、あえて不揃いにする尾熊さんのテクニック。さらに、カールをかける場合は、ポリエステル製などのウィッグだと元に戻りやすいため、熱を加えたあと、形を整えたまま冷ます。

人の目が気になっていたというAさんはこう話す。

「ショートって今までできなかった。今は、これくらいでもずっといいかな。本当にありだなと思って。見かけが変わる不安が解消することは、本当に精神的に楽になる」

木曜日にお店を訪ねてくる人は、月に13人ほど。約8割ががん患者で、時間をかけて静岡県から足を運ぶ人もいるそうだ。


■きっかけは“喜びの涙”

尾熊さんが医療美容師になるきっかけは、9年前の出来事だった。尾熊さんはこう語る。

「学生時代の先輩から連絡をもらった。家族が病気になり、美容院に行けなくなったので、家に来てウィッグのカットを頼まれた。終わった時に、涙を流して喜んでいた」

美容師として悩んでいた時期でもあり、仕事を見つめ直すことができたそうだ。


■日本中に医療美容師を

小学生の頃から尾熊さんにカットしてもらっていたという草間美里さんは、14歳のころにがんが見つかり、治療のため3年前まで通えなかった。今回、特別にこちらのサロンでカットしてもらった。草間さんはこう話す。

「(個室なので)安心して髪の毛がなくても、周りの目を気にせず美容室に来られる。自分も病気のときに知っていたら100パーセント来ていた」

今月、自分の髪で成人式にでられたことがうれしかったという。

尾熊さんは、いま抱く夢をこう語ってくれた。

「僕の夢はひとつで、日本中の美容師を医療美容師にして、社会問題を解決すること」