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“世界の労働トップ”「過労死」世界で悪名

2017年5月12日 16:34
“世界の労働トップ”「過労死」世界で悪名

 来日中のILO(=国際労働機関)の事務局長が、「“過労死”は悪い意味で世界中に知られている」として、働き方改革に期待を示した。

 11日、塩崎厚生労働相らと会談したILOのガイ・ライダー事務局長は、日本テレビの単独インタビューに応じた。

 ILO、ガイ・ライダー事務局長「KAROSHI(過労死)という日本語は、悪い意味で世界中に知られています」

 ライダー氏は、過労死につながる長時間労働について、日本政府と連合、経団連、三者の合意で改善を目指す点は評価した。また、残業時間の上限を設けることについては歓迎したものの、最大で月100時間未満とすることには「国際的にみればまだ長すぎる」と述べた。

 そして、「政府や企業は、より多くの人が働けるようにするべきで、今いる労働者を長時間働かせることに未来はない」と提言した。


 ガイ・ライダー事務局長の単独インタビューの要旨は次の通り-。

 ■今回の訪日のポイントは。

 ILOと日本との協力を進めていく。日本はILOの強力な支持者、支援者であり、感謝する。現在、日本では「働き方改革」として、労働の重要な課題に取り組んでいる。非常に興味深くみている。

 ■日本政府がとりまとめた「働き方改革実行計画」についての評価は。

 安倍首相との面会で、首相も強調していたが、政府と連合、経団連という政・労・使の三者が交渉し合意したことは、非常に重要かつ適切で、歓迎したい。長時間労働・残業の問題をはじめ、女性の活用や、社会保障など、多くの課題について取り組んでいると思う。中でも、この長時間労働・残業の問題は重要な問題だと認識している。

 ■残業時間の上限規制については、政府の「実行計画」では、やむを得ない場合は、最大で月100時間未満、年間720時間と定められた。過労死で家族を亡くした遺族からは、「基準が緩い」との声も上がっている。

 残念ながら、過労死(KAROSHI)という日本語は、悪い意味で世界中に知られている。過労死の問題は、残業を含めた長時間労働が、広く社会で行われていることが背景にある。今回、残業時間に上限規制が設けられたことは歓迎するが、国際的な比較でみれば、まだ長すぎると思う。

 ■長時間労働の問題はどこにあるのか。

 長時間労働の問題を考える際の原則が2つある。1つ目は、いかなる仕事も労働時間も、人々の健康や福利厚生を害するものであってはならない、ということ。2つ目は、残業は義務や強制ではなく、自発的に労働者側が選べるものでなければいけない、ということだ。しかし、これは難しい問題だ。社会的、文化的、心理的に残業を拒否しにくいということもある。労働時間を減らしていく、というのは、もちろん重要な課題で、一歩一歩解決していくべきだ。

 労働需給がひっ迫している(必要な労働力が確保できない状態)からといって、既にいる労働者に長時間労働を求める、というのは明らかな間違いだ。これは日本政府も理解していると思うが、重要なのは、労働市場により多くの人を参入させることであって、既存の労働者を長時間働かせることに、未来はない。

 この100年の間、労働時間をいかに抑えるかということは、常に社会の問題になってきた。未来に向け、労働時間が減っていくことを望む。

 ■勤務と勤務の間に一定時間を空ける「インターバル制度」については。

 勤務と勤務の間に十分な休息と余暇の時間を確保する、というのは世界的にも確立された原則で、ILOも重視している。日本での取り組みについては、政労使が話し合って決めていくべきで、それを見守りたい。

 ■ライダー事務局長は2期目を迎え、ILOは2019年に創立100年間を迎える。特に重点的に取り組む点は。

 国連の開発サミットで採択された「完全雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現」の目標を達成するため、ILOは全力で取り組む。この目標達成のため、2030年までに、世界全体で新たに6億人の雇用を作り出す必要がある。国連やG20、国際機関とも協力し、各国の政府に「雇用の創出」を働きかけていく。来週からドイツで始まるG20労働大臣会合でも、議論したい。