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尿のにおいで発見「がん探知犬」の実力は?

2017年5月5日 19:36
尿のにおいで発見「がん探知犬」の実力は?

 山形県金山町が、全国で初めてがんを“におい”で発見する「がん探知犬」による検診を試験的に導入すること決め、話題となっている。人の尿などのにおいをかぎ分け、早期のがんも見つけることができるという探知犬の実力とは―


■尿のにおいから“がん患者”をかぎ分ける

 人の尿などのにおいから「がん」の有無をかぎ分ける事ができるという「がん探知犬」。山形県金山町では、このがん探知犬によるがん検診を全国で初めて試験導入することを決めた。

 このニュースが伝わるとツイッター上でもつぶやき数が上昇。「がんってにおいでわかるの?」「がん探知犬スゴイ!」「がんの早期発見率があがるのかな?」などの声があがった。「がん探知犬」は本当にがんを見つけることができるのだろうか。


■「少ない負担で早期のがんも発見」

 がん探知犬の試験導入を決めた金山町。なぜ、犬による検診なのだろうか。金山診療所・柴田さんは「(がんの)早期発見ですね。極めて早い段階のがんでも発見できる」「検尿ですみますので、受けられる方の負担が極めて少なくてすむという利点があります」と説明する。実は、金山町を含む最上地域では、女性の胃がんの死亡率が全国ワーストというデータがあり「がんの早期発見」と「受診者の負担軽減」が課題だったという。


■「ほぼ100%」予想の上いく探知犬の実力

 では、実際のがん探知犬による検診はどのように行われるのか。千葉県館山市にある「がん探知犬育成センター」を訪ねた。施設内にいたのは、ラブラドールレトリバーのビーちゃん(メス・6歳)。その訓練の様子を見せてもらった。

 用意されたのは、10人分の尿が入ったケース5つ、合わせて50人分の尿。この5つのケースのうち、1つのケースにだけ食道がんの患者の尿1人分を紛れ込ませている。次に、用意したのは大腸がんの患者の呼気が入った袋。尿の患者とは別の人の息だ。この袋に入った呼気で「がんのにおい」を覚えさせる。これは、がんのにおいを確認するためのもので、がんの種類は問わないそうだ。

 いよいよ訓練を開始。ビーちゃんは、箱のにおいをかぎながら進み、4つ目の箱で止まり、振り返った。がん患者の尿が入った箱だ。今度は、5つ目の箱に入れ替えて、試してみても、やはりがん患者の尿が入った箱の前で止まり、振り返った。

 この後、犬が探知した箱に入った10本の検体は2本ずつ5つの箱に分けられ、再びかぎ分けられる。最後は1本ずつ、2つの箱に入れてがん患者の尿を特定する仕組みだ。その精度について、同センター・佐藤所長は「今のところほぼ100%」だと話す。


■「乳がん」のにおいはすでに特定

 金山町ではこの検診に1100万円の予算を計上する。その検診を担当する日本医科大学千葉北総病院・宮下正夫副院長は「負担の少ない検査でがんの疑いがある方を限定する一番効率いい検診の方法です」と話す。一方で、「一度に50人100人の識別が(確実に)できるかどうか」という課題もあるという。宮下副院長はがん探知犬による検診を広めていきたいとしている。

 がんのにおいがわかる「がん探知犬」もさることながら、がんに“におい”がある事に驚いた人もいるかもしれない。実はがんの“におい”は、尿以外にも呼気・汗・唾液・血液などにも含まれているという。

 さらに、このにおいは、がんのある場所によって違いがあると考えられていて、探知犬は乳がんのにおいをかぎ分けられることもわかっている。他のがんのかぎ分けについても研究が進められている。


■課題は「探知犬とトレーナーの数」

 探知犬の能力に期待が高まる一方で、課題もある。ひとつは「がん探知犬が少ない」こと。がんの探知ができる犬は、日本にはまだ5匹しかおらず、遺伝的な要素や性格もあり、簡単には増やせないという。また、犬に才能があっても訓練を行うトレーナーもまだ少ないそうだ。