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何もない…いすみ鉄道が目指した信者顧客3

2017年5月4日 17:15
何もない…いすみ鉄道が目指した信者顧客3

 「いすみ鉄道」代表取締役社長・鳥塚亮氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。3つ目のキーワードは「めざしたのは“信者顧客” 訓練費自己負担の運転士を募集」。ユニークな雇用で話題になった「いすみ鉄道」だが、そのきっかけは鳥塚氏のある「思い」にあった。


■「信者顧客」という考え方

――まずは信者顧客とはどういう意味なんでしょうか。

 マーケットというのは必ずピラミッドになっているわけですね。一番上にいる少数のお客さまというのは、その会社のファンなんです。そして「その会社の商品は、自分は買いたい」という値段の勝負をしなくてもいいようなお客さま、つまり上顧客が、一番上にいるんです。これを私は信者顧客と呼んでいるんです。つまり、ファンなんです。

 で、観光というのはファンビジネスなんです。つまり、「行ってみたいな」とか「いいな」と思わなければ行かないんですよ。だから、その信者顧客の方々は、例えば「ムーミンが好き」「いすみ鉄道が好き」「ローカル線が好き」というごくごく少数の方々にいらしていただく中で、我々は、1時間に1両編成の列車が1本ですから、座席もすぐに埋まっちゃうし―つまり、“会社の器”“ビジネスの器”が小さいんですね。ですから、本当に良さのわかる人たちに少しだけ来ていただこうというのが、私の考えてるビジネス展開で、その代名詞というか、お客さまが信者顧客ということですね。


■「運転士を夢見て、別の仕事をしてる人もいるはず」

――そうした信者顧客の獲得以外にも、訓練費自己負担の運転士、つまり“自腹で”運転士を養成するということもありましたが、これはどういうことなのでしょうか。

 いすみ鉄道のような明日をも知れぬローカル線、これはね、学校卒業した人を新卒で採用して、その人が60歳になるまでの人生を担保できますか、と言われた時に無理なんですね。

 だけど、運転士は高齢化でどんどん何年後にはいなくなるという現実もあるわけです。そういう中で、私も最初にご紹介していただいたように、本当は新幹線の運転士になりたかった、だけど国鉄改革のため募集がなくて入れなかった。同じような年代の人たちが同じような夢を描きながら、実際は今、別の仕事をしている人たちがいるだろうと、思ったのが大きなきっかけです。

 それと、この国の資格を取って仕事をするというシステムの中では、どの仕事でも―例えば弁護士、医者、教師とかも、必ず、まず最初に自分の時間とお金と能力を使って資格を取るんです。それで就職するんです。

 鉄道だけが違うんですよ。これは特殊な社会なんで、大きな会社はそれでもいいかもしれないですけど、我々はそれができないんで、いわゆる資格仕事と同じように、まず最初に自分の時間とお金と能力を使って資格を取りませんかと、取ったらいすみ鉄道で、乗務員として採用しますよと、こういうことをやろうということなんです。実は、別にそんなに奇をてらったものでもないんです。


■線路の維持管理にはお金がかかる

――では、問題の託された再建、経営は回復したんでしょうか。

 これはなかなか難しくてですね、いすみ鉄道だけではないんですけど、今、地方鉄道、地域鉄道というのは、線路の維持管理にものすごくお金がかかるんです。これをある程度ですが、行政の方から補助をしてもらおうという“約束”で成り立ってる部分があります。

 それは、公共交通機関で対極にあるのは路線バスです。路線バスは行政がつくった道路の上を走っていくだけですから、鉄道も同じような土俵で勝負できるようにということが求められているという現実があります。そういう下の部分のお金、路盤の維持管理、線路の維持管理を出していただくという前提でトントンです。

 ですから、そんなにもうかるものでもないし、だからといってそんなに大赤字になるもんでもない。運転士さんもワンマンだからですね。そういう中で、何とかトントンでやってるというのが現状です。

 大雨が降って、線路が傷んだりして何千万級のお金がかかったりするときは、赤字が出たりとか、そういうことの繰り返しですね。


――ただ経営難に陥っていたときのことを考えると、立て直しを図れたと。

 そうですね。売り上げ自体は上がってます。