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帝人会長「不透明な時代だから好奇心を」2

2017年3月29日 20:04
帝人会長「不透明な時代だから好奇心を」2

 キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「日本初の『在宅酸素療法』スタート。帝人にとって初めて患者に寄り添う事業」。医療事業と並び、大八木氏が身近で経験したもう一つの事業「在宅酸素療法事業」とは。


――帝人は1982年、日本で初めて、「在宅酸素療法事業」をスタートさせた。どのような事業か。

 一言で申し上げますと、いわゆる医師の指導の下で患者さんのご自宅で、酸素による治療を提供する事業でございます。

 重篤な呼吸器疾患を持つ患者さんが多数おられます。私どもは人間ですから酸素が当然必要になりますが、こういう病気になりますと長期に入院して酸素を吸入する必要があるということですね。

 元々私どもは、こういう酸素をつくる膜(フィルター)の研究をしておりましたので、そこから装置を開発いたしまして、医師の指導の下で患者さんが酸素を自宅で吸入できるような「酸素療法事業」を始めたということであります。

 やはり患者さんが、病院でなくご自宅で家族と一緒に治療ができる環境、こういうものが日本の在宅医療事業をどんどん進めているということだと思います。


――帝人にとっても、繊維というと「対企業」というか、川上のビジネスだが、在宅医療というのは全く違ったビジネスモデルということか。

 日本でも、このビジネスモデルは初めてですから、かなり私ども自身が相当手探りしながら作ってきた事業です。患者さんにずっと寄り添って仕事をするという事業モデルですから、これは日本にとっても画期的ですが、結構大変なビジネスだと思っています。


■東日本大震災時の対応

 特に日本の場合には災害が台風、洪水、地震などいろんな形で起きてきますので、担当者は24時間、常に担当の患者さんのことを考えて動いています。

 ちなみに東日本大震災の時、患者さんはこの地区には約2万5000人いて、私どもは避難されている患者さん1人1人を探り当てて、1500人ぐらいの担当者を仙台に集めまして、そこから一斉に東北全体を渡り歩いて、全部お世話をしたという実績もございます。

――「対患者」ということで、「対企業」とは違い、目の前の利益を追わない仕事への取り組みがあったのか。

 私どもも事業として当然やっているわけですから、事業性は重視もいたしますが、根本的には患者さんに寄り添う心を、私どもの社員が十分持ってやらないと、こういう形のお世話をする事業はなかなかできないと思いますね。

 ですから、そういう意味で素材産業の、いわゆる私どもはものづくりをして、それを次の、またものづくりをする方々に提供するのと全然違います。

 私どもは、ものをつくって、そのものを病院との契約の中で患者さんのご自宅まで届けて、でも最終的に目的にしているのは、患者さんが健康で過ごせるように、そこのお世話をいろんな形でしていくことなので、モデルとしますとだいぶ異なるモデルになりますね。


――日本は生産性が低いとよく言われるので、経済合理性を高めなないといけないという、ちょっと焦りみたいなことを感じることもある。そういったことで割り切れるものではないと。

 生産性という観点で見ると、おそらく医療の世界というのは、心の寄り添う世界だと思いますので、単純にロボットを持ってきて、患者さんに対して何かを提供するということにはならないだろうと思いますね。

 そこのところがやはり、新しい企業文化というのを作ってまいりますし、日本の新しい医療という姿を作っていくんじゃないかと。