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13年 安倍政権が進める「教育再生」

2013年1月2日 14:17

 安倍首相が「経済再生」とともに力を入れる政策が「教育再生」だ。安倍首相は就任後の会見で、「子供たちの命と未来は危機的な状況にある。いじめや学力低下で危機に瀕(ひん)している教育の再生は政治の責任」と語り、深刻化するいじめ問題の対策と日本の国際的な学力向上が急務であるとしている。

 その安倍政権で「教育再生」を担う下村文科相は、教育再生担当相という新たなポストの兼務となった。下村文科相は、第2次小泉内閣で文部科学政務官を務め、去年の衆議院選挙前には、自民党内に設置された教育再生実行本部の本部長として教育分野での選挙公約をまとめるなど、教育行政通として知られる。

 自らも「去年10月の本部長就任以来、文科相となるべくじっくりと準備を進めることができた。あとは実行するだけだ」と語り、13年は、年初から民主党政権下での教育政策の見直しと教育改革を進めていくことに強い意欲を見せている。

 特にスピード感を持って対応したいとしているのが「いじめ対策」だ。下村文科相は就任後、「出席停止制度の活用など、今できる対策をすぐに断行する」との考え方を明らかにした。さらに、立法化を急ぎ、いじめと犯罪を峻別(しゅんべつ)し、犯罪に関しては警察・司法と連携して強く対応すること、社会全体で「いじめは悪である」という意識を共有できるような教育を強化すること、被害者や家族へいじめの情報を開示すること、などを柱とした「いじめ防止対策基本法」を1月末からの通常国会で成立させる考え。

 また、下村文科相は、民主党政権が目玉政策としていた「高校無償化」に関しても、早々に見直しを表明している。無償化に所得制限を導入し、浮いた財源で低所得者向けの給付型奨学金を作る考え。ただ、13年度に実施すれば生徒・保護者・学校・地方自治体に混乱が生じるとして、新制度は14年春に導入したいとしている。

 そのためには13年秋までに新制度の内容を明確にする必要があり、自民党が世帯収入700万円と試算している所得制限額が妥当かどうかの検討や、私立高校との格差解消の方策など議論が急がれることになる。しかし、所得制限を設けるためには、全世帯の所得の把握が必要となり、膨大な事務手続きが生じることや、サラリーマン家庭などの中間所得者層にとって負担が増えることなど、実施に向けてのハードルも高いといえそうだ。

 一方、民主党が議論を棚上げしていた朝鮮学校の無償化については、就任3日目に、「(北朝鮮による)拉致問題が進展しない中、国民の理解が得られない」として無償化適用しない方針を表明し、関連する法令の改正手続きに入った。さらに、幼児教育無償化に関しては、「厚労省と協力してできるだけ早く進めたい」としている。

 もう一つ、13年早々に打ち出されそうな政策が、子供たちの学力水準低下を防ぐための施策としての「全国学力テスト」の活用だ。小学6年と中学3年を対象とした現在の「全国学力・学習状況調査」は、第1次安倍政権下でスタートしたものの、民主党時代に必修ではなくなった。自民党は、この学力テストを再び全員参加の形式に戻すとともに、さらに新たに高校生にも全国学力テストを導入し、学力水準の担保を図る方針を示している。

 すでに文科省もこの意向を踏まえて導入の検討を開始している。さらに、自民党は高校生の全国学力テストを大学入試に生かすことも検討しているが、これについては「受験の早期化や学校の序列化が進む」という理由から、現場から反対の声が上がることも予想される。

 自民党が強く訴えてきた公約に「教科書検定基準の見直し」がある。この問題に関して下村文科相は、第1次安倍政権で制定した改正教育基本法や新学習指導要領の理念に基づいた教科書選択ができているかどうか「現状や課題を整理した上で判断したい」としている。また、歴史記述に関し、中国や韓国など近隣諸国に配慮する「近隣諸国条項」を見直すとしていた選挙公約に対しても、下村文科相は「政府全体で検討することであり、文科省だけでの判断とはしない」と今のところ慎重に発言している。近隣諸国の反発も予想される中、教科書検定基準の見直しに関しては時間をかけて議論していくものとみられる。

 この他、自民党は、「6・3・3・4の学制改革」、民主党政権においても検討されながらも議論が進まなかった「教育委員会制度の抜本的改革」、東京大学が5年後の導入を目指している「大学秋入学制度の促進」など、大きな教育改革を選挙公約に掲げている。

 これらの方針に関してのスケジュール目標は、まだ明らかにされていない。地方自治体や社会全体のシステムを巻き込むような大きな制度改革であり、13年にはまず政府内での議論をスタートさせ、今後じっくりと時間をかけて検討されるものとみられている。

 一方、安倍首相は、「教育再生」の柱として、学力向上だけでなく「規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度を育む」政策の推進を行うよう下村文科相に指示した。安倍首相は第1次政権の際、「徳育の教科化」を目指したものの、結局、導入は見送られた経験がある。今回もこれを実現したいと、強い意欲を示している。この意向を受け、下村文科相も「中教審で再び議題にしたい」としており、道徳を教科とするかどうかという議論が再び起きることが予想される。

 まず、夏の参議院選挙前までにいじめ対策や学力向上の施策など、異論が出にくく、実現性の高い教育改革を進めつつ、国民的な議論や近隣諸国の反響が予想されるような政策に関しては、夏の参議院選挙で足元を固めてからじっくり取り組んでいくことになりそうだ。