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NYの写真家が伝える、被爆者たちの人生

2011年9月21日 15:04
NYの写真家が伝える、被爆者たちの人生

 日本の被爆者を撮影し続けているニューヨークの写真家が、初めての写真集を日米で出版した。そのもようをニューヨーク支局・正田千瑞子記者が取材した。

 ニューヨークにある日本の書籍を扱う書店で、先月、ある写真集が発売された。タイトルは「FROM ABOVE(上空から)」。日本の被爆者ら戦争体験者51人のポートレートと、1人1人の人生の物語が日本語と英語でつづられている。

 写真を撮影したのは、ニューヨーク出身の写真家、ポーレ・サビアーノさん(37)。ビョークら有名アーティストの撮影を手がける一方で、世界中の戦争被害者の取材を自費で続けている。被爆者の撮影を始めたのは、日本の友人に紹介された3年前にさかのぼる。歴史好きだったポーレさんは高校生の頃から原爆や被爆者に対して疑問を抱いていたという。「原爆については、キノコ雲の写真しか見たことがなかった。あの雲の下にいた人々に何が起きているか知りたかったんです」と、ポーレさんは語る。気がつけば、ポーレさんは日本に6度わたって自費で足を運び、広島や長崎の被爆者を訪ねては、シャッターを切り続けていたという。

 日本テレビでは2010年、長崎の被爆者を撮影するポーレさんを取材していた。当時の映像の中で、ポーレさんは、16歳の時に被爆したという永野悦子さん(83)を前に、「まずはあなたの被爆体験をお聞かせください」と、語りかけていた。原爆で、当時9歳の弟と13歳の妹を失っていた永野さんはこう答えていた。

 「私が死ねば良かったって。原爆が落ちて65年たちますが1日も弟と妹を忘れることはできません」

 ポーレさんは、すぐ写真を撮ることはしない。1~2時間かけて被爆者の体験にじっくりと耳を傾けてからシャッターを切る。彼らの歩んだ人生の重みをたった1枚の写真におさめるために。今回の写真集の出版は、この時の放送がきっかけで実現したという。もちろん、できあがった写真集には永野さんの写真も掲載されている。

 ポーレさんは、今回の出版に対して「本が出版されたのは信じられない気持ちです。被爆者の方々も、誇りに思ってくれればと思います」と、笑顔をみせる。一方で、時間は残酷にも過ぎ去っていく。この写真集が出版される前に7人がこの世を去っていたのだ。広島で被爆した沼田鈴子さん(享年88)は、写真集の印刷開始のわずか1日前に亡くなったという。ポーレさんは胸の内をこう明かしてくれた。

 「また会いたいと言っていたのに。沼田さんに、本当に本を見て欲しかった。だから、私は、日本に急いで何度も通っているんです。戻るたびに最後のチャンスかもしれないと思って。人々が亡くなれば物語も無くなる。沈黙になってしまう。この写真集が彼らの物語を後世に伝える別の道になれたらと思っています」

 ポーレさんが借りているニューヨーク市内の暗室を訪れた。この日、ポーレさんは、ドイツのベルリンで出会った日本人被爆者、外林秀人さんの写真を丁寧に現像していた。現像には、長いときには数日かけることもあるという。ポーレさんは、「話を聞いて欲しいという人がいる限り、自分は世界中を訪ね続ける」「彼らの物語を子供や孫に伝えたい」と思いを語ってくれた。

 ポーレさんは、ニューヨークでも戦争被害者の写真展を開きたいと願っている。