お母さんががんになったら 患者の不安は
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。13日のテーマは「お母さんががんになったら」。日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。
■未成年の子どもがいるお母さんのがん
先週、フリーアナウンサーの小林麻央さんが進行性の乳がんであることが公表された。麻央さんは4歳の麗禾ちゃんと3歳の勸玄くんのお母さんでもある。
国立がん研究センターによると、去年1年間でがんと診断された女性のうち、18歳未満の子どもがいるお母さんは推計で約3万1000人。親ががんと診断された子どもの年齢は平均11.2歳だという。実は、結婚や出産をする年齢が上がっていることなどに伴い、自分の子どもが未成年のうちにがんにかかる患者の問題は近年大きくなっているという。
母でありがんである患者さんに、どんな不安や悩みがあるかを聞いた調査では、「怖いのは死への不安や体の痛みではなく、子どもの成長を見届けられないかもしれないこと」「私がいなくなったらと思うと、それだけで胸が苦しく涙が出る」など自分のことよりも子どもを思う気持ちが多く聞かれた。また、「いつまで生きられるか分からないから、子どもには笑顔で接したいのに精神的に余裕がなく、つい子どもに怒ってしまう」といった答えもあった。
麻央さんの夫・市川海老蔵さんも、先週、麻央さんの気持ちをこう話していた。「小さい子どものそばにいられない母親の気持ち」「私には計り知れないつらさ、苦しさと闘っていると思う」「思わなくていいと思うんですけど『申し訳ないな』という気持ちが強いんじゃないですか」
■お母さんの不安が子どもにも影響
お母さんで乳がんにかかった患者さんを対象に行った調査によると、不安またはうつ状態にあるとされた母親は約5割。こうしたお母さんたちほど、自分の子どもも不安になっていて注意力が落ちたり、内向的になったなどと感じる人が多く、調査は、がん患者の母親を支えることは子どものためにも必要であると結論づけている。
こうしたことから心のケアに取り組む病院も増えている。都内の国立がん研究センター中央病院では、精神科医や看護師などが相談に乗る体制を3年前から整え、相談数が増えているという。
例えば、子どもの前で泣いてしまいそうだという相談には、自然な感情を見せてもいい。ただし、子どものせいや痛みのせいで泣いているのではないと伝えてあげよう、といったように具体的なアドバイスをしている。
また、米国国立がん研究所の小冊子には、お母さんが常にそばにいられなくてもできることが紹介されている。
・子どもの行事に行けなかったら、子どもたちに話をしてもらい再現をしてもらいましょう。
・子どもと一緒に外出できない時には、準備を手伝い、そして帰ってきたらお帰りなさいと迎えてあげましょう。
といったことが挙げられている。
■小学生の作文「ぼくがいるよ」
最後に、子どもの目線から、ある作文を紹介したいと思う。お母さんが病気になった小学4年生の森田悠生くんが書いた「ぼくがいるよ」という作文だ。
「お母さんは、家族をあまり頼りにしないで一人でなんでもやってしまう。でもね、お母さん、ぼくがいるよ。ぼくはお母さんが思っているよりもずっとしっかりしている。だから、ぼくにもっと頼ってもいいよ。ぼくがいるよ。」
お母さんはこの作文を読んで、初めて悠生くんの気持ちを知ったということだが、「小さい頃のイメージで何でもお世話してあげていると思っていたけれど、もっと頼っても良かったんだと気づいた」とお母さんは話していた。
■ひとりじゃない
お母さんががんになったら、闘うことは親にとっても子にとってもつらく大変なことだろう。しかし、先程の悠生くんのように「ぼくにもっと頼ってもいいよ」と言ってくれるお子さんや家族や周囲の人、同じ境遇にある患者さんなど、きっとあなたの周りには誰かいるはずだ。一人で頑張りすぎずに、そんな周りの人たちと共に病気と向き合っていけたらいいのではないだろうか。