【特集・2歳児衰弱死】届かない“SOS”小さな命守るには

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北海道2019.06.13 18:08

住民から虐待を疑う3度の通報がありながら、なぜ、幼い命を守ることはできなかったのでしょうか。「判断の甘さ」を繰り返す児童相談所、その問題点を探ります。

(文集から)
「きょうからお世話になります。池田莉奈です」
12年後の私をテーマにした小学校の卒業文集。作文を書いたのは、池田莉奈容疑者です。
「私の目標は自分の美容室を開くこと」「将来の夢はかわいいお嫁さん」
夢と希望に満ちあふれていた少女。
しかしその9年後、2歳の幼い娘に虐待を加えたとして逮捕されました。
(SNSの文面から)
「かわいい!かわいすぎる!」
「みんな可愛がってくれるからほんと嬉しい」
これは、池田容疑者のSNS。生まれたころは、娘の詩梨ちゃんを溺愛する「親の顔」を見せていましたが、4か月後にはその投稿も途絶えてしまいます。

複数の女性とともにカメラの前ではしゃぐ男。池田容疑者とともに逮捕された藤原一弥容疑者です。
(藤原容疑者の友人は)
「子どもは普段から大嫌いといっていた。短気というかけんかっ早い。捕まってはいないが何人も殴っている」
ことしに入ってから交際が始まったという、池田容疑者と藤原容疑者。このころから、詩梨ちゃんへの暴行はエスカレートしていったとみられています。
今月5日に衰弱死した詩梨ちゃん。体重は平均の半分ほどしかなく、亡くなる2週間前ほどからほとんど食事を与えられていなかったとみられています。なぜ、幼い命を救うことはできなかったのでしょうか。

去年9月、そしてことし4月と5月のあわせて3回、札幌市児童相談所と警察に虐待を疑う通報がありました。
(通報した人は)
「ひどいときは(泣き声が)昼夜問わず。一応行政には連絡したから何かしてくれるのではと思っていた」
4月に通告があった札幌市児童相談所では、家庭訪問をするも池田容疑者が不在で会うことはできませんでした。通告から48時間以内に子どもの安全確認をする、いわゆる「48時間ルール」を守らなかったのです。
(札幌市児童相談所 高橋誠 所長)
「認識が甘かった。児童相談所の中で48時間ルールが徹底されていなかったのは事実」

この「48時間ルール」は、現場でどう運用されているのでしょうか。
札幌市以外の石狩管内などを管轄する、北海道中央児童相談所です。虐待通告は、ここ5年間で倍増し、去年は800件を超えました。これに対し、虐待を担当する児童福祉司はわずか4人。1人あたり200件以上抱えています。
(北海道中央児童相談所 泉親志課長)
「家庭訪問してもなかなか出てこないケースは多い。大変ではあるがやらなければならない。今いる職員でやっていく」

これは、児童相談所と警察による「臨検」の訓練です。「臨検」とは、家庭で虐待が疑われるとき、裁判所の許可を得て、強制的に立ち入る調査のことです。しかし札幌では、これまで1度も実施されたことはありません。さらに、この前の段階にある任意の立ち入り調査も、道内では、この5年間で5件しか実施されていないのが現状です。
(北海道中央児童相談所 泉親志課長)
「緊急性があるかというところ。臨検は長期にわたって(児童に)会えなければ、やらなければならない」

そして、5月に警察から受けた夜間の通告でも、札幌市児童相談所の対応が問題視されています。
(札幌市児童相談所 高橋誠 所長)
「日勤で組んでいる都合上、きょうの対応は難しいと回答した」
札幌市では夜間の虐待通告について、市内3か所にある児童家庭支援センターに対応を委託していますが、今回依頼していませんでした。
(札幌市児童相談所 高橋誠 所長)
「(南区藤野にある施設は)中央区から離れた所にある。現地に行くには1時間かかる計算なので厳しいとやりとりした」
これに対し、中央区を担当する家庭支援センターは、「もし、依頼があれば間違いなく同行していた。詩梨ちゃんのアザを見ていれば虐待の疑いをより早く見つけることができていたかもしれない」と詩梨ちゃんを救えなかった悔しさをあらわにしていました。

こちらは、北区などを担当する別の家庭支援センターです。
(興正こども家庭支援センター 鏑木康夫 主任相談員)
「こちらが夜間緊急対応をしているスタッフの部屋です」
夜間でも職員が常駐し、児童相談所からの依頼に対応しています。依頼を受けるのは、1年に20件ほどですが、すぐに虐待が疑われる家庭を訪問し、子どもの安全を確認しています。
(興正こども家庭支援センター 鏑木康夫 主任相談員)
(距離の制限はある?)
「ないです。必ず初期対応の連絡が入れば、現地に2人体制で向かう」
「Q:警察が大丈夫と言えば会わないことも?」
「基本的には会うべき。非常に虐待は見つけづらいし、発見しづらいと思っているので
子どもたちを守るための活動をしなければならないと思う」
とはいえ、児童相談所からの連絡がなければ動くことができません。その判断は、児童相談所に委ねられているのです。
5月の通告では、児童相談所と警察の主張にも食い違いが見られました。
(札幌市児童相談所 高橋誠 所長)
「児童相談所の同行は難しい感触だった。『警察の訪問が終わるまでは児童相談所からの連絡も控えて欲しい』と要請」『できれば遠慮してほしい』というそういう趣旨のもので」
取材に対し道警は「控えてほしいとは言っていない。同行をお願いしている」とコメントしました。
児童相談所の元所長で、函館短大の家村昭矩教授は、札幌市の主張に違和感があるといいます。
(元北海道中央児童相談所長 家村昭矩さん)
「警察が児相に会うのをひかえてくれと言うのは理解できない。逆に児童相談所が行くときに警察が来ると刺激するかもしれないから前面に出ず後方に控えてほしいと警察に言うことはある」
児童相談所と警察との連携不足も浮き彫りになりました。

これは、札幌市の広報誌。奇しくも今月号の特集は児童虐待でした。「見逃さないで、助けてのサイン」。児童相談所には最後まで、届きませんでした。
(札幌市児童相談所 高橋誠 所長)
「認識が甘かったということでございます。そこは我々の動き、判断の甘さだと思います」
(秋本克広 札幌市長)
「この事案では児童相談所で安否確認の徹底やリスク判断に甘さがあった」
判断の甘さを繰り返す札幌市。「ルール」と夜間でも対応できる「手段」がありながら、詩梨ちゃんを救うことはできませんでした。
(元北海道中央児童相談所長 家村昭矩さん)
「子どもの権利を守る最後の砦が児童相談所と説明してきた。そのことが問われる事件が起きて、元児童相談所の人間として厳しいと感じざるをえない」

虐待事件から1週間がたった12日も詩梨ちゃんに花を手向ける人が絶えません。
(献花に来た人は)
「自分のことのようにもう泣きそうで、もう少し何か助けれあげられなかったのかなと」
泣き叫んでいた小さな命をなぜ守れなかったのか。悲劇を繰り返さないために、迅速な検証が求められます。

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