スパイ、そして・・・スピン

(2006/12/18)


 

ロシアの元スパイ・リトビネンコ氏殺害事件で、
一躍有名になってしまったロンドンの日本食レストラン(寿司バー)「 Itsu ~イツ」。
飲食店が放射性物質汚染の疑いありでは、さぞや意気消沈かと思いきや、
どうしてどうしてたくましい所を見せている。

このほど、休業中の外装をご覧の通りスパイ映画007でおなじみのデザインに模様替えし、
おまけに「国際スパイ事件で一躍世界中で有名になってしまった私たちのレストランをこれからも宜しく」などと、大きく宣伝している。通行人もビックリだ。
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不幸なこの店舗、3週間前の日曜日、当局による検査の目隠しのつもりか
ガラス張りだった店構えが、一面真っ黒な板で覆い尽くされた。
その真ん中に小さく「Itsu」と遠慮がちに店名が書いてあったのだが、
翌朝行ってみると、異変が起きていた。
「Itsu」のロゴが一晩でふた回り位大きくなっている。
どうせテレビに映されるなら宣伝に使ってしまえということか?
転んでもタダでは起きない英国人気質が垣間見えて面白かった。
一定の効果があったか、その後明るいショッキングピンクの装いに変わり、今度はコレである。


マスメディアによって伝えられる映像、情報をいかに自分たちにとって有利なものに導いていくか、
これは企業に限らない命題だ。

先週、ブレア首相は一大ピンチを迎えた。
上院議員への推薦をめぐる労働党への不透明献金問題で、
ついに現職首相として初めてロンドン警視庁の事情聴取を受けたのだ。
当然、その日のテレビはブレーキングニュースとして大々的に伝えた。

だが、翌朝の主だった新聞各紙のフロントページは、別のネタで埋め尽くされていた。

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ちょうど同じ日、ダイアナさんの事故死をめぐる調査報告が発表されていたのだ。
思わずうなった。
「…これがスピン・ドクターの戦略か?!」

政界にあってマスコミ対策を専門にしている広報専門官を通称スピン・ドクターと呼ぶ。
イギリスでは過去にブレア政権のキャンベル氏が有名だった。
キャンベル氏の部下だった元BBC記者の著書
「THE SPIN DOCTOR’S DIARY~スピン・ドクターの日記」には
大手メディアの記者たちとのウラの交流ぶりが赤裸々につづられていて驚く。

彼らは様々な手練手管を用いてスピン(主に、情報操作で都合の悪いニュースから
大衆の目をそらす意味)を試み、メディアを操ろうとする。
例えば政府に都合の悪い発表を、同時テロだとか大きな事件の日に重ねることによって
マスコミの報道振りを小さく抑えるのは基本手法でもあった。

フィナンシャルタイムズ紙の報道によると、
今回の事情聴取の日取りは、ブレア首相の希望で決められたという。
ダイアナさんの報告書発表は以前から決まっていたから、疑念は残る。
英首相官邸「ダウニング10」は当然ながら意図的ではないと否定しているが、
野党は早速「スピンドクターが古い手を使った」と批判している。

スパイの国、情報の国、イギリスにいると、
何事につけて謀略めいて見えてくるのは気のせいだけではないのかも知れない。


スパイの国

(2006/12/11)


 

初秋、英国情報機関の元スパイを取材した。

どこにでもいそうな風貌と、決して本心を明らかにしない、やりとりや表情。
それでも聞き出したい・・・名前を連呼し、訴えては引き・・長いこと、話し込んだ。
インタビューは、まさに「駆け引き」だった。

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ようやく口にした言葉からは、厳しい世界が、かいま見られた。

決して派手ではない毎日だが、
・・・目の前のペンを手に「これでも殺せる」と語った時の目は泳いでいなかった。


イギリスに赴任してから、ここは「INTELLIGENCE=情報、知恵」の国だと感じる。
ロシアの元スパイの殺人事件では尚更、そう感じる。
・・これまでイギリスを支えているのは明らかに、こうしたインテリジェンスだと思う。
それは文化の一つとして発信されている。

真実をかわし、言葉にする文化。皮肉まじりの冗談。
あるいは結論の出ない議論に現れている時もある。

しかし意外な事実に支えられているとも思った。


日本でも今月、公開された新作007ボンド映画。
「ボンドらしくない」との前評判だった主演のダニエル・クレイグ氏は「人間らしいスパイ」を演じきった。
それは、これまで余り見られない、スパイになるまでの「人間くさい・泥臭い」、「失敗もする」姿だった。
これが受けて、映画は好調だ。

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インタビューやプレミアの赤いカーペットで語った言葉は、謙虚で「人間臭い」言葉ばかりだった。
・・・実は、そこがポイントなんだと思った。

スパイ文化への理解はイギリスでは年々、高まっている。
様々な機関があるが、ほとんどが増員されている。

しかし、元スパイいわく「人間らしさ」「葛藤」が大事なのだという。
関わった人たちを亡くしたり、死に直面することがある。
だからこそ「人間らしく」あり、一緒に仕事をした人の逃げ道は守るのだという。

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・・・・時には涙を見せ、時には笑い飛ばして煙に巻く。
だから武器は決して見せなくて済むのだと語っていた。
それを「自然」と国民は受け入れている。

「インテリジェンス」をイギリスは誇り、国力、文化として認識しているのだ。

特に、アメリカとの違いは歴然としてあると感じる。
当事者の訓練も違うというが・・。

去年、遭遇した同時多発テロ取材では、何よりもアメリカの反応との違いに驚いた。
「平静に毎日、行動する」ことを・・・政府も、そして市民も当然としている。

国力というものが何なのか?を感じる毎日。

規模も実情も違うが、「日本」へ向けた刺激を受けざるを得ない。


「外国ボケ」は怖いけど…

(2006/12/10)


 

ドキュメンタリー番組の編集のため先月、1年ぶりに東京に帰った。

ロンドンと東京の時差は9時間(夏は8時間)。東京の方が早く夜が明ける。
普通なら時差ボケに苦しむが、今回は逆。凄く役に立った。

画像 ビッグベン

というのも、例によって編集作業は連日明け方まで続くので、ベッドに入れるのは毎朝6時前後。イギリスでいうと夜9時に相当するから、早すぎる位の健康的な就寝時間となる。
正午の目覚ましで「起床午前3時」の計算になるので起きるのはつらかったが、
生活リズムを殆ど変えないで済んだ。
時差ボケ様サマである。

海外暮らしで本当に怖いのは外国ボケ、あるいは駐在員ギャップともいうべきものだ。
習慣の違う国に暮らしているとどうしても日本国内のセンスとズレが生じやすい。

英国在住30年のビジネスマンに教えてもらった「デワノカミ(ではの神)」なる言葉。
海外かぶれで何かにつけて「イギリスでは…」「アメリカでは…」と
偉そうにぶつ人をいましめるフレーズらしい。
確かに外国で「これは素晴らしい」と思っても、日本の社会、風土に通用するかどうかは別問題。
押し売りは禁物だ。

01.jpgだが、今回製作したドキュメント「敗北外交」の主人公、経済産業省の現役官僚・前田充浩氏は、あえてイギリスを手放しで絶賛した。

「国際会議で、ただ自国の利益だけ主張するんじゃなく、
世界の公益をエレガントに論じている。
それがひいてはイギリスの国益につながっている。うまい」


02.jpg「異端」を自認する前田氏は、
先輩たちが手がけた過去の国際交渉を敗北と断じ、
「資料を残さず反省を生かさない」日本流の組織構造を批判。
イギリス随一のシンクタンク
チャタムハウスに入門し、
タブーを破る研究「日本はなぜ負け続けるのか」を書き上げた。
その前代未聞の試みに注目し、NNNも丸1年にわたり動きを追った。

だが、イギリスを真似るだけでは足りないことも
彼は分かっていた。

「日本が経験した失敗を、新興国のために生かせないか」

前田氏が再び政府代表を務める
OECD(経済協力開発機構)輸出信用部会では今、
急激な経済成長を続ける中国と
国際市場の調和が焦点となっている。
アジアの先頭に立って来た日本が、いかに議論をリード出来るか、
外交力が問われている。

イギリスで多くを学んだと熱く語る前田氏は
「外国ボケ」を超越して、走り出したかに見える。


ヨーロッパとアジアの境界にて

(2006/12/09)


 

ローマ法王ベネディクト16世が初めてイスラム教圏を訪問するというので、
トルコのイスタンブールに行ってきました。
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ベネディクト16世は9月にイスラム教と暴力を結びつける
神学講義を行ったとして、
イスラム世界から大きな反発を受けています。
その問題がまだ尾を引く中での今回のトルコ訪問。
トルコは国民の99%がイスラム教徒で、
かつて先代のヨハネパウロ2世を
銃で狙撃したのもトルコ人だったため、
今回も法王に何かの危害が加えられる可能性は
十分考えられたわけですが、
治安当局はそれを決して許しませんでした。
30112006052.jpgブッシュ大統領の訪問時以上という
空前の警備体制が敷かれ、
法王が行く先々には交通規制やバリケード、
軍のヘリコプターが上空を飛び交い、
市民生活はマヒ状態です。
ここまでの厳戒態勢をとったのには
理由があります。

それは「EU加盟」。

いま法王の身に「何か」あれば、それは加盟が
絶望的になったことを意味するからです。

「ヨーロッパ側」のイスタンブールからボスポラス海峡を渡ると、そこはもう「アジア」。
そもそもトルコが「ヨーロッパ連合」に入ることがふさわしいのかどうか?
「ヨーロッパ人」の中に疑問の感情が存在することは否定できません。
トルコはその違和感を何とか解消して加盟を実現しようとしているのです。
EUからは政治・経済・人権など数々の分野で厳しい条件が突きつけられています。
それをこれから10年ほどかけて一つ一つクリアして行こうという最中に、
「ヨーロッパ」の精神的支柱の一つである法王に危害を加えることなど、
もってのほかというわけです。

08122006060.jpg
事実イスタンブール市民はこうした背景を十分わきまえているとみえて、
インタビューすると「我々も法王を歓迎するので、
法王も我々(イスラム教)のことを理解して尊重してほしい。」といった
優等生的な答えが大半を占めます。
反対デモに参加して気勢を挙げていたのは、
あまり国際事情を理解していない
田舎の人たちがほとんどだったとも聞きました。
一方のベネディクト16世も随所で
イスラム世界に対する気遣いを見せながら、
このあたりの事情を踏まえて
「バチカンはトルコのEU加盟を支持する。」と発言。
結局ほとんど宗教とは関係ないこの発言が
最大のリップサービスとなりました。

というわけで「何か」が起きることもなく、
いや起きるはずもなく4日間の日程は終了。
法王は無事バチカンに戻ったのでした。


セキュリティー

(2006/12/08)


 

NNNパリ支局はモンパルナス・タワーという
高層ビル内にあることを前回お伝えしました。
ビルの屋上にはパリ市内が一望できる展望台があり
世界中から多くの観光客が集まります。

支局.jpg

そのためビルの入り口には警備担当者が立ち
カバンを持っている人は
中を見せなければなりません。
アメリカやロンドンで起ったテロ事件以降
フランス国内でも、年々セキュリティー・レベルが上がりつつあります。

と言ってもそこはフランス。
朝は厳しいチェックであったが、
夕方近くになると気だるい空気に包まれます。
担当者も帰宅ムードになるのか?
警備が緩やかになることもあります。

そのような和やか雰囲気を打ち破る騒ぎが11月上旬におこりました。
モンパルナス・タワーに爆破予告!!
タワー内で働く人々に対して警察から退避命令が下されました。
我々も慌ててビルの外に飛び出しました。
NNNパリ支局として即座に取材したところ
爆弾予告時間がPM4:30、
我々に退避命令が出たのはPM5:30。
遅―――――い!!
予告が本当ならば死んでいたかもしれません。

ビデオ.jpg

フランスらしいと思いつつ、退避命令の解除を待っていました。
日本の常識で考えると、ビルの前は避難してきた人々で溢れかえります。
しかし、フランスでは帰宅時間ということなのか、
ビルから追い出された人々がドンドンと帰路に着きます。
命令解除時にビルへ戻る人々の姿はまばらでした。

これまたフランスらしいと思いつつ
支局へ戻るためにビル内へ入ると
セキュリティー・チェックが突然通常よりも厳しくなっていました。
爆弾騒ぎの後にやっても遅いのでは?????
最後までフランスらしさを感じさせたできごとでした。


パリ紹介

(2006/12/05)


 

タワー.jpg 室内.jpg

パリ市にある高層ビル・モンパルナスタワー。
市内のどこからでも見ることができるため、景観を破壊しているとも????
NNNパリ支局はこのビル内に支局を構えています。
記者2人、カメラマン1人、現地リサーチャー3人の
6人体制で支局は運営されています。

スタジオ.jpg 
こちらがパリ支局の心臓部とも言える支局スタジオセットで
中継映像や取材したテープ映像を日本へ送り届けています。
ヨーロッパ各国では、HDシステムが
まだまだ普及していないため
取材現場の現状にあわせて
HDシステムをまだ導入していません。
しかし、ヨーロッパの取材現場で私が
日本人カメラマンであると分かると必ず尋ねられる質問があります。
「使用しているのはHDカメラ?」
報道現場前線に立つ各国のカメラマンたちも
HDシステムについて非常に興味を抱いているようです。

さて、パリ支局があるモンパルナス・タワーは
パリのランドマーク的なビルのため
911同時多発テロ以降
機関銃を持つフランス軍兵士が毎日警備に当たっています。
日本から観光で訪れた人は
華やかなパリの雰囲気と機関銃のギャップに少し驚くかもしれません。

旧陸軍.jpg
実はフランスでも2001年まで徴兵制が存在していました。
パリ観光の目玉・エッフェル塔の近くには
旧陸軍士官学校があり
現在もフランス軍関係の施設として使用されています。
建物周辺では制服を着た現役の軍人を見かけます。
また、毎月第一水曜日の正午に
パリ市内に響き渡るサイレンの音。
街を闊歩するパリジャンやパリジェンヌたちは
立ち止まりもしませんが
これは空襲警報の訓練の音です。
冷戦の危機が去った後も
訓練としてサイレンだけは鳴り響いています。

日本人が持つフランス・パリのイメージは観光、グルメ、ファッションですが
核保有国の軍事大国と少し意識するだけで
フランスの異なる表情も感じ取る事ができるはずです。