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「大麻使用罪」は必要?

2021年6月12日 4:19

大麻の使用罪を導入するかどうか。大麻規制のあり方などを議論してきた厚生労働省の専門家の検討会は、11日、今後の大麻等の薬物対策について基本的な方向について報告書をまとめました。

議論の焦点は、すでに禁止されている大麻の所持や栽培などに加え、使用そのものを規制する「使用罪」を導入するかどうかでした。覚醒剤取締法では、所持と使用の両方に罰則が科されています。大麻取締法では所持には罰則がありますが、使用は禁止されていません。

■当事者や支援者は─

報告書がまとめられる前、薬物依存症の人を支援する人たちが、大麻の使用罪を作ることに反対の声をあげました。息子が大麻などの薬物使用者だった関西薬物依存症家族の会の代表・山口勉さんは、自らの経験を語りました。

「はじめは、このままでは息子は死んでしまうのではと心配したが、疲れ果て、途中からは、死ねばいいのにと願い、最後には『一緒に死のう、俺が殺したる』と、大切だったはずの息子の命の価値がなくなっていた」

さらに、

「外に救いを求めることはできなかった。他人に息子が薬物依存症だと知られてはいけないと思った。しかし、依存症の問題は私自身、自らでは解決できるものではなかった」と当時を振り返りました。

その後、山口さんの息子は、自助グループにつながることができ、自立して生活ができるようになったといいますが、山口さんらは、厳罰化によって社会の偏見が強まり、当事者や家族が立ち直りの機会を求めることが難しくなると話します。

■報告書に記されたのは

これまで、大麻の使用罪がなかった理由の一つは、大麻草の栽培農家が大麻草を刈る作業の際、大麻の成分を吸い込むことで「麻酔い(ますい)」が起きるためとされています。

しかし、厚生労働省によると、尿検査で大麻成分が検出されなかったこと、「麻酔い」はないことなどが、最近になって確認されたということです。

そのため、報告書には「大麻の使用に対する罰則を設けなかった理由は現状においては確認されず、不正な使用の取締りの観点や他の薬物の規制との整合性の観点からは、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見いだし難い」などとして、他の薬物規制と同じように、「大麻の使用に対し罰則を科すことが必要であるという意見が多かった」と記載されました。

同時に、報告書には、大麻使用罪の導入には、3人の委員から反対意見があったことも明示されました。

「国際的には薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行することになるのではないか」「大麻使用者を刑罰により罰することは、一層周囲に相談しづらくなり、孤立を深め、偏見を助長するおそれがある」などの意見です。

■大麻由来の医薬品も

また、検討会では、現在、禁止されている大麻を原料とする医薬品についても議論されました。

アメリカなど一部の国では、大麻由来の医薬品は難治性のてんかんの治療薬として承認されています。そうしたことなどから、報告書は、国内で、大麻からの医薬品の製造やその薬の使用を「可能とすべき」としました。

こうした薬を必要とする患者にとっては、新たな道が開かれることになりますが、国内での製造などには、他の医薬品と同じように国による慎重な審査が必要となります。

報告書では、このほか、再乱用防止対策についても言及されました。

薬物使用者や家族などへの支援制度を充実させ、「薬物依存等にまつわる偏見を解消し、薬物依存症からの回復や、社会復帰を目指す者を地域共生社会の一員として社会全体で支えていくような取組みを進める必要がある」と記載されました。

また、違法薬物だけではなく、処方箋医薬品や市販薬の乱用実態などを調査、研究する必要性などが明記されました。

■今後は

厚生労働省は、大麻の使用罪などについて、今後、審議会で議論し、早ければ来年春の国会で法改正を目指すとしています。