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950万人検査へ コロナ再来を恐れる中国

2020年10月15日 11:11
950万人検査へ コロナ再来を恐れる中国

中国本土で約2か月ぶりに新型コロナウイルスの発症者が確認された。地元政府は約950万人の市民全員にPCR検査を実施すると発表、徹底した防疫対策の背景にあるのは6億人以上が国内を旅行した国慶節の大型連休。感染拡大の再来となれば経済だけでなく、習近平指導部にも衝撃を与えかねない。


■大型連休後に相次いで感染確認

世界各地で新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、パンデミックの震源地である中国ではウイルスを抑え込んだとして、経済回復への動きが続いている。そうしたなか迎えた中国の建国記念の日に当たる「国慶節」の大型連休。地方政府が割引クーポン券を発行するなど需要喚起もあってか、10月1日からの8連休の観光客数は延べ人数で6億3700万人にのぼった。

前年の連休と比較すると約8割の人出。中国メディアは連日各地の賑わいを伝え、新型ウイルスによる経済の落ち込みから中国は力強く回復していると、これでもかと強調していた。

その連休が終わった直後の10月11日、中国東部の山東省・青島市で3人の無症状感染者が確認されたと地元の衛生当局が突如発表した。感染源は分かっていないが、そのうちの1人、58歳の男性は9月9日から肺結核で病院に入院し、10月4日に退院、その後再び入院治療をすることになりPCR検査を受けたところ陽性となった。現在、中国では入院する際にPCR検査が義務付けられている。

そのほかの2人は53歳の女性と57歳の男性の夫婦。女性は1人目の男性が入院した病院で看護の仕事をしていた。こうした事態を受けて、青島市の衛生当局は即座に病院の関係者や濃厚接触者などを徹底的に調べ、12日になって9人の感染者が新たに確認された。この日までに感染が確認された12人のうち6人は新型ウイルスの発症者と認められた。

また、全ての感染者は1人目の男性が入院していた病院との関連性が高いことがわかり、感染が広がっている恐れが出てきた。すると青島市政府は5日以内に全市民約950万人に対しPCR検査をすると発表。SNS上には市民が列をなして検査を受ける様子が投稿され、河北省や貴州省などの各地の地方政府が「必要がないかぎり青島市には行かないように」と通知を出した。さらに12日午後になって中央政府の衛生当局が、職員を派遣し防疫対策の指導をすると発表した。


■警戒する中国政府、徹底して抑え込みへ

ここまで素早く感染対策を徹底しようとする背景には、国慶節の大型連休の影響があるとみられる。地元政府の発表では連休期間中に青島市を訪れた観光客は延べ約450万人。その中に感染者がいたとなれば、青島市だけでなく中国全土が再び大規模な感染拡大に見舞われることになる。

今年9月初め、新型ウイルスとの戦いで貢献した科学者らへの表彰式で習近平国家主席は「中国共産党の指導と我が国の社会主義制度の優位性を十分に示した」などと述べ、共産党の指導によってウイルスを抑え込んだとアピールした。

青島市で新型ウイルスの発症者が確認されるまで、8月16日から約2か月間にわたり中国本土での発症者はゼロだった。国営メディアは連日、世界各地の感染拡大のニュースを報じる一方、「中国本土での感染者は〇〇日間確認されていない」などと政府の感染対策が効果を発揮していることを強調してきた。

報道が功を奏したのか、市民の間では中国政府を称賛する雰囲気が日増しに高まっているように感じる。世界で感染者が増加するなか、中国だけ感染を抑え込んだとなればそう思うようになるのかもしれない。

こうしたなかで中国政府の初動対応を問う声はかき消され、聞こえてくることはない。しかし、再び感染拡大となれば経済回復への流れに水を差すだけでなく、批判の声が吹き出す恐れもあり、中国政府は徹底してウイルスを抑え込む構えだ。


(NNN中国総局 古江正彦)