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19人殺した君と重い障がいのある私の対話

2020年3月13日 17:21
19人殺した君と重い障がいのある私の対話

重度の障がい者と19人を殺した植松聖被告が交わした4通の手紙と拘置所での対話。

八木さん「人間が“殺される権利”は無いんです」

植松被告「それは違う。僕は人間だと思っていません」「差別ではなく、区別です」

八木勝自さん(65)。脳性まひのある、重度の障がい者です。

八木さん「19人を殺害して。そんな短時間にやる心理が分からん」

2人の対話は、八木さんが植松被告に手紙を送ったことで始まります。

八木さん「拝啓 植松被告様へ」「私は首から下が自分の意思で動かせなくて、言語障害は多少ありますが、意思疎通のできる障がい者です」

半月ほどして、植松被告から手紙が。

植松被告「八木勝自様お手紙を拝読致しました」「手足が不自由な生活は不便で腹立たしいと思います」

手紙には植松被告が描いたイラストが添えられていました。

八木さん「(植松被告を)死刑にしてそういう問題をただそれだけで解決していいのかな?と」

障がい者施設での生活を経験した八木さんだから感じる疑問。

八木さん「私が一番軽度(の障がい)だった。朝食は40人を4人の職員で食べさせにゃいかん。それを押さえ…、(職員の)股に(顔を)挟んで」

劣悪にならざるを得ない環境。障がい者施設で働いていた植松被告も追い込まれたのではないか?

八木さん「異常な世界で、施設にあと2、3年いたら(自分も)死んでしまえと思ったかもしれない」

23歳の時八木さんは、周囲の反対を押し切って施設を飛び出し、“生きる喜び”に気づきました。

八木さん「障がい者をかわいそうとか不幸とか言うのは、健全者の一方的な押し付けであって、私たち障がい者から言えば、出来なくったっていいじゃないかと言いたいのです」

その“想い”を2通目の手紙に込めました。

八木さん「人は長く生きていれば誰だって1人や2人は殺したい人はいます。当たり前のことですが絶対に実行してはいけない。植松被告様、本当はどうなのか?実際に接見したいと思っています」

植松被告「お手紙を拝読いたしました。これから意識の無い重度障がい者は安楽死すべきと考えております」

最後に「接見に応じる」とありました。八木さんは富山から植松被告のいる横浜拘置支所へ。

植松被告「はじめまして」

八木さん「植松さんの手紙の文章も丁寧ですごくいい青年だと思った。だからなぜ?こんな事をしたのか?と疑問に思っていた」「人間が“殺される権利”は無いんです」

植松被告「それは違う。僕は人間だと思っていません」「八木さんとは意思疎通が取れているじゃないですか。理性、良心があることが人間だと(自分は)考えているので」「差別ではなく、区別です。差別は偏見に基づく。区別とは違う。意思疎通が取れない人は、有害だから」

八木さん「違う!」

植松被告「“意思疎通ができない人を守る”という立ち位置は改善すべきです」

八木さん「植松さんは死刑になると思うけど、私は生きていてほしいと思う」

植松被告「ありがとうございます」

30分間の接見。深くお辞儀をし、立ち去りました…

八木さん「予想の10倍から100倍ほど深刻だなと思った。(自分の言葉が)響いてほしいなと思う」


――今ご覧いただいたVTRはあさって日曜日のNNNドキュメントで放送予定です。今日はそれに先駆けてショートバージョンでご覧いただきました。そして武道さんは取材者として植松被告と八木さんの接見に立ち会っていらっしゃいます。私が今見まして、八木さんが「10倍、100倍深刻だ」と話している姿がすごく心に残ったんですが、あれはどういった意味で、言葉を残されたんですか。

世間一般の皆さんが持っている残虐な事件を起こした人物のイメージと実際会ったときの植松被告のイメージがものすごくギャップがあったんですね。そこで、頭が混乱してしまった。そして、今回の接見で八木さんはいくつか伝えたい言葉があったんですが、自分の意見と被告の意見がどうしても平行線をたどってしまうわけなんですね。その結果、「この事件の本当の問題っていうのは想像以上に根深いものがあるんじゃないか」ということで、あの言葉になったんだと思っています。


――なるほど。武道さんも実際に接見に立ち会われまして、植松被告を実際に見てみてどんな印象を受けましたか。

そうですね。八木さんも私も同じ印象を受けたんですが、ごくごく普通の青年でした。街のどこにいても、もうわからないぐらいの普通の。しかも礼儀正しくて、言葉遣いも丁寧でした。この接見の前に私がすごく心配していたことがありまして、八木さんは両手両足が不自由で、自分の意思で動くことができません。もしその事件のあった現場に八木さんがいたとしたら、もしかしたら殺害されていたかもしれない対象なんですね。その人が目の前に現れたときに、ちゃんと会話が成立するんだろうか、もしかして意見が食い違って数分で退席してしまうんじゃないかっていう心配がありました。しかし実際に会ってみると、30分間ちゃんと八木さんと植松被告は目を合わせて最後まで八木さんの言葉に耳を傾けている。そういう姿がとても印象的でした。


――すごく真面目そうな人柄が伝わります。

だからこそ「意思疎通のとれない人は人間ではない」というような、時折ドキッとするような言葉を淡々と言っているんですね。それが逆に怖いなという感じも受けましたね。


――接見では、平行線で意見は交わることはないまま終わった、ということなんですが、この後、八木さんはどんな活動をしていますか。


富山に戻って、地元の福祉施設ですとか大学の中で自分が見て感じたこと、接見で交わした言葉などを報告していますね。この今回のVTRの中には登場していないんですけれども、NNNドキュメントの中には盛り込みました。その福祉施設の中で、意思疎通が取りにくい言葉で会話することができない女性の感情があふれ出しているシーンがあるんですけれども、それは本編でぜひご覧いただきたいなと思っていますね。


――あさって放送されるんですが、こちら視聴者の皆さんにはどう見てもらいたいですか。

今回、八木さんという1人の富山に住む障がい者の目線で番組を描いています。事件が起きたのは神奈川県なんですけれども、そこと400キロも離れた富山でも、こうして影響されている、考え続けている人がいるっていうのを知っていただきたいですし、この事件だけを追うのではなくて八木さんが接見する中で言葉を交わす中で、だんだん八木さんの頭の中の考え方が変わってくるんですね。 そうした八木さんの行動ですとか、言葉から、この事件の背景にある問題の本質っていうものを皆さん一人一人に考えていただきながら見てもらえればなと思いますね。


――こちらの『19人を殺した君と重い障がいのある私の対話』は、3月15日、日曜深夜放送のNNNドキュメントでフルバージョンで放送予定です。皆様ぜひご覧ください。