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ドキュメンタリーを撮影する上で大切なこと

2020年2月21日 17:53
ドキュメンタリーを撮影する上で大切なこと

電気も水道もない山奥で過ごす夫婦の生活を足掛け25年以上にわたり、晩年まで追い続けたドキュメンタリー「ふたりの桃源郷」。その作品について山口放送報道部の佐々木聰氏に話を聞いた。


――胸がきゅんとなるほど、仲良しのお二人ですよね。私が見てすごく印象に残っているのは、ご家族が集まった時に、おじいちゃんが山で最期を迎えたいって話した時に、ご家族の皆さんが泣かれていたあの場面ですね。きっとおじいちゃんの気持ちも大事にしたいという気持ちもありつつも、やっぱり山での生活が不安で心配なので、止めたいという二つの気持ちがせめぎ合っているんだろうなっていう部分ですごく胸がきゅっとなりました。あとおばあちゃんが山に向かって「おじいちゃん!」って力強く叫んでいるところの場面も愛を感じました。会いたいんだなという気持ちも伝わりましたね。佐々木さんはお二人を取材するきっかけは何だったんですか。

きっかけはですね、取材は僕が始めたわけじゃなくて、一回り年上の先輩が、だいぶ前に始めていて、その映像を見て、もう一瞬で心を奪われて会いたいと思ってですね、先輩はもう取材を終えていたので。その続きを撮りに行ったという感じなんですよね。


――先輩から引き継がれて、佐々木さんはどれくらいの年月取材をされていたんですか。

だいたい20年ぐらいになります。


――20年以上もされて。始めた当初、20年以上も取材をすることになると思いましたか。

いえいえ、思ってないですね。僕たちの番組っていうのは、なんとなく生まれ落ちるような感じなんですよ。


――生まれ落ちる?

番組を作ることを最終目標にしてないというか、やっぱり日々伝えることが僕らのローカル局の本分だと思いますので、日々のニュース番組、情報番組でまず取材に行ってすぐデイリー番組の中で短く伝える。そして、また知りたい、もっと深く知りたいと思ったら、また取材に行ってまた伝える。それを繰り返して、例えば春に行ったり、今度は秋に行ってみよう。そんなのを繰り返してるうちに、この節目に番組化してみようかと。なんとなくそこでぼろんと生まれ落ちるような感じなんですよね。


――企画書はないということですか。

そうですね。最初に企画書を書いてしまうとそれに縛られてしまうので。やっぱり伝えて、取材に行って、伝えて、取材に行って、伝えて。その繰り返しですね。


――この取材の中で一番印象に残っていることって何でしょうか。 

おじいちゃんおばあちゃんの人生を撮らせていただいたんですけれども、それにもかかわらず最大の節目とでもいうべき、おじいちゃんが亡くなった時に、その死に目に会えなかったんですよね。番組などでも全く葬儀のシーンとか映ってないんですけれども、それは撮れてないっていうことなんですよ。

結局僕の心がその桃源郷から離れている時期があって。これは申し訳ないことしたなと。電話をした時にはもう亡くなられた後で、三女の恵子さんが電話口で泣きながら謝るんですよね。悪いのはこっちなのに謝ってですね、電話をすると弱っていく姿を撮って欲しいから電話をするようで嫌だったと。亡くなった時もお葬式を撮ってもらうような感じがして嫌だったと。お願いするような感じでと。やっぱり勉強になりますね。ふがいなさみたいなものを感じました。


――20年以上寄り添っていて、佐々木さんの中でもそこはちょっと後悔が残っているんですかね。

そうですね。


――なるほど。佐々木さんがドキュメンタリーを撮影する上で、ディレクターとしても大切にしていることを教えていただけますか。

させていただく感覚。僕たちディレクターの間でよく話題に上るのが、距離感っていうもの。どういう距離感でやっていくか、みんな悩みながらやっていると思うんですけれども、僕はその距離感がかなり近い方なんですよね。喜怒哀楽を共にしながら一緒に悩みながら笑いながら日々撮りながら、いつの間にか番組になるっていう感じなんですけれども。近いだけに、どの対象ともやっぱり衝突とか揉め事とかって必ずあるんです。

NNNドキュメントこれまで20本くらいやったんですけれども、どの対象ともあって、それが回復されて信頼がより強くなるんですけれども、そういう衝突や揉め事の原因は大抵こちら側にあるんですね。それは何かっていうと、僕たちが放送する側のおごりのようなもの。取材する側、放送する側の取材の都合、放送の都合で無理を言ってしまったりってときに大体衝突するんです。

そういう時にやっぱり僕たちって地域で同じような目線で共に生きる生活者でなければいけないっていうのをまず思いますし、大事にしなきゃいけないのは、させていただく感覚。取材をさせていただく、撮らせていただく、聞かせていただく、その場に居させていただく、その感覚って忘れちゃいけないなって思わされるんですよね。


――私たち、アナウンサーもディレクターの目線を持つのが大事だとよく言われるんですが、ディレクターさんとして大切にしていることって何かありますか。

心って大事だと思うんですよ。大事なものは、他にもいっぱいあると思うんですけども。結局、僕だって代用がきかないんですよ、心だけは。

文章力とかセンスとかなんとかは、そういう人たちに手伝ってもらえばいいけど、心だけは真ん中にいるディレクターが持って、きちんと伝えるという強い心を持っていないとうまくいかないのかな。

そのディレクター、制作者が強い心を持っていればまず被写体が心を開いてくださって、被写体の心に入れてもらえる。ディレクターの心に今度はカメラマンや音声マンも、共鳴してくれて、より良いものが撮れていますね。ぐるぐるって撮れたものがバンッと番組として出たときに、それは視聴者の心に必ず届くと思うんです。

その心に届いた視聴者がリアクションとして返してくれて、またそれが制作者の心の糧になると思うんで、やはり心ってすごく大事なんじゃないかなって。


――技術うんぬんよりも、もう真心で、それはもう相手に伝わるんですね。

そう思ってやっています。


――この“ふたりの桃源郷”の作品を見たいという方もいると思うんですが、そういう方はどうしたらいいですか。

映画の公開から、もうすぐ4年で劇場公開もほぼ終わっているんですけど、今でも各地で実習上映会というのが開かれているんです。少しお金かかるんですけれども、お申し込みいただければどなたでも開くことができますので。


――山口放送にお電話したらいいんですね。そしてこの“ふたりの桃源郷”の作品は本にもなっているんですよね。私は映画を見た後に、本読ませていただいて、映画では見えなかった部分も事細かに書かれていて、また深みが増しました。この本を読んだ後に、また作品は見かえしたくなりました。佐々木さんとご家族とのふれあいが本には、つまっていたので、こちらもまた新しいドキュメンタリー作品を見ているような感覚になりました。でも佐々木さんとお話ししていると何か私もちょっと心を開いています。