×

人気は「綱引き」、北朝鮮が祝う旧正月

2020年1月31日 15:40
人気は「綱引き」、北朝鮮が祝う旧正月

旧正月を迎えた北朝鮮で市民たちが爆買い。北朝鮮の正月は元日だけではありません。旧暦の正月である、旧正月もあります。

この日は、金主席と金総書記の銅像に花束を持って、新年のあいさつをします。国営放送ではこんな特別番組も――

「私たち誰もが喜びを抱いて幸福の中で迎える2019年の旧正月です」

芸術家たちが書や絵などで、その年の抱負を表現します。

「万難を乗り越えようとする人民の不屈の闘争精神がこもった我が祖国の国鳥です」

「我々は新年も必ず人民の楽園を作り上げることでしょう」

おめでたい気持ちに、財布のヒモもゆるみます。デパートには客が押し寄せ、化粧品などを買っていきます。

そんな旧正月で欠かせない食べ物があります。「トック」という伝統料理です。トックはスライスした餅に、卵焼き、豚肉などをトッピングした、朝鮮風の雑煮です。

トックを出す店は満席。これを食べて、1年の汚れを落とし、きれいな気持ちで新年を迎えるといいます。

金正恩委員長は2014年の談話で、「民族遺産保護事業は、我が民族の歴史と伝統を、輝かせる愛国事業である」と語り、伝統を守ることを強調しました。

お祝いムードにわく各地では、民族衣装に身を包んだ子供たちが、コマを回し、凧(たこ)あげにも興じています。

特に盛り上がるのが綱引きです。北朝鮮では人気の高い、伝統的な遊びです。伝統文化を推奨する背景には民族の誇りと、愛国心を高める狙いがありそうです。


【日本テレビ国際部・山口眞穂記者による解説】


――今日で1月も終わりますし、正月と言えば過ぎ去ったことのように思えますが、北朝鮮ではこの時期にお正月なんですね。

そうなんです。中国の春節は有名ですが、北朝鮮でも、旧暦のお正月をお祝いするんです。今年は、1月25日が旧暦の元日にあたります。北朝鮮の旧正月の様子の中で印象に残ったものはありますか?


――「トック」お餅を使った料理がおいしそうだなと思いました。凧あげやコマなどは日本と共通する部分も多いのだなと思いました。

そうですね。日本でもなじみのあるものが出てきましたよね。そのほかにも、金日成主席と金正日総書記の銅像に花束を持って挨拶に訪れる様子もうかがえます。北朝鮮では旧正月はもちろん、祝日には市民が銅像に挨拶をする姿が見受けられます。


――そもそも北朝鮮のお正月というと、昔から旧正月のことを言うんですか?

実は、北朝鮮が旧正月をお祝いするようになったのは、ここ30年のことなんです。韓国の聯合ニュースによりますと、金正日氏が「民俗的風習である旧正月をよく祝うように」と指示したことで、1989年から旧正月のお祝いが始まったということです。


――30年前に旧正月が復活したということなんですね。

そうですね。凧あげやコマ回しなどが行われるようになったのも、この頃からといわれています。


――北朝鮮が旧正月を祝うことには何か意図があるのでしょうか?

その意図というのが『民族の伝統と愛国心』です。韓国の聯合ニュースによると、金正日総書記の指示で2003年から旧正月の休みが1日から3日間にのばされたんです。より盛大にお祝いされるようになった背景には「愛国民族愛」の思想が含まれているということなんです。また、金正恩委員長は2014年の談話で民俗あそびや伝統的な料理などを「民族の歴史と伝統を輝かせる愛国事業である」として、奨励するように強調したんですね。こういった背景から旧正月に伝統的なあそびなどをすることで、北朝鮮の人々の愛国心を高める狙いがあるといえます。

――金正恩委員長自身はどのように旧正月を過ごしたのですか?

北朝鮮の国営テレビでは、金委員長が旧正月の記念公演を観覧する姿が報じられました。金委員長の奥さんである李雪主夫人と妹の与正氏、さらにおばにあたる慶喜氏も同席したということです。


――夫人、妹、さらにおばと親族そろって観覧したんですね。

はい。旧正月というタイミングで親族がそろって姿をみせたことには意図があるんです。北朝鮮政治に詳しい慶応義塾大学の礒崎准教授によりますと、金委員長は過去に「家庭」の重要さを説いたことがあるんですね。旧正月というタイミングで親族そろって観覧する姿をアピールすることで「旧正月は家族とともに過ごすもの」という朝鮮の伝統を自ら体現したとみられるということです。


――金一族の結束の強さのアピールにもつながりそうですよね。そして、旧正月も終わって、いよいよ本格的に新年を迎えた北朝鮮ですが、今年の動きは、どうなるのでしょうか?

やはり注目されるのが、アメリカとの非核化交渉の行方です。


――去年も米朝首脳会談が行われましたよね。G20の後はとても印象に残っていますね。

そうですね。金委員長とアメリカのトランプ大統領は過去3回、会談を行ったのですが、米朝交渉は、膠着(こうちゃく)しているんですね。北朝鮮メディアによりますと、昨年末の党中央委員会総会の報告で、金委員長は核実験とICBMの発射実験を中止することに関して、「我々がこれ以上一方的に縛られている根拠はなくなった」と主張したんです。つまり、核実験とICBMの発射実験を再開する可能性を示唆したんですね。非核化交渉が進展しない中で、このようにアメリカを牽制して、経済制裁の全面的な解除などの譲歩を求めているんです。


――なるほど、米朝交渉の行方は、今年も注目していくことになりそうですね。


【the SOCIAL viewより】