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北朝鮮が国民に台風対策を呼びかけた理由

2019年10月11日 18:22
北朝鮮が国民に台風対策を呼びかけた理由

これまで北朝鮮は、自国の災害について大々的に報じることは、ほとんどなかった。しかし先月7日、北朝鮮の国営テレビでは放送していた映画が中断され、台風対策を呼びかける臨時ニュースが流れた。日本テレビ国際部の伊澤璃穂記者に話を聞いた。

――日本では災害報道というのはよく見るものですが、北朝鮮では珍しいのでしょうか?

全くなかったというわけではないのですが、事前にこれだけ大きな台風が来るのだから対策をしっかり取りましょうという報道をしたことは異例中の異例だったといえます。


――金委員長が緊急会議を開いたことが紹介されていましたね。

はい。金委員長が事前に緊急会議を開いて、万全の対策をとるよう指示したこと自体、極めて異例で、これには国民に寄り添う姿をアピールする狙いがあるのではないかと指摘する専門家もいます。

金委員長はかねてから「人民生活の向上」を重視する政策を訴えていて、緊急会議の中でも対策が必要なのは「人民の生命と財産を守るため」だと明言しています。

金委員長がこのような発言をしたことを国営テレビなどで大々的に報じることで、災害報道までもプロパガンダとして利用した可能性があるといえます。


――この台風被害に対する復旧活動についてはどう報道されましたか。

国営メディアでは、被災地に派遣された軍などによる復旧活動が繰り返し報道されましたが、その際には「金委員長の意向で軍が派遣された」ということが強調されていました。

つまり、金委員長としては人々の「忠誠心をより高める狙い」があった可能性があります。北朝鮮では、今年8月に憲法の一部が改正され、金委員長の権限が法的にさらに強化されました。

盤石の体制が行き届いているのであれば、そのような必要はなく、今回のように金委員長が人民を慮(おもんぱか)る必要もありません。つまり、災害報道を通して「人民生活の向上」を重視する指導者を印象づける狙いがあったのではないかという見方もあります。


――その一方で、北朝鮮は現在、国連などによる経済制裁を受けていますよね。

北朝鮮としては「経済制裁の解除」が大きな課題の一つです。北朝鮮とアメリカは今年2月にベトナム・ハノイで2度目の首脳会談を行いましたが、その中で北朝鮮が求めたのもやはり「経済制裁の解除」でした。


――現在、北朝鮮とアメリカの協議はどうなっているんでしょうか。

先週、スウェーデンのストックホルムで約7か月ぶりに非核化をめぐる米朝の実務者協議が行われました。北朝鮮としては経済制裁の解除を念頭にアメリカと非核化にむけた交渉を再開したのですが、協議後、北朝鮮は一方的に決裂を主張しました。そして、ICBM発射実験の中止の見直しも示唆し、アメリカに対してより大きな譲歩を迫ったとみられます。

金委員長は今年4月の最高人民会議で、年末まではアメリカの変化を待つという方針を示しています。したがってここから年末にかけて、北朝鮮がアメリカとどのような駆け引きを行っていくかが注目されます。

【the SOCIAL viewより】