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地球をケーキで…令和時代の「平和学習」

2019年8月9日 13:41
地球をケーキで…令和時代の「平和学習」

世の中で議論を呼んでいる話題についてゲストに意見を聞く「opinions」。今回の話題は「令和時代の平和学習」。長崎出身の被爆3世で、高校時代から平和運動に携わっているコピーライターの鳥巣智行氏に聞いた。

口コミ旅行サイトのトリップアドバイザーが発表している最新の「旅好きが選ぶ!博物館ランキング」では、広島の平和記念資料館、東京の国立博物館を抑えて長崎原爆資料館が1位となった。

しかし、長崎原爆資料館の入館者数は、戦後50年を過ぎた1996年以降減少を続け、この15年間は、おおむね70万人前後で推移しているのが現状だ。来年は原爆投下から75年。年々、被爆体験者が減少していく中、戦争の悲惨さを、誰がどのようにして、次の世代に伝えていくかが、課題となっている。


――戦争の爪痕が残る昭和から平成を経て、令和を迎えました。これからの「平和学習」はどうあるべきか、ご意見をお願いします。

『「学ぶ』から「考える」へ。』と書きました。やはり74年前の歴史を自分事として捉えるのは、相当な想像力やリテラシーが求められるのかなと思います。戦争体験者が高齢化していき、さらに核兵器を巡る情勢も変化していく中で、過去の歴史を受動的に学ぶだけではなくて、核兵器の廃絶をどう実現するのかという解決策を能動的に考えるような学びが求められていると思います。


――鳥巣さんは実際に学習プログラムを考案されていますが、具体的な内容はどんな感じなのでしょう。

たとえば「Peace of Cake」というものがあります。これはひとつのケーキを平和的にどう分けるのかというゲーム仕立てになっています。ただ単純に分けるだけではなくて、途中でカードを配って、例えばキャラクターを設定すると。独裁者であったり、腹ぺこというキャラクターだったり、あるいはイチゴ好きだったり…そういうキャラクターを与えられると利害関係みたいなものが発生して、単純にケーキを分けられないという状況が発生してきたりします。

また途中でハプニングやルールのチェンジなどのカードを引いてもらうんですが――例えば「革命が起きた」みたいなことがあると、さっきまで力を持っていた独裁者の力がなくなるとか、「差し入れが届いた」というハプニングが起こると、腹ぺこだったキャラクターの人が急に食べたくなくなったりします。そういった形でいろんな条件や状況が変わる中で、どうやって平和的にみんなでひとつのケーキを分けることができるかということを考えるゲームです。


――このプログラムに参加している人の反応はどうでしょう。

はじめはゲーム感覚で非常に楽しんで、学びの入り口を楽しくしているんですが、最後は、実は「ケーキを地球に見立てている」という話をします。そうすると均等に分割することが必ずしも平等ではないんだということや、あるいは相手のキャラクターを知らないと本当に平和的な解決はできないなど、楽しく学びながらも「気づき」があるといったような感想をいただきました。


――実際に自分事として考えることが大事になるわけですね。

そうですね。そういった仕組みをうまく工夫しながらつくっていけるといいかなと思います。


■鳥巣智行氏プロフィル
コピーライター。長崎出身の被爆3世。高校時代から平和運動に携わり、現在は東京の広告会社でコピーライターとして働いている。その傍ら長崎にも拠点を置き、被爆体験の記録活動や平和学習に取り組んでいる。平和学習には「学ぶ」だけではなく、「具体的に争いを解決し、平和につなげる仕掛けが必要」という。今月、ゲームを通じて「考える」平和学習プログラムのベータ版をリリースした。


【the SOCIAL opinionsより】